かしこまった場ではあったが、若き国王は華やかな方がお好きらしいと聞いていたので、私は先日オーダーしたばかりのボルドーのエンパイアドレスに、お兄ちゃんのジャケットと同色のボレロを羽織る。いつもより高い位置に切り替えのあるドレスで少しは兄のような長身に見えるだろうか。なんて浮き足立ってしまうのは、先日のサプライズが無事成功した事が大きな理由だろう。
『当日はこのスーツを着てゆこう。愛しい妹のセンスを自慢せねばならない』
『お兄ちゃん何しに行くか分かってる?』
『これは使い物にならないわねクラっち』
姿見で最終確認をしたら、チリン、とベルを鳴らしてギルベルトさんにヘアアレンジをお願いする。自分でも出来るのだけれど、今回はお相手がお相手だ。些細な不敬も避けなければ。髪飾りは以前お兄ちゃんから貰ったとっておきの日にだけつけるミモザが散りばめられた髪飾りでアップにしてもらう。
「クラウス様、昨夜は寝所でも一式を眺めてらっしゃいましたよ。黒基調の中にボルドーのストライプ、今日は中に着られるシャツもボルドーにされるそうですよ」
「ピン留めはやっぱり"コレ"とお揃いの?」
「勿論」
二人揃ってくすくすと笑みが漏れてしまう。よくシスコンだ何だと言われる兄のことを、私もあまり言えたもんじゃないなと、鏡に映る自身の飾り達を見て思う。そんな中で唯一異彩を放っているのは、薬指で煌めく優しい光だけだろう。
「やーーーん!!ナマエっちいつもの可愛い雰囲気じゃないの?!美人よ!これはまごう事なき美人だわ!!ちょっ、クラっち何無言で写真撮ってるのよ並んで!兄妹写真よ!!額に入れて事務所に飾るわよ!!!」
「落ち着きたまえK・K、これは動画だ」
「いやどっちも落ち着けよ。」
ザップの言葉に今日ばかりは首肯せざるを得なかった。まあ落ち着けと言いつつさっき盗撮してたの私知ってるからな。まるで七五三のような事務所の空気感に、この後の会食はどうなるんだと頭を抱えたくなった。まあ準備がひと通り済めばスティーブンさんが締めてくれるだろう。昨日辺りから胃痛に悩まされてるようだったけどきっと締めてくれるはずだ、うん。
「お兄ちゃん、スーツ気に入ってくれた?」
「さりげないストライプだから日常的に着れそうだ、大切に着させてもらうよ」
「そう言って穴空くまで着てそう……ちゃんと日焼けしてきたら新しいの見に行こう、次は一緒に」
ああそうだな、と微笑むお兄ちゃんに嬉しくなる。突然ハッとした顔で私を見下ろす姿に疑問符が浮かぶ。どうしたの?と訊ねれば、うーん、と顎に手を当てて綺麗な斜め45度を決めてしまった。ギルベルト、と一言かけて、当のギルベルトさんはたったそれだけで意図を汲めてしまったのか、面白いものを見たとでも言いたげに口角をゆるりと上げて(それでも気品を損なわないのってすごくない?)、ゆったりとした言葉で告げた。
「確かにナマエ様はレンフロ婦人ではありますが、兄であるクラウス坊ちゃんがエスコートされてもなんら問題ないと存じますよ」
エスコート。何度も経験してきたそれが、まるで未体験の事のように思えたのは、相手の候補にザップが浮上したからだろう。
未だ着替えに手こずっているであろう扉の向こうのレオとザップ。それを今か今かと待つ面々は、まるで式でも始まるかのような、神聖な扉を見つめる瞳をしていた。
エスコートは正直ザップが決めてくれたらいい。事実、女の扱いだけは突出して上手いし、なんだかんだで器用な彼は、エスコート程度簡単にこなせてしまうだろう。それでも緊張でポカをしてしまうくらいなら無理強いする事でもない。
でも、してくれたらいいな、なんてちょっとぐらい思わせて欲しいな。なーんてね。
「ナマエ〜〜〜!!ネクタイ結べない!」
「おいネクタイ千切れたぞ。」
「うわぁそれどんなマジック?レオはもう蝶ネクタイにしな、ザップはレオのネクタイ使って、タイピンも」
店長の気遣いで幾つかレンタル品を借り足しておいたが、千切るってなんだ。やっぱりテーラーとしての彼はプロなのだと実感する。半ば押し付けだからお金は取らないと言ってくれたが、千切れたネクタイはしっかり天引きさせていただこう。勿論ザップの給料から。
メンバーの中でも比較的幼く見える私とレオだけれど、蝶ネクタイをつけた彼は一段と可愛らしい雰囲気を纏っていた。ザップにはネクタイを手早く結んでからネクタイピンをつけ、死んでも触るなと念を押した。次千切ったらお前を千切るぞ、という圧はスティーブンさんから飛ばされているので、きっと大丈夫だろう。
「さて行きますか、戦場に。」
私達はスティーブンさんからの度重なる今回の会食の重要度と失態を犯さないよう再三念を押された。私とお兄ちゃんは緊張しないとは言わないが慣れたものである。スイッチを切り替えて、お兄ちゃんからそっと差し出された腕にエスコートされて先頭を歩く。
会食が決まってすぐにピンヒールのリハビリをしたから、背筋をしゃんと伸ばしても私の歩みは揺るがない。世界を守る者として統括する立場の兄。その隣を歩くに少しでも相応しくある為ならなんだってした。ただひとつ普通のレディと違うのは、ドレスに隠れた小型銃の存在だろうか。
「おいあれマジでナマエかよ、別人じゃねーか」
「ザップさんやっぱりクーリングオフ出来ないか検討した方がいいんじゃないスか?」
「そこ煩いぞ。アイツはお前らと違って顔役を担う機会も多いから、今日の会食ではクラウスの次に余裕があるぞ多分」
「「えっ」」
我らが姫は猫被りもお手の物