『やめて!私の子よ!!連れていかないでッ……!!』

 泣いている声がする。必死に此方に手を伸ばしているのは誰だろう。何故泣いているの。私の子って、何のことなの。

『煩いぞ、この子は一族最後の望みなのだ』
『そうだ。術式を捨てた愚かなお前には預けておけぬ』
『お前が育てたところでいずれ後悔することになるぞ』
『そうだそうだ』『そうだそうだ』
『お前は、一族の、恥だ。』

 ああ、泣かないで知らぬ人。
 穢らわしい言葉の数々を、何故こんなにも疎ましく感じているのだろう。何も分からないまま、私の視界はホワイトアウトしてゆく。






 ゆっくりと浮上した意識は、夢で良かったと未だ騒がしい心臓を落ち着けようと、なんとか呼吸を整えた。冷静さを取り戻してからようやっと心地良い温もりに包まれていると気づく。安心感や心地良さに、再び沈んでいきそうだ。
 関節に僅かな痛みを覚えながら、ぼんやりと解呪が成功したのだと思い至った。抗い難い微睡に流されてしまいたい気持ちでいっぱいだつたが、解呪が成功した事でやる事が山程ある。術式への影響の確認は勿論、実践でどれ程立ち回れるのか、確認したいことは挙げればキリが無い。自身にそう言い聞かせてなんとか覚醒する。

 すると、視界に入ったのは逞しく鍛えられた胸筋。嫌な予感に「駄目だ」と分かっていたのに顔を上げずにはいられなかった。早朝のまだ薄暗い中でも光を放つような白髪と、しっかりかち合う蒼い双眼。

「おはようナマエ、僕とのハジメテはどーだった?」
「は、」
「一応優しくしたつもりなんだよ?でもやっぱり長年お預け食らってたら多少の無理は許して欲しいよね」
「い、」
「い?」
「嫌あああああぁ!!!!!」

 私のキャパシティオーバーした脳は、とりあえず叫ぶ事で助けを求める事にしたらしい。我ながら英断だと思った。





 私の絶叫に駆けつけた正道に事情聴取(とは便宜上の愛ある拳と説教)を受ける悟くんの傍ら、かろうじて先のやり取りは彼のおふざけ発言で私の貞操は守られていたことが硝子により伝えられた。節々の痛みは行為によるものではなく、突然の成長による成長痛だと言う。えぐえぐ泣く私を「おーヨシヨシ」と抱きしめる硝子と、ガーディアン宜しく私の周囲で悟くんに睨みをきかす学生のみんな。お騒がせして申し訳ないと思いつつも、流石にやって良いことと悪いことがあるだろう。

「だってー、やっと僕を受け入れられる身体まで成長したんだよ?慣らしていきたいじゃん!」
「よし悟、遺言はそれで良いな?」
「やっちょっ、学長待って生徒の前ですよ」
「それはこっちの台詞だろーがクズ」
「硝子は応援してくれよ!僕のアオハルを!!」

 最低な事を言ってやがるコイツ、ましてや未成年の前で。クズだ。おかかぁ……と各々言いたい放題、蔑むような顔で見下す生徒たち。そうだよ、彼はこういう奴なんだよ。

「つーか、話では聞いてたけどナマエさん背が伸びてるな」
「伏黒冷静すぎねぇ?」
「虎杖お前もな。昔の制服着れるんじゃないですか?少し丈持て余すかもですけど」
「あー恵、残念ながらナマエは制服着たことないよ、いつもの黒ワンピが制服みたいなモンだからさ」

 悟くんの言葉にあー……と一年ズは納得の声を上げる。のも束の間、じゃあ新しくぴったりの作ればいーじゃん!天才よそれ!!と当事者蚊帳の外で盛り上がりだす学生諸君。……仮に作るとしたら生徒としてではなく高専職員としてだが。150cmぐらいの既製品あるかな、セミオーダーめんどくさいからそれで済めばいいなぁ……なんて思考を巡らす私のことを見て、優しい蒼がとんでもないサプライズを考えてたなんて、この時の私は知る由もない。



忘れられた白昼夢


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