「っくしょう!!!」
目の前で一瞬にしてナマエが連れ去られた。その事実に酷く腹が立つが、そんなことしやがった堕落王に対してよりも、隣に居て何も出来なかった自分自身に苛ついていることは、周りの奴ら以上に俺がよく分かってる。あと少し気づくのが早ければ。あの位置にアイツではなく俺が立っていれば。守ることができたんだろうか。
旦那や番頭はナマエ救出に向けて準備を始めているが、俺には何もできないことに、また苛立ちが募る。ちらりと旦那を盗み見た瞬間、旦那の携帯がけたたましく鳴りだす。その着信音で相手なんか見なくたってわかる。俺は両手が塞がった旦那に変わって断り無しに通話ボタンを押した。
「おいナマエッ!無事なのか?!!」
『落ちてるなう』
「は?!!」
『さっき釣られた場所に落ちてるなう、よろしくね』
「な、ちょ、おいっ怪我はっ……」
あのクソアマ切りやがった。しかも落ちてるってどういう了見だコラ。スピーカーフォンから発された衝撃の事実に、クラウスの旦那は顔面蒼白にしながら指示を出していく。
「ザップ、着地点にネットを用意して欲しい」
「りょーかい旦那!急ぐぜ!ほら退けお前ら邪魔だ!!」
「ザップさん……」
「ああン?なんだよ陰毛頭」
「……ナマエさん助かりますよね?」
助けなかったらアイツ多分三日三晩寝床に出るぞ。と言えばレオは安堵した顔で離れていく。お前はぜってェ俺が助けてみせる。……限界まで何層にも重ねたネットが、落下してきたナマエを受け止めて大きく沈んだ。戻った反動で再び宙に浮いたナマエを、横抱きにして受け止める。(は?こいつ軽すぎじゃね?)
「そっか、乳がねーのか!」
「帰宅早々何かな?ケンカなら買うけど。」
笑顔で告げたナマエに身震いした。三日三晩寝床にでるのは俺の方かもしれない。
あの後救出されたナマエ(と顔面平手打ちを喰らった俺)は、かかりつけの病院へと搬送された。女医には「若気の至りってやつ?」と軽快に笑われた。クソ。先に診察を終えていたナマエは姐さんと談笑している。姐さんがそっと触れたのはナマエの右頬。恐らく今日の彼女に取って久々の接近戦の際にかすりでもしたのだろう。簡素なテープで保護されていた。
こちらに気づいた姐さんはまだ仕事があるとだけ告げて先に帰っていった。血を抜かれて以来のプライベートな二人きりに上手く言葉が出てこねェ。行くぞ、とだけ言ってヘルメットを渡せば、ナマエは素直にランブレッタに跨がった。走り出して間もなく、話しだしたのはナマエの方だった。
「ザップ、助けてくれてありがと」
「あァ?旦那に言われたからな、仕事だ仕事」
「なによー素直にお礼言ってるのにさぁー!」
声色から今コイツがどんな顔してるかなんて容易に想像つくぐらいには惚れ込んでる。なのに、ヤリ部屋の女たちみたいに上手くいかないのは一体何でなんだよ。大人しく守られてくれよ。そんでもって大人しく惚れてくれよ。なんで俺ばっかり惚れ込まなきゃいけねーんだよ。
「つーかお前女が顔に傷作ってんじゃねーよ!」
「ぐっ痛いとこつかないでよ!ほんとソレ!お嫁行けなーい」
「……俺が貰ってやるよ」
「え?声小さいと聞こえないよー」
「るっせ!黙って乗ってろクソアマ!」
「なによー!ザップが話したそうな顔してたんじゃないの!」
ああ本当にその通りだよ畜生。なんで気づいてくれたんだって、聞ける勇気が俺にはまだ、無い。
拙いキスですがこれでも必死なのです