「さあお兄ちゃん説明して!何故今まで黙っていたの?!!」
私たちが居るのは私のマイホーム。団体様向けじゃないから奥の方でザップとレオくんが狭いだの何だのと喧嘩をおっぱじめている。そして私の目の前では全力で申し訳なさを身体で語る兄・クラウスの姿と、まあまあと仲裁に入るスティーブンさん。いや貴方も知ってたよね。
「す、すまなかった……別に知らなくても生きていけるし、その、すまん……」
「……私は何者なの?化け物?」
「ナマエのお父上は人間で、母上が人間と吸血鬼のハーフだった。つまりナマエはクォーターだ」
「だから血を操る力は残ったけど基本は人間なの?」
つまり応用として考えていた血を抜く行為は、そもそもが本来の姿だったのだろう。そんなことを頭に巡らせながら尻すぼみに疑問を投げかければ、スティーブンさんがそう不安がるなよ、と陽気な声で返してきた。
「恐らくベースは人間だ。むしろ回復は遅い方だろう?まあ、能力を使った後に倒れるのは能力に使う労力が身体にとってキャパオーバーなんだろ」
「……まあ知ったところで何ひとつ変わらないもんね!おけおけ!」
軽っ!ナマエ軽っ!!と玄関のケンカップルにダブルツッコミされ私はへへ、と笑ってみせる。ただ、と先程のやり取りを続けたスティーブンさんと隣のお兄ちゃんは神妙な面持ちだ。
「自覚してしまった以上は念のため鉄分を多く摂取してくれ。サプリメントは置いてくから、いいな?」
「うん、分かった。ありがとう」
「間違っても人の血を飲むなよ。味を知ってしまえばいくらクォーターといえどうなるかわからないぞ」
それじゃ、と言い残してみんな立ち去っていく。部屋に籠り残ったみんなの香りに少しだけくらくらする。きっと能力を使って貧血気味だからだ、そうに違いない。そう言い聞かせて私はサプリメントを口いっぱいに飲み込んだ。
コップに残った白湯もごくり、と全て飲み干すと、玄関からガチャン、と来訪を伝える鍵の音。
「……やっぱりな」
「ざっぷ………なんで?」
「なんでじゃねーよ、顔色がゲテモノだぞ」
そういってザップは私の右頬をするりと撫で上げる。熱のせいなのか何なのか、頭はほとんど使い物になりゃしない。私は冷えた彼の手に頬ずりする。つめたくてきもちい。
すると視界の端で見慣れたジッポを握りしめる手が見えた。何をするの、と聞き終える前にジッポは握り締められ、これまた見慣れた色の液体が流れ出た。
「おら、飲め。しんどいんだろ」
「え、でも……」
さっき飲むなと言われたばかりなのに。そう漏らせばいいから飲めクソナマエ!といつものザップが私の口に掌を押し込む。苦しさに暴れようとしても、前線で戦う(挙句女癖の悪い)ザップに寝技で勝てるわけもなく、彼の手と足と血に抑え込められる。
ああすごくいい匂いがするなぁ。飲んだらすごく美味しいのかなぁ。飲んでみたいなぁ、でも駄目だよなぁましてやザップの血なんか一度飲んだらきっと一生飲み続けても飽きない気がするし忘れられない気がするなああ飲みたい飲みたい飲みたい舐めたい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい………!!!
重力に負けて私の喉に滴り落ちた一滴の血を合図に、私はストッパーが外れたかのごとく彼の手を舐り始めた。一滴も残さず舐めとろうと満遍なく舐めていると、ザップが情けない声で静止しようとするけど待てない、我慢できない。
「は、ちょ、おい!!ちょっと待て待て待てもっと普通に飲めないのかよ!!!」
「く、はぁ……んう……ごちそうさま」
「!………おう、じゃあ、俺、帰るわ。」
それだけ言うとザップは勢いよく立ち上がり玄関に向かってしまう。「まってザップ、ここにいて」。頭が茹り切った私は何時もなら我慢できる本音がぽろぽろと溢れてしまう。溢れた言葉への情けなさにまた涙が浮かんでしまう。そんな私の様子を見たザップはうっ、と漏らして数秒、大音量で本音を投げつけて乱暴に玄関から飛び出してしまった。
……今、なんて言った?
(今のお前と居たら襲いそうでしゃーねーんだよ!!)
ぼくだってままならないんだもの