「ザップに雰囲気もクソもないプロポーズをされた」

その一言を合図にレオはパスタを喉につまらせ、マスターは掴んでいたグラスを割った。此処はおなじみマスターのお店。昼休憩に出た私とレオの定番のひとつだった。ザップが居るときは絶対に来ない。酒を飲んでその後がてんで仕事にならないからだ。そんな私とレオのグラスには、ワインと見間違いそうなぶどうジュースがゆらゆらと揺れている。

「えっちょっま、そそっそれ本当ですか?」
「嘘言ってどうするんですかマスター…マジマジ。」
「……ざ、ザップは止めておきなさい」
「え、マスターパパ?私のパパなの?」

マスター目が現役時代に戻ってるよ。私がそう言えばマスターははっとして割れたグラスを片付けに裏に戻っていった。レオはようやく飲み下したのか、落ち着きを取り戻した呼吸で改めて此方に身体を向けて来た。本当にザップさん言ったの?言った言った、カラオケ行こうぜのノリだった。クズじゃん。クズだよ?返事はどうしたの?例のごとくしてないし、あのノリで言われてする気も起きない。っていうか早過ぎだよね。しょうがないよ、下半身が脳みそみたいなもんだもんアイツ。

「あーあ、ゼクシィでも読んでプロポーズされる側の勉強でもすっかぁ」
「今更?今更勉強するの?意味なくない?」
「レオ、現実逃避ぐらいさせて」





あの話以降始終挙動不審だったマスターに別れを告げてライブラ事務所に戻ってくると、ギルベルトさんが一人で荷物の受け取りをしている最中だった。私とレオはすぐに駆け寄って、各々持てる範囲で荷物を受け取る。

「私これ持ってこー。」
「ギルベルトさーん、これ、こっちでいいスかね」
「ああ大丈夫ですよナマエさんレオナルドさん。それは私がやりま、」

そうギルベルトさんが言い終える刹那。荷台は突然にして粉砕され、ギルベルトさんの腰は軽快な音を立てて床に伏した。敵の強襲かと身構えたが、レオ曰くそうではないらしい。

「スカイフィッシュ……!!」
「………はぁ?!」





「だぁーかぁーらぁー、スカイフィッシュっつーのはカメラに羽虫が写った残像なんだって!!」
「そりゃアンタが肉眼で見てないから言えるんだよ〜〜ウェ〜〜〜ン!」
「ザップレオを泣かすな。そしてレオも泣くな。うるさいぞ」
「ナマエいつもに増して酷いな!!!」

レオの義眼様曰く、スカイフィッシュが荷台に突っ込んできたらしい。けれどただの目しか持たない私には、突然荷台がぶっ壊れてギルベルトさんが軽快に腰を折ったようにしか見えなかった。結局私はレオの言葉を鵜呑みにするしかないのだけど、このクソ猿は、ソファで爆睡していたので私とレオが二人でさっさと飯に出たことを拗ねているらしく、意地悪く聞く耳を持たないようだ。

「ご心配をおかけしましたね。何、大した事はありません。私はこの通りウッ……!!」
「「あーあーあー…」」
『Prrrr……』

ゆるりとした動作で取り出された携帯は、かすかに聞き覚えのある声だった。ギルベルトさんの相手ということは、恐らくラインヘルツ家のメイド長だろう。先ほどお兄ちゃんが本家宛に電話していたことから察するに、補佐の執事でも来るのだろう。微妙な表情で電話を切ったギルベルトさんは、ちらりとこちらを見て一言。

「ヘルプの人材が派遣されるようです」
「あ、当たった。」

返事のない愛に

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