「あの、堕落王フェムトさん、これは一体……」
「何ってそりゃ、君の退院祝いのディナーだよぉ!」
「いやさっさと帰して欲しいんですが……」
ど う し て
こ う な っ た 。
話は数時間前に遡る。私は無事退院を告げられ、意気揚々とライブラの事務所もとい私の自宅に向かった。心配かけただろうから、兄さんのもとへ先に向かう。
「クラウス兄さんただいま」
「ナマエ?今日はまだ休暇だろう?」
「一応顔だしといただけだよ。何か用あれば呼んでいいからね」
「ああ、ありがとう。何かあればお願いしよう」
そういって結局何も頼んでこないことは分かってるけど、言っておくのとそうでないのとでは随分違うと思ってる。私はギルベルトさんに紅茶をお願いして自室のドアをくぐる。
「で、なんで二人がいるわけ?レオくんは歓迎だけども」
「なーんで俺だけ歓迎されねーんだよクソアマ!!」
自室には何故かレオくんとザップがいた。二人ともギルベルトさんの紅茶を飲んでいるのか、紅茶とクッキーの優しい良い香りが漂ってくる。
「退院祝いしようぜ!ってザップさんが言うので待ってました。すいません、勝手に入っちゃって」
「えっザップ珍しく気が利くね!奢りだよね」
「えっもちろん経費で落と……ってやめろ構えるなバカ!」
もうミイラはこりごりだ!を美しい土下座を決めたザップに免じて、今の失言は見逃してあげよう。私はクッキーを一枚取り口に運ぶ。うーん流石ギルベルトさんとしか言いようが無いなぁ、美味しい。と噛み締める間もなくドアが荒々しく開けられた。
「ナマエ、レオ、ザップ!すまないが出動だ!」
相手は数にものを言わせただけの雑魚集団だったから、とくに手間取ることなくミッションを終えた。自分の能力が不要だったことに少しだけ安堵する。ザップや兄さんたちは数を相手にしたからか少しだけ肩で息しているよう。
「お疲れさま。多かったね」
「あーだな。まあ大事にならずに済んでひとあんしん……ってあれ何だ」
「?」
ザップにつられて上空を見れば、大きな飛行船が接近していた。これなに?と疑問に思う前に犯人が判明した。私の中のTHE迷惑男、堕落王フェムトだ。彼は「ハローゥ豚共!」と3chのお兄さん並のテンションで告げ、私を巨大な釣り竿で釣り上げたのだ。ん?釣り上げた?
「ちょっ何してんの?!」
「いやあ君とディナーでもと思ってねぇ。
そして冒頭へと戻るのである。
「僕のギフトと戦った時に倒れたのだろう?多少の詫びを入れるのが義務だと思ってね」
「いや詫びいれなきゃとか思う良心があるならあんなロシアンルーレットみたいな事件起こさないでくださいよ」
「やーだねぇ!!何も無いのはつまらないじゃないか!!」
駄目だこいつ話にならない。話を聞かないという点においてはザップと良い勝負なんじゃないかなこの人。そんな失礼なことを考えつつも、出された料理は素直に食べる。先ほど聞いた話では、有名どころのシェフを拉致してきたらしい。後で解放しろよ馬鹿。
「そういえば例の彼とは進展無しと考えていいのかね?」
「ばっ……か言わないでください!あるわけないでしょあんなクソモンキーとなんか!!!」
「おやおや?僕は誰とまでは言っていないよ?本当に君は見ていて飽きないねぇ。」
だめだ、ザップ以上に話が通じないやつだったかもしれない。あまりの呆れに、口に入れたばかりの最後のサーモンをつい嚥下してしまった。味もなにも分かったもんじゃ無い。なんだか損した気分だ。空になってしまったお皿にさみしさを感じたけれど、これで帰してもらえるならそれでいいや。
「いいかい?君はまだ誰の物にもなるんじゃないよ」
「それってどういう意味?」
「さあ?まあ僕がつまらなくなるから、とでも言っておこうか。それじゃ、またね?」
「またねって?……え、まさか、」
突然抱き寄せられたかと思えば、謎の浮遊感が襲う。あれ、これもしかしなくてもヤバいやつでしょうか?嫌みな程口角を持ち上げたフェムトからぐんぐん距離を離している。ああなるほど。(飛行船から落としたなアイツ!!)
あわてても仕方ない。とりあえず私は携帯を取り出して兄さんに電話をかけた。2コール目で繋がって聞こえたのは、随分焦ったザップの声。「落ちてるなう」「は?!」「さっき釣られた場所に落ちてるなう、よろしくね」「な、ちょ、おいっ」ブツッ…ツーツー。電話が切れたのを確認して、私はただただ流れに身体を任せて落ちていった。(信じてるよ、ザップ。みんな。)
やさしい狂気に満ちている