「うわあ……痛々しいを通り越してなんか面白い」
「彼は自力で脱出せんと奮闘した結果がこれさ。僕は大いに評価するけどね」

 やっとレオくんの病室にたどり着くと、包帯ぐるぐる巻きで何を言ってるのかほとんどわからないレオくんと、自分も今さっき来たばかりだというスティーブンさん、そして兄さんとギルベルトさんがいた。

「レオくん頑張ったんだね。私も見習わなきゃ」
「ナマエは後衛の中核を担ってるだろ?」
「違うんです!なんか違うんです!そっそれはさておき、レオくん頑張ったなら何かご褒美があってもいいよね。そうだな……私のバイト先に遊びにおいでよ。マスターに奢りって言っておくからさ」
「もごもご(本当ですか)?!」
「また敬語に戻ってるから、タメ口になったらね!じゃあ兄さん、私パトリックの所寄ってから帰るから」

 返事は聞かずに病室をでると、背後に気配を感じて思わず身構える。そこにはやあ、送っていくよ。と朗らかに告げるスティーブンさんがいた。





 ヘルサレムズ・ロットの町並みがどんどん流れてゆく。パトリックに修繕を依頼していたものを受け取ると、スティーブンさんが食事に行こうと言いだして、今に至る。なんだか助手席に座る気分になれなくて、私は荷物と一緒に後部座席にもたれかかっていた。

「なんだ、元気がないな?」
「……お腹空いてるからじゃないですか?」
「俺が余計なことを言ったからかな?」
「分かってるなら聞かないでくださいよ」

 この人、スティーブン・A・スターフェイズは、一見ひとが良さそうに見えるけど、長く付き合えば分かる。かなりのサディストだ。生憎私はマゾではないから、べーっとしたを出して牽制した。もちろん効果がないのは知っている。

「この前ランブレッタに乗ってる時に、勘違いしちゃいそうな科白を言われてたから、上手く飲み込めなくて」
「なんて言われたんだ?」
「……嫁にもらってやるって」
「ザップのやつも思い切ったなー。で、ナマエはなんて返したんだ?」

 うっと言葉が喉でつまる。何も返してないと言えば何かしら傷を抉られるのは目に見えているからだ。私が何か言いあぐねていると、察しの良いスティーブンさんは平然とああ、言ってないな。と零した。

「聞こえなかったフリしちゃいました」
「それは酷いなぁ、男の精一杯の勇気を無下にするなんて」
「だって声小さかったし、聞かない方が良いのかなって……」
「返事、決まってるんだろう?してやらないのか?」
「……私がちゃんと隣に立てるようになるまで言いません」

 そんなことアイツは望んでないと思うけどなぁ。とまるで独り言のように吐き出したスティーブンさんは、ハンドルを右に切ってる姿もなかなか格好よかった。でもやっぱり私は、あの傷だらけのランブレッタの後部座席が、特等席であってほしい。





 たどり着いたのは私が贔屓にしているレストランだった。先に行ってて、と言ったスティーブンさんの「どうぞごゆっくり」という科白がこの状況に似つかわしくなくて、いつの間にかついて来てしまっていたソニックをぎゅうぎゅうと抱きしめた。そんな私にソニックは何か見て欲しげにレストランの窓際を指差す。

「K・K!どうしてここに?」
「そりゃナマエっちに会いに来たに決まってるじゃなーい!あんな性格の悪い男に会いにくるわけないでしょ?」

 この二人が仲悪い(というかK・Kが一方的に嫌っている?)のは、今に始まったことじゃない。ディナーは大丈夫だろうかと彼が去っていった方を見れば「ああ、アイツはここまで送るのが担当。ここからは私がエスコートするわよっ!」とK・Kが意気揚々と答えた。





 「お腹が空いてたらネガティブになっちゃうわよ」というK・Kの持論で、ひとまず美味しい食事を楽しんだ。お腹いっぱいになったのか眠りこけるソニックにくすりと笑みがこぼれた。

「で、ナマエっち告白されたの?」
「違う違う!……まあぽいことは言われたけど」
「ホンットザップっちもナマエっちも奥手よねぇ。もどかしいを通り越して微笑ましいわ」
「私は隣に立てるような人間じゃないし……」

 お決まりのフレーズを漏らせば、微笑み半分苦笑半分の顔でK・Kは説き始めた。
 ナマエあのね。確かに自信を持てって言われても困ると思う。そんな簡単に持てるものならとっくに持ってるはずだもの。だからそんなことは言わないわ。けど、貴方がそんな風に思っている「ナマエ」っていう人間を、好いてくれてる人がいるのよ。貴方は自分を否定する度に、ザップっちの感情も否定してるのよ?

「もっとザップっち見習って本能に生きなさよ。ナマエっちはザップっちとどうありたいの?どうしたいの?貴方の好きな人は、それを聞いてくれない人なのかしら?」
「K・K……」
「これだけ言っても勇気が持てない人は、私の知るナマエじゃないわね!」
「……ありがとう、今度少し話してみるよ」





「あはははははは!!見事にフられたなぁザップ!」
「うううううううるせーっすよ!」

 同時刻、俺の病室には、凹み切った俺と、戻ってきた番頭。まさかナマエが本当に戻ってくることを拒否した挙句番頭とドライブに行くとは思ってなくて、俺はがっくりと肩を落とした。うらめしげに番頭を見上げると「K・Kのとこに送っただけだって」と愉快そうに笑っている。畜生。
 次こそはぜってぇ逃がさねえ。そう決心した俺は、ふて寝を決め込むことにした。覚えてろよ番頭。

このままでいられるとでも?

ALICE+