ナマエが消えた。


言葉にしてみるとなんとも簡潔なその事実に、俺はどうも納得がいかないらしい。ゲットー・へイツに飯食いにいくんじゃなかったのかよ。そんな呆気なく約束破るような女だったかよ。何してるんですか、何処行くんですか、と分かり切ったことを聞きやがるレオを押しのけて、俺はかつて行き慣れた店のドアをくぐった。





「少年、ザップはどうしたんだ。一緒にランチに出ただろ?」
「あの人は今頃女の人とキャッキャしてるんじゃないですかねー。ナマエさんが消えてもうすぐ1月経つっていうのに信じられないっすよ」
「多分一番信じられないのがアイツなんだよなぁ。まあほっといてやりなよ」

苦笑気味にそう答えたスティーブンに、レオは怪訝な顔でうえ、と漏らす。共感しかねます。戻ってきたナマエになんて言えばいいんスかね。はぁ、と互いに息を漏らした二人の空気を払拭するかのようにベルが鳴り響いた。あーはいはい、出動ですね。





「何時の日か、スターフェイズさんにほっとけって言われましたけど、流石にこれはやばくないっすか……銀猿じゃなくて銀豚ッスよ銀豚」
「共感しかねるわレオ。これは最早生命機能を停止させるべきだわ」

僕たちが何の話をしているのか。是非ご覧いただきたいが画像をお見せするのは難しい。僕のカメラが汚れるからだ。かといってこの状況はなかなか筆舌し難い。

「簡単に言うと、ザップさんの腹がヤバいです」
「ヤバくなんかねーよクソ陰毛」

チキン片手にそう吐いたザップさんのお腹には、未だにチェインさんが踏み込んだ跡が痛々しく残っている。チェインさんによると、ケンダッジーのパークアベニュー店に気になる女性が居て通い詰めているらしい。しかも通いすぎて当人の女性はストーカーだと思われているらしい。そりゃそうなるわ。

「っていうか犬女ああああアンジェリカたんと知り合いなのかよめっめめめめメアド!!」
「教えるかッバーーーカ!!!……?どうしたのよ猿、不愉快な顔して」
「ザップさんどうしたんスか?アホみたいな顔して」
「うるせーよ馬鹿。いやなんかさっきから寒気がしてよ」
「風邪すか?」
「ザップお前すごいな」

突然会話に入ってきたスティーブンさんはとても午後の会話を楽しむような雰囲気ではなく、僕は思わずソファから立ち上がる。

「動物的カンかもしれんな。出動だ。血界の眷属がこの街にやってくるぞ」





「っは!きっつ!」
「ナマエさん……」
「あ、心配しなくていいよ。そっちのことで手一杯でしょ?気にせず続けて続けて」
「………」
「っていうかすごいなー、これザップも出来るのかな」
「……兄弟子、ですか。どんな方なんでしょうか」
「んー、そうだなー。



期待をしなきゃ、いいヤツだよ。だって私の恋人だもん」

ただいま

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