「俺はここでいいッス、用があるんで。」
「ザップさん別に今じゃなくても、」
「レオてめーギルベルトさんにフィリップなんちゃらのヤローを支えさせる気か?」
「そりゃそうですけど、僕たちまだマスターが見えた事をスティーブンさんたちはおろかナマエ本人にすら報告してないんですよ?勝手な行動したらまずいんじゃ!ってあーあ、聞いちゃいねぇ……」
無傷の片手をポケットに突っ込んだザップさんは僕のはなしなんかちっとも聞かずに行き慣れた店に入っていってしまった。トラブルの予感しかしないけど、今は病院に向かう事が先だ。僕はお願いします、とギルベルトさんに告げて車が出発したのを確認してから上司のナンバーを携帯に打ち込んだ。
「……!やあザップくん。今日はもう店じまいなんだ」
「今日の俺は客じゃないっすよ、マスター。」
「……記憶が、戻ったのかい?」
「いやアイツ自身はまだ知らねぇ。知ってるのは記憶を覗いたレオとそこに居合わせた俺だけだ」
でもどうせライブラのことだから旦那も番頭も知ってんだろ?そう俺が吐き捨てればマスターはゆっくりと微笑んで俺に席に座るよう促した。行儀よく座って話す気分じゃねーが、断る理由もない。俺は少し乱暴にカウンターについて舌打ちを鳴らす。
「いつか、話す時がくるだろうとは思っていたんだ。でもまさか君が……付き合いだしたのはしってたがプロポーズするとはなぁ」
「……なんで殺したんスか。」
「老人の話には付き合う気はない、か。殺した理由かい?牙狩りだからだよ。吸血鬼は殺す。単純明快な僕らの仕事じゃないか」
「愛してたんじゃねーのかよ」
「……条件を、出されたんだ。スターフェイズにね。」
「……番頭?」
娘は幸いクオーターで血が薄い。身体が吸血鬼の能力に耐えられなくなり暴走する確率は限りなく低い。けれど、嫁は違う。ハーフでかなり血が濃かった挙句、病弱だった。まさか子まで授かってから吸血鬼だと告げられるとはね。気づかなかったのかって?……気づけないさ、僕は彼女を愛しすぎていたんだから。牙狩りが下した判断は嫁は封印する。娘は記憶を消した上でラインヘルツ家が保護。何故娘をラインヘルツ家に行かせたかって?……罰だよ、吸血鬼に気づけずあろうことか子を授かってしまった私に対するね。
「だからこそ僕は君に言う。娘はやれないね」
「………おもしろいジョーダンッスねマスター」
「僕は本気だよ。あんな悲しみは僕だけで良いんだ!」
「マスター勘違いするなよ。俺は別に娘さんを貰いにきましたなんてドラマ展開を演じに来たわけじゃねー。ただ気になっただけさ。逃避行すらできねークズな父親ってーのがどんな意図で愛する女を殺したのか、その理由がよ。」
「………」
「つーか今はラインヘルツ家の娘だぜ?貰いにいくなら旦那の所だろ」
邪魔したな、と告げてさっさと店を出て行こうとしたところでマスターが何かに驚いてた顔で俺の背後を見ていた。振り返ると旦那と番頭とレオ、その影に隠れてナマエがいた。なんで、そう問いかけようとしたところで旦那に制される。俺は言葉を飲み込んでナマエをみつめた。
「聞いたの、レオに全部……ねぇ、本当なの?マスター」
「ナマエ………」
「ずっと、知りたかったの。抜け落ちてる記憶が何処にあるのか。こんな……こんな側にいてくれて、守ってくれてたんだね……パパ」
「!」
「ママの時とは違うから大丈夫だよ。みんな私が吸血鬼だって知ってる。何かあったらすぐになんとかしてくれるから。だから、心配しないでパパ」
「パパと……呼ばないで、くれ。そう呼ばれる資格なんてないんだ。すまない……ナマエすまない……」
あの後は結局嗚咽を漏らしたマスターが会話しようがなくなったために話はまた日を改めることになり、今はギルベルトさんが運転する車にすし詰めにされながら事務所に向かってる所だ。どこか遠くを見ているナマエの手をにぎると、はっとなって数秒の間の後、此方を見て理解したのかナマエが微笑みかけてきやがった。
「ザップ、」
「あァ?」
「明日ゲットーへイツに行こう?美味しいイタリアンのお店を見つけたの」
「……仕方ねーからザップ様が付き合ってやるよ」
ありがとう、と言ったナマエの目元が赤くこすれたように腫れているのは見て見ぬ振りだ。今だけお前の強がりに付き合ってやるよ。まあ明日のデートはでろでろに甘やかすし泣かすけどな。
そんなことを心に決めて迎えた翌日。
いい気分で準備をして、珍しく自宅から待ち合わせの場所に向かった俺だったが、そこにアイツがやってくることはなく、俺には究極の悲報とも言えるミッションが入った。
「ライブラメンバー全動員に告ぐ、重要保護人であるナマエ・ラインヘルツが失踪した。各々の力で探せる範囲を全力で探してくれ。尚捜索済みの箇所は随時報告を……」
遡る事数時間前。ナマエの自室には人らしかぬ影が窓際を占拠し、HLの人間とは到底思えない言語で何かを話しかけていた。
「貴方は誰なの……?」
「オマ、エ。ナ……ゼ…ココ、二、イラレル?」
「何故ってそれは、」
「キュウケツキ、ケガレタ、チ……ダ。」
「!!!なんでそれを、」
言葉は意図せず途切れた。そして言葉と共に二つの影は跡形も無くその場から消えたのだった。(ザップごめん、私しんじゃうかも……!)
ごく純粋な侵略者でもって僕の平静は終わる