「す…………っごい似合ってますよ!」
「今までワンピース姿しか見たことないから新鮮ですね」
「ナマエさん蹴り技多いしショーパン良いっスね!」

 三種三様のコメントに未だ喜びに溢れる。野薔薇ちゃんの選んだ制服は、口元まで高さのある幅広なハイネックのトップスにショートパンツと、機動性重視の中にも遊び心を感じるデザインだった。タイツとショートブーツは今まで通りのもので済むのは助かる。靴は下手に変えると戦闘、特に肉弾戦に響くから。
 余談だけど、悟くんからの感想はいの一番に貰ったが「タイツは履かなくて良いと思うんだよね僕」という屑まっしぐら発言だった為、笑顔の私の拳の餌食になった。今の私は遠慮なく術式を使える事から、部分的であれば無下限も消す事が出来る。試すのはこれが初めてだったが、黙らせることに成功した時は感動した。





「美味しい!これ本当に悠仁くんが作ったの?」
「ウッス!ナマエさんに喜んでもらえて嬉しいです」
「上手……今度料理教室お願いしたいぐらい」
「全然良いっすよ!やりましょ!」
「虎杖に習うのは複雑だけど私も参加したい、ナマエさんと料理したい」
「ナマエさんいれば材料費五条先生出してくれるんじゃないか?」
「恵くんはそういうとこ目敏いよねぇ」

 僕の教え子たちに囲まれて楽しそうに会話に花を咲かせているナマエの姿に、嬉しいような、少し寂しいような、でも結局は幸福感に包まれている自分がいた。
 学生時代は勧めても頑なに作らなかった制服。あくまで呪術高専所属の制服であって学生服ではないけれど、今目の前で袖を通した彼女は僕自身もずっと見たかった姿だった。
 学長のように生徒の中に放り込む事は出来ないけれど、こうやって別の形で今度こそ彼女が本来経験して然るべきだったことを、ひとつずつ経験させてやることなら出来る。これは僕のエゴかもしれないけれど、それでも彼女が笑顔でいられる瞬間が増えるなら尽くしてやりたいと思う。解呪したあの日、呪霊の"遺言"を聞いてから尚更。

『かえして、わたしの子なの』
『つれていかないで、おねがいよ』


 解呪した一瞬、本来の姿に戻ったナマエの母親と思われる人物の言葉が引っかかって、直ぐにナマエ含め母親の親族周りを洗いざらい調べた。
 結論から言えば、ナマエは母親の意思で手放された訳ではなかった。
 史実は大人たちの都合で捻じ曲げて伝えられていて、彼女の母親は我が子を捨てたのではなく、引き離された、というのが正しい。

 未だ男尊女卑の強い呪術界で、女だけが受け継ぐ稀有な術式。代を重ねるごとに弱まっていく中で、なんとナマエの母親も、ナマエに至らずとも劣らない実力を持っていた。
 しかし、物心ついた時には周囲からの重圧に耐えかねて、自身の術式で術式を呪ってしまったのだ。つまりは、顕現出来なかったのではなく、無意識の内に自ら「消してしまった」。
 そんな彼女を周囲は酷く罵り、果てにはナマエを生んですぐ家を追い出された。そうして彼女は間も無く自殺した。家を恨み、呪術を恨み、そして娘への執着を残して。

 いつか、ナマエが「術式に呪われてる気がする」とぼやいていたと傑に聞いた。今思えば母親が術式を呪った名残りのようなものだったのかもしれない。
 己の力から逃げた母と向き合った娘。
 その顛末は訊かれない限りはナマエ自身に伝えるつもりはない。もう過ぎたことだ。もう夜蛾ナマエとして生きる彼女には関係のない事だ。まあ、もう夜蛾も捨ててもらうつもりだけれど。





「あれ、まだ布団入ってなかったの」
「んー……さとるくんまってた」

 散々騒いで最後には料理教室の日程と俺からしっかり資金を強奪した悠仁たちは最後までナマエさん、ナマエさん、と犬っころのように離れず、名残惜しそうに帰っていった。当の本人は「また授業で会えるよ」なんて割り切りが良いのが、なんとも彼女らしくて笑ってしまった。
 なんだかんだ今日の彼女はまだ馴染まない身体での任務後にサプライズに泣いて笑って、早々に寝かせるべきだろうと風呂を勧めた。戻ってきた彼女の目はほとんど開いてなかったが、髪はキチンと乾かし終えていた。それからベッドを勧めて僕はシャワーを済ませてリビングに戻って今に至るわけだが。
 眠気と戦っているのか、ソファの上、体育座りでゆらゆらと揺れている姿が愛らしい。変な気を起こさぬうちに用件を訊いて寝かしつけようと決めて、隣に座った。ぽすん、と僕に寄りかかったナマエは口を開いた。

「さとるくん、はなしたいことあるでしょ」
「……ナマエがちゃんと起きてる時が良いんだけどなぁ」
「やだ、すぅごくはなしたそうだったもん、いまもそうでしょ」
「本当にお前はさぁ、」

 敵わないなぁ。自分の心は物心つく前に既に一度なくしてしまったくせに、人一倍他者の感情には敏感な彼女。それが僕に対しては顕著であった。学生時代は図星をつかれては度々喧嘩をしていたなぁと思い出に浸る。
 別に今言っても構わないが、彼女のことだ。驚きで眠気が飛んだだの寝れなくなっただの喚き出すのが容易に浮かぶ。うーん。難しい。

「明日起きたら話したい、駄目?」
「やだ」
「今日のナマエは珍しく我儘だね」
「……わがまま言う子はきらい?」
「寧ろ大歓迎、いつもそうしてくれたら良いのにって思ってる」
「やだぁ」
「それは嫌なのかぁ」

 ケラケラ笑う僕の程よい揺れに、とうとう夢の中にいってしまった彼女を、大切に大切に抱き寄せ、左手に煌めくプラチナをはめ込み抱き上げた。起こさないようそっとベッドへ連れてって、優しい繭の中に眠り姫を閉じ込める。前髪を退けてそっとキスを落として、リビングへ戻る。
 明日の朝、最初に見せてくれる表情は驚きか喜びか。想像するだけで幸福で満たしてくれる彼女は、僕にとって最高の呪いだと、らしくない自分にやっぱり笑わずにはいられなかった。



君は僕のプラチナレディ


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