「泣いて、いたんですか?」

月明かりに照らされて静かに泣く姿はとても神秘的で、しばらく見惚れてしまった。我に返って声をかけると、顔を上げたナマエさんがこちらを見て柔らかく微笑む。怖いの。彼女は、そうひと言返してくれてから僕の足下に座り込む。つられて僕も座り込むと、ふふ、と笑い声が隣から聞こえてきた。

「何かおかしな事をしましたか?僕」
「んーん、ツェッドくん優しいなーって」
「優しい?僕が?」

そうだよー、と視線を空に向けたまま告げた彼女は本当に綺麗だった。

「何故、泣いていたのか聞いても良いんでしょうか」
「……私ね、怖いのよ。」
「怖い?」
「自分が化け物だって日に日に自覚していくことが」

がり、と噛みついた指先から血が滲む。ぷくりとした血は流れ落ちることなく彼女の目線まで浮かび、弾けた。

彼女との出会いは、師匠が連れ帰ったのが最初。「拾った」などとらしくない冗談を仰った時はどうしたものかと思ったが、話をよくよく聞けば「能力が燻っていくのは惜しい」とほぼ拉致にも等しい状況だった。いくら尊敬する師だとしても流石に呆れて溜息が出た。

彼女の身体は呪われているに等しく、その能力に蝕まれていた。母から譲り受けた吸血鬼の力と、父の持つ吸血鬼を殺す力。それが相殺しあって、相殺しきれなかった力は身体を本人も知らぬうちに蝕んでいた。

師匠は言った。能力を使いこなせなければあと数年で息絶える、と。そう聞かされた彼女は別段驚くわけでもなく、真っ直ぐな目で、これまた真っ直ぐな思いを告げるのだから頭がさがる。

「お師匠様、私に能力の使い方を教えては頂けませんか。死んだら此処までと棄て置いて構いません」



▽▽▽




「(………そろそろかな)じゃあ後のことよろしくね、私先に師匠のとこ行ってくるから」
「……ナマエ、さん」
「大丈夫だよ、心配しないで」

カチリと自動操縦に切り替えた音がしてそちらに目線だけやると、よいしょよいしょと呟きながらブーツを履き直すナマエさんが視界に入る。あ、貴方の背負ってるパラシュート、それじゃあ逆さに開きますけど……ああ、貴方にはもう必要のないものだから関係ありませんね。
傷つけられた掌から出た大量の鮮血は綺麗に織られて翼のように緩やかに羽ばたいた。

喋ることができない分、心の中で心を込めて見送る。もう貴方が1人で泣く夜がありませんように。

いま胎児に還る

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