「ナマエさあああああん!助けてくださああああいこの人ストーカーですよストーカー!!」
「……おう、りありー?」
「あああああそうなんです本当なんです信じてくださいそして助けてくださいいいい!!!」
いやまず落ち着けよレオ。私は半ば呆れ顔で虚実を背後のザップに「どうなの?」と聞いてみる。人間堕ちるところまで堕ちるとそんな顔をするのか、とツッコミたくなる位悪い顔をして「まーな!」とザップが言った。まーなじゃねーよ、まーなじゃ。
「パワハラかな?ドン引きですわ」
「いやいやお前もわりと日常茶飯事だからね?!俺被害者だからね?!!」
「されたから仕返して良いというものでは無い!」
「正論かチクショウ!!!」
騒ぎ出したザップとは対照的にレオくんは落ち着いたのか、笑顔でお礼を告げてくる。(まだ何かしてあげるとは言ってない。)
とりあえず今日は私が見張っててあげるからバイト行って来なよ!と背中を押せば、元気に執務室から駆け出していった。
「ザップも素直じゃないね」
「うっせ。ナマエに言われたかねーよ」
え、何のこと?ととぼけてみせる。恐らくザップは兄さんに言われてレオくんの護衛をしていたのだろう。ただ、兄さんから依頼をした際は、素直に聞き分けるヤツじゃないから「俺の業務に子守は入ってねえ」とか言いやがったらしい。ストレートにお願いして断られ、更には凹んじゃう兄さんも兄さんだけど、ザップもザップだと思う。
「それこそこっちの台詞。好きな子に意地悪しちゃうキャラか。子どもか。」
「お前もな!お前もだからそれ!」
「されたからして良いというものでは」
「それ二回目えええええ!!!」
「うるせー早く護衛行ってこい」
「理不尽かっ!!」
騒がしさの元凶が二人とも去り静かさを取り戻した執務室に、スティーブンさんの笑い声が響いた。彼の悪意に気づいて私はむっとした顔で睨みつけるけど、もちろん攻撃力なんてものは全くなくて。
「ナマエもなかなか素直じゃないな」
「それ既にザップから言われましたよスティーブンさん」
「クッ……そんなんじゃザップに嫌われるぞ?まあ君がそれでいいならいいんだけど。そんな捻くれナマエにいいことを教えてあげよう」
「いいこと?」
「実はザップのヤツな………」
「………え?うそ」
嘘じゃないさと怪しい顔で告げたスティーブンさんは、慣れた動作で電話に出た。表情が変わり、私と目がかちりと合う。出動の合図だ。私は自室に戻りルームシューズからショートブーツに履き替え、準備を済ます。
執務室に戻ると通話は既に終わっていて、事故現場のランブレッタを拾ってから病院に行くよう指示された。ザップが怪我を負い、レオくんは連れさられたという。ほほう、事態はなかなか深刻なんじゃない?
ご主人に置いてかれた寂しげなランブレッタは、思いの外あっさり返却された。幸いキーは差しっぱなしで外傷も少なく少しなら走れそうだ。久々の運転に一瞬もたつくけど、なんとか地面を蹴り上げて病院に向けて走らせる。
赤信号になったところでパトリックに後ほど顔を出すとだけ伝えて電話を切る。具体的な話はしてないけど彼なら多分大丈夫だろうと再び地面を蹴った。
間も無く到着した病院は、休日である所為か違うのか、随分と生物でごった返していた。受付で病室を聞こうにもこれはなかなか待つかな、と肩を落とす。すると突然の浮遊感に襲われる。気づけばチェインに抱きかかえられていた。
「ナマエ着いてたのね」
「チェイン!助かったー病室分からなくて困ってたの!」
「だと思った。エレベータも遅いし階段で行きましょう、捕まって」
チェインの速度に消えそうになるけど、なんとかザップのいる病室に着くことができた。重傷ではないが、今行っていることが高度な為集中力を要するらしい。
「糸状に血液を出してレオを辿ってるそうよ。私は銀猿が起き次第追跡するけど、ナマエはここで付き添ってて」
「オーケーチェイン。お願いね」
「……駄目よナマエ、泣くのはミッションが成功してからよ」
「えっ?私泣いてなんか、」
あ、と呼吸音にも満たない音が漏れる。涙を拭おうと頬に手を伸ばすけど、それは先客の大きな手に阻まれた。
「ざっ、ぷ……!」
「おい準備はいいか?犬女」
「当たり前でしょ。ナマエのこと泣かせてんじゃないわよ馬鹿猿」
「減らず口を止めな。いくぞ、」
そうザップが言い終える前に目の前を炎が走り抜けた。振り返れば既にチェインは去った後。ザップに向かって座り直すと、いつものからかう表情ではなく、優しい表情でこちらを見ていた。誰か居るのかと背後をみれば、お前だよばーかと蔑まれた。
「なァーに泣いてンだよ」
「……っていうから」
「あ?」
「ザップが怪我したってスティーブンさんが言うから、心配したあ……」
「うわひでー泣き顔……お前清々しいぐらいに女捨てたな」
「だってぇ……本当に2人のこと心配だったんだから!!ばかぁ!!!」
「悪かったって!だから泣き止めって!」
じゃなきゃ俺が泣く羽目になるだろ!と必死に止めてくるザップの慌てた様子が可笑しくて可笑しくて、いつの間にか涙ではなく笑いが止まらなくなっていた。(本当に無事でよかった。)
「オーケー。兄さんお疲れ様。気をつけて帰ってね。ん?うん、パトリックのとこに寄ってから帰る。…ありがと、また後でね」
「クソガキは?」
「聞かなくたってわかるくせに。無事だってさ。今こっちに向かって救急車で来てるって」
「おう無事じゃねーなソレ」
ケラケラと笑うザップの頭上に揺れた影は表情こそ読めないけれど、そのおろおろした動きから、どうやらご主人からはぐれてしまったらしい。「連れて行ってあげるよソニック、おいで」と声をかければ理解したのかたまたまなのか、私の肩にそっと乗ってきた。
「おいナマエ、」
「ん?なに?」
「帰る前にもっかい顔だせよ」
「えー気分による。じゃ、間違ってもタバコ吸うんじゃないわよ」
「おまっ……絶対来いよ!」
(今更顔が暑いなぁ……。)あえて遠回りをしてレオくんの病室に向かう。中庭は夕方のひんやりとした空気に包まれていて、熱を持った頬に優しい。……『最近ザップのやつ、女遊びをしてる話を聞かないんだ』出動前、スティーブンさんにふと言われたことを思い出してしまう。何故このタイミングなんだろう。ねえソニック聞いてよ。と言うと、ソニックは2回目を瞬かせてこちらを見る。
「ほんとはね、ランブレッタでなんて言われたか。聞こえてたんだ。おかしいよね。だってあのザップが、私なんかに『嫁にもらってやるよ』なんて言うんだよ?笑っちゃうよね。嘘だって思えたらよかったんだけどね、嘘に気づけない程浅い関係じゃあ、もう無いからさ。それにね、すっごくすっごく嬉しかった。夢でも見てるのかなって思ったの。でも素直になれなくて、隣に立つ自信がなくて、聞こえないフリしちゃったぁ。……もっともっと強くなって、本当の意味で隣で立てるようになったらさ、今度こそちゃんと聞きたいな。ね、ソニック?」
言葉を止めたのを合図にソニックは首を傾げてしまった。わかんないよね、ごめんね。私は長い息を吐いて、空を仰いだ。さすがにあんな顔されたあとじゃもう一度顔出すなんて、できません。さっきの彼の驚く程に優しい瞳が、しばらく頭から離れなかった。
ささやかながらたしかな愛がここにある