かしゃんかしゃんと軽快なプラスチック音がするのに気づいた私ことギルベルトは、ランチ後の皿洗いの手を休めて顔をあげました。そこにはただただ無表情のナマエ様がいらっしゃいました。私はいつも通り如何されました、とナマエ様に尋ねます。
「チェスの早打ち、付き合って欲しいんだけど……忙しいよね?」
いいえとんでもありません。私の行動理由は何時だってラインヘルツ家の為。義妹であろうと貴方とて例外ではない。私は二つ返事で承諾し、ソファへと向かいます。
「ドグ・ハマーに告白されたの、好きだって」
唐突に吐き出された言葉に一瞬手が止まりかけますが、今顔を見てはナマエ様がわざわざ早打ちをしようと持ちかけた意味がなくなってしまいます。彼女は今、気持ちの整理がつかずに言葉の行くあてを探して私の元へいらっしゃったのですから。他の方では顔を上げて、どうかしたのかと尋ねられてしまうでしょうから。今貴方が求めていらっしゃるのは、言葉を聞いてくれる相手であって、相談を聞いてくれる相手ではない。そしてそれを察してくれる人こそが、貴方にとっては私であっただけのこと、そうでしょう?
「好きと言われて嫌な気はしないの。むしろ人が人を愛することは素敵なことだと思うから」
けどね、ギルベルトさん。そう紡ぎかけたナマエ様の目尻からでしょうか。盤面にはぽたぽたと小さな雨粒が落ちてきます。私はそれを拭い去るかのようにチェックメイトと言いました。悲しいのですね?貴方は本当に気高くお優しい方だ。
「ナマエ様、私は誰にも話しませんよ。だから全て吐き出されてしまいなさい」
「っ……ギルベルトさん!!」
わんわんと全ての悲しみを流し出すかのように泣きじゃくりながら抱きついてきた貴方様のなんと幼いことか。
「デルドロが言ったの。楽しみがひとつなくなったなドグ、って。収監されてきっと心細い筈なのに、彼から何かを奪った気がして、だから、すごく悲しくて悔しくて……あとあれ以来怖い夢しか見ないの。暗い部屋に私しかいなくて、私、私……!」
「ドグ・ハマー様はたったひとつの出来事で折れてしまうようなお方ではありません。ひとまずミルクティーでも飲んで落ち着かれては?しばらく経って冷めてしまいましたけどね」
「ギルベルトさんありがとう………おいしか、っ………」
倒れこむ身体を支えて整えたソファに改めて横たわらせ一息ついていると、タイミングを伺っていたレオナルド様とザップ様が口パクでもういいか、と伺ってきました。良いですよ、お入りくださいな。
「瞬時に寝る睡眠薬をしこむたぁ、ギルベルトさんなかなかヤリ手っすね」
「普段のナマエ様ならきっとお気づきになってたでしょう。それだけお疲れだったようです」
「にしてもナマエ可哀想だなぁ…あんな怯えた顔する程の怖い夢ってどんなだろ。ちょー気になるなぁ」
「あれは……きっと夢ではなく記憶が蘇ったのでしょう」
「記憶?えーっと……つまり実際に暗い部屋に行ったことがあるってことっすか?」
「暗い部屋……」
「まあ私からひとつ申し上げられるのは、ナマエ様自身が言い出さない限りは、詮索をしないでさしあげてください。ということですね」
そう、出来るならおぞましい記憶は思い出さない方が良い。それが数少ない貴方様を救う術なのですから。
君は冬をしらない、知らなくていい