「あ、このワンピース可愛い」
「ザップさんに買って貰ったら?」
「アレのどこにそんな金あるの?」
「それもそうだ」
ふむふむと納得したレオがポケットに手を突っ込んだのを合図に、私は愛らしいワンピースに別れを告げてウィンドウショッピングを再開した。あまりの運命の出会いの無さに、ストールを弄る手が止まらない。
つい先日のミッションで服を一着駄目にしてしまった私は、レオくんとゲットーヘイツまで足を運んでいた。ガラスの向こう側では愛らしい服が並んでいるが、流行の所為かスカートが多い。今までは後衛のみだったからロングスカートで良しとしてたけど、最近は能力の応用が利くようになって前衛に出ることも増えたし、出来るならパンツスタイルにしておきたい所だ。
「とは言ってもなかなか無いなぁ。全条件に合う服」
「あったとしても欲しいサイズが無かったもんね…やっぱりさっきのワンピース着てみたら良かったんじゃないか?」
「……結局ワンピース?」
「……結局ワンピース。」
はあ、と二人揃って溜息を盛大に吐き出していると、レオが後ろからど突かれて前のめりによろけた。ちょっと、と言葉を発する前にぶつかって来たチンピラがレオの胸ぐらを掴む。レオくんに駆け寄ろうとする刹那、私の身体は瞬間的な無重力を体感した。
「……チェイン!」
「逃げるわよナマエ」
「でもレオくんが!!」
「……仕方ないわね。」
私の譲らない主張にとうとう折れたチェインは私をライブラの執務室のソファに預けて、挨拶する間も無く姿を消した。チェインがいるなら大丈夫だろう。私は助けてくれたチェインに感謝して、改めてソファに身を預けた。
「調子はどうだい?ナマエ」
ソファの背もたれ側から姿を現したスティーブンは書類整理に追われていたのか、心なしかお疲れ気味だ。抱えていた袋からドーナツをひとつ取り出して彼に渡す。ありがとう、と言った彼はゆっくりとした動作で私の向かいに座った。
「元々犬歯は鋭い方だったけど、本格的に尖ってます。口閉じた時まだ違和感があるかな。けどサプリメントもザップの血も摂取してるから体調は良いですよ」
「……お盛んのようだね?」
優しい手つきで私のストールを抜き取ったスティーブンさんは苦笑気味に首元の鬱血した印を見つめる。これは何かと言うと、ザップから血を摂取した際に付けられたものだ。なんとか吸血で貧血にさせたから最後まで頂かれることは無かったが、内心パニックになったのは言うまでもない。
「必要があれば人工血液のパックを取り寄せよう。何時でも言ってくれ」
「ありがとう、早々にお願いするかも」
「承知した。っと、そろそろ帰るよ。君も暗くなる前に帰るんだぞ」
「分かってるよ。お疲れ様スティーブンさん」
袋の中に酔い止めが入っていることを確認して私はドアノブを回した。本来ならインターホンを押すべきなのだろうけど、予想では彼女は出てこれない。真っ直ぐトイレに向かうと案の定チェインは下着姿で嗚咽を漏らしていた。(この格好見たらレオくんあたりは卒倒しそう。)
「チェイン、ほら酔い止めとお水。飲んで、楽になるよ」
「ありがと……」
「レオくんのこと頼んだのは悪かったけど、何もここまでしなくても」
あの後執務室でギルベルトさんとお兄ちゃんとティータイムを楽しんでいた私の元に一通のメールが届いた。御察しの通り送信主はチェインで、レオくんの無事を確認したという旨と、お金も取り返したという内容だった。しかも取り返した場所がバーだと言うから、酒に強いチェインのことだ。どういった方法で取り返したのかなんて容易に想像出来た。
「…………と、」
「ん?なあに?チェイン」
「ああいう信念を持ってる人、嫌いじゃない」
「………ん、そうだね。あ、桃とりんごどっち食べる?」
「りんご………」
「で、帰ったらベッドの上に何故か通帳があったんスよ!」
「おめえ夢の話でもしてんのか?そんなことあるわけねーだろ」
「本当なんですってば!!」
あの後、どうやらチェインは直接お金を返さなかったらしい。彼女らしいと言えばらしいけど、一言言ってあげればいいのに、とも思う。そんな素直じゃないチェインは今日は二日酔いでお休み。執務室にはザップとレオくんと私だけ。話を聞くと、レオくんはお金を取られた後もなかなか濃密な時間を過ごすハメになったらしい。この残念なクソモンキーの所為で。
「男性の急所が爆散したらやっぱりショック死するのかしら?」
「おいナマエ止めろそんな目で見ても爆散しねーぞ」
「僕想像するだけで寒気が……」
「爆散は出来ないけど血は抜いてあげられるよ?」
「ぎゃああああああああ!!れれれれレオ逃げるぞ!!!」
「そそそそそ外回り行ってきます!!お留守番お願いします!!!」
「はいはーい」
こっちの二人は素直すぎるというか何というか。オーバーリアクションに申し訳なさと面白さを感じつつ、私は既に数コール鳴ったスマートフォンを取った。
「ギルベルトさんどうしたの?……えっ?うん、うんうん……分かった。すぐそっちに向かう」
今日は会合のある日だと言うのに、突然の呼び出し。エマージェンシー、出動だ。
「恋は盲目、かぁ。」
乙女と言うには純情で一途過ぎる彼女を脳裏に浮かべて、私は溜息を吐くしかなかった。
変革の呪い