「天元様、申し訳ありませんでした」
「こら、頭を上げなさい。君の判断は正しい。一人で太刀打ち出来る場面では無かっただろうし、情報を持ち帰っただけでも十分な働きだ」
間違った選択をしたとは確かに思っていない。けれど、もっと出来ることがあったのではないかと己を責めずにはいられなかった。そんな私の心中を察した天元様は「昔から変わらないねぇ」とまるで孫を愛でるような事を仰るから驚いた。
「……天元様、私のこと子ども扱いなさってます?」
「こぉーんな小さな頃から知っておる愛い孫よ。だからよく無傷で帰った。ありがとう」
「感謝を述べられるようなことは」
「謝辞はそのまま受け取っておきなさい。それがお互いの為になる」
そういって天元様は三枚の呪符を私に差し出した。先刻この場を去る前に話していた、姫彼岸花の描かれた呪符に受け取るか、思わず躊躇う。
次会う時は楽しい土産話を持っておいで。それだけ言って、天元様は私をあっという間に結界の外−−悟くん達が後処理に奔走しているであろう場所に飛ばされてしまった。手元の家紋を見つめて、天元様もなんだかんだ私に甘いな、と今度こそ奪われないように大切に仕舞い込んだ。
「伊地知くん!被害状況かっこ悟くんが原因かっことじはどんな感じ?」
「待ってナマエ遠回しに悪口やめて、何かっことじって」
「わぁ、地面抉れてる……」
「ナマエさんご無事で何よりです。まぁ、ご覧の通りです」
至る所に戦闘の痕跡が残っていて、矢張り一番目立ったのは虚式「茈」による地面の抉れだった。生徒達のことは硝子ちゃんがいるから心配ないだろう。必要があればお声が事前にかかったはずだ。
私は悟くんに全体を見渡せる位置まで連れて行ってほしいと頼み込んだ。私の家系の古書を全て読んだであろう彼は些か渋ったものの、普段の私なら人前ではまずやらない、首に回した腕と「早く抱き上げろ」という積極性に根負けしたのか、そっと私を抱きかかえて空中へとその長い脚で登っていく。トべるくせにそうしないのは、どうせ彼の周囲への見せつけなのでもう諦めた。
横抱きにされて見えた彼の表情は予想外にも穏やかなものであった。いつもの彼なら嬉々として茶化してきそうなのに、きっと家紋の理由を知った私への気遣いでもあるし、大切な生徒達が(怪我の度合いは違えど)無事だったことへの安堵。色んな気持ちが混ざっている、そんな表情だった。
「悟くん、あの辺りに降ろしてほしい」
「……術式、使うの?」
「手作業での補助監督さん達の手伝いで私が時間食うのと、術式だけであとはそばに居てあげるって言ったらどっちがいい?」
「……はいはい、僕の負けだよ」
悟くんはそっと地面へと私を降ろして、呆れ気味に数歩だけ離れた。まだやったことのないことをやるのに、まるで昔から出来ることのように身体は知っていた。偶然とはいえ、今日は悟くんのしつらえてくれた正装だ。きっとそれなりに土地の息吹は戻るだろう。
私は交流会の中心地でゆっくりと時間をかけてくるりと舞う。
術式順転『
「だから教えたくなかったのになぁ……」
そんなことを悟くんがぼやいていたなんて、傷ついた自然が青々と蘇る姿に感嘆していた私には全く届いていなかった。これで上層部は、私が普段使っていた術式こそが反転術式だったことを知ることになるのだから、彼の溜め息は尤もだった。それでも見捨てられない私を好きなのだから、悟くんはどうか諦めて振り回されてほしい。
ちなみに余談ではあるが、その後硝子ちゃんの治療の手伝いに行こうとして止められたのは、悟くんと正道、そしてカラス越しの冥さんだけが知っている。