決めたが吉日、僕……いや俺はナマエの呪いを解呪すべく、秘密裏に進めていたことも含めて準備を整えた。
 本来術師には等級が与えられるが、ナマエは「有事以外は術式を使わない」特異な存在である為に等級を与えられていない。けれど、そのものさしで見ればナマエが特級になる事は間違いない。そして、その彼女に憑き続けている呪いともなれば、特級レベルを想定して良いだろう。

 面倒なのが、この呪いを俺だけでは祓えないということだ。消し炭にするのは容易い。が、何年も六眼すら掻い潜ってきた呪いだ。ナマエと半同化状態である以上、まずは引き摺り出さねばならない。

「は〜〜〜、めんどくせ。」
「本音出てるぞ五条」
「あれ硝子来てたの」
「さっきな。さてどうなるかねぇ……」

 高専内にある儀式場には、俺と伊地知、そして今し方来た硝子がいる。後から清めを終えたナマエを夜蛾センが連れてくる手筈だ。伊地知は帳を張る役を担ってもらう。上層部に知られると何かとダルいので、あくまで信用できる人間に絞って行う。
 硝子は作戦こそ話したが呼んだ覚えはないので、おそらく親友の行く末を見届けにでも来たんだろう。硝子にとってもナマエはそれだけ価値のある存在なのだ。

「乙骨から伝言あるけど、聞くか?」
「憂太が?」
「うん、聞くかどーかは先生に任せたいってさ」

 相変わらず自己肯定感低いよねぇ、と笑う硝子だったが、伝言の内容を聞いて成長を感じたのだろう。その言葉にはあまり本心を感じなかった。

「憂太はなんて言ってた?」
「ナマエさんも僕と同じじゃないですか、ってさ。あと出来るなら僕も手伝いたいって」
「ホントあいつナマエに懐いてるなぁ……」

 じゃなきゃあんな些細な変化に気付くワケもないか。一人納得しながら片手でスマートフォンを操作する。

「こちらグッドルッキングガイ五条先生だよ。伝言があるなら直接言いにおいでよ……憂太」





 電話をかけて十数分。比較的奥まった場所に位置する筈なのに、憂太はたったそれだけの時間でやってきた。相当走ったのか、着いて早々倒れ込み、硝子に呪力をブチ込まれていたのは笑ってしまった。

「で、伝言……憂太の見解、聞かせてよ」
「……僕の時と同じってことは、あり得ませんか?」
「それは、呪いの主は母親じゃなくナマエ自身ってこと?」

 首肯した憂太を見て、改めてコイツの著しく跳ねる成長曲線に驚かされた。ナマエ本人にはあえて伝えていないが、その可能性は大いにあり得る。というのも、特級相当の術師であるナマエに呪いをかけるのであれば、(かつての継承者達のチリツモがあったと加味しても)彼女の母親では成立しないのだ。
 ナマエの呪いが生まれて間も無くかけられたのだとすれば、まだ制御しきれない強大な術式にとっくに祓われていなければならない。しかし呪いはいま尚彼女の中で生きている。かつての乙骨憂太の呪いのように。

「憂太、解呪は僕がやるけど、硝子の護衛だけ頼んでも良いかな?」
「……!はい!分かりました!」
「悟、ナマエを連れてきたぞ」
「あ、憂太に硝子ちゃんもいる」

 ナマエの声で振り返ると、そこには俺が初めて買い与えた、あの日の青のワンピースに身を包んだ姿があった。

「お前それ……」
「大事な儀式だから、着てきたの」

 父である夜蛾センに手を引かれながらこちらにゆっくり向かう姿は、まるでヴァージンロードを歩くようだった。現実はもっと血生臭いというのに。微笑みを携えて俺の元に着いた彼女は、ゆるりと瞬きをしてから俺に震える小指を差し出した。

「悟くん、約束して。解呪が終わったら新しい服、一緒に見に行くって」

 まるで誓いの言葉だ。傍からみたらただのデートの約束も、俺からすれば命を賭けた彼女からの切望だった。いつか見た、色も形も何もかもが同じワンピースだけが仕舞われたクローゼット。まるでそれまでの彼女の生き様を表してるみたいで、俺は反吐が出る思いだった。
 それから初めての色彩を放つ数着のワンピースを、まるで一生涯の宝物のように大事に大事にしまい込んで、着ている姿なんて指折りしか見た事がない。
 そんなに大切にしていた数着のワンピースの中から、俺が選んだものを今日、彼女は着ている。死装束になるかもしれないのに。それだけで俺は胸がいっぱいだった。そんな質問、答えなんてあってないようなもんだ。そうだろ?ナマエ。

「クローゼットから溢れるまで買ってやるよ」

 解呪が無事終わったら、必要な服以外全部取っ払って、俺が選んだ色だけにしてやるから覚悟しろ。絡めた指にキスを落として、上塗りするように、俺の愛で以って呪う決意をした。



いっそ俺色に染まってしまえ


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