「京都校のみんな久しぶりだねぇ」
「マイシスターナマエ、話には聞いてたがそれでもまだ小さいな」
「葵くんと比べて大きかったら嫌かなぁ……」
悟くんよりゴリマッチョはご遠慮したい。そんなわけで後処理と被害規模の共有を終えて、明日以降の会議をする五条くんを待つ間、私は高専寮の談話室で学生のみんなから今日の成果を聞いていた。
顔見知りも多い学年なので、私が訪ねてきても嫌がる素振りもなく一斉に喋り出した。主に桃ちゃんと葵くんが。他はクールな子が多いので、押され気味な私のフォローをしつつ、順繰りに近況を話したり、苗字が変わった事を「やっとか」と指摘されたり。東京校は目に見えて人懐っこい子が多いけれど、京都校の子達のこの猫っ気のある雰囲気も私は好きだ。一人ゴリラが居るけれど。
「そういえば葵くん、あんまり悠仁くん追いかけ回さないでよ。怯えちゃって可哀想」
「なッ、ブラザーと縁を切れと言うのか?!」
「距離感を保てって言ってるの」
あの七海くんにすら「ナナミ〜ン!」と怖いもの知らずな彼があそこまで人を拒否しているのは初めて見た。自分から絡むのは得意だが、いざ押される側になるとどうして良いのか分からないのだろう。
「二人の戦闘相性は良いんだから、悠仁くんのペースで距離詰めさせてあげなよ。先輩……ブラザーなんでしょ?」
「流石マイシスター!それもそうだ」
「ナマエさんほんとにこのアホ操縦するの上手いわね。京都校常駐してよ」
「桃ちゃん容赦ないなぁ」
「ナマエさん」
頃合いを見て声をかけてくれたのは憲紀くんだ。彼は加茂家の事情であまり名前を呼ばれる事を好まない。私がとある術式の生き残りで、名前しか持たないことを話してから、何か思案した彼から「貴方は名前で良い」と言ってくれた。こういうところは母親似の優しい子である。
「憲紀くん、特級と対面したのよね?無事でよかった。棘くん達のことも守ってくれてありがとうね」
「いや、私は何も……棘くん、とは、その」
「しゃけ!おかか!めんたい!の子」
「知識として知ってはいましたが、いざ対面すると流石に……おにぎりの具は驚きましたよ。ハンドサインがあったのでそことなく伝わりましたが」
「ははっ!そうだよね、でも理解できたならやっぱり憲紀くんはすごいね」
「わ!加茂紅くなってる珍しっ!!」
日頃褒められる事の少ない彼は照れてしまったのか、ほんのり紅潮している。それを目敏く指摘して戯れ合う姿は、やっぱり彼らも高校生なんだなと安心した。賑やかな雰囲気に後ろ髪引かれながらも、私は次に向かうべく部屋を後にした。
出る間際、ドア側の椅子に座る真依ちゃんの頭をそっと撫でた。大人の事情のせいで未だ確執の残る双子。少しでも楽しく過ごしていてくれたら良いと、願いを込める。
「恵くん調子どぅ……って何々、このすし詰め」
「おっナマエじゃん〜おつぽよ」
「パンダに棘くんに……全員集合じゃん」
「ナマエさん助けてください割とガチで」
「恵くんのガチかぁ……」
寮の個人に充てられる部屋は、木造以外は割と広いし日当たり良いし良い事ずくめだが、流石に今日の交流会参加生徒全員が入ればキャパオーバーも良いところだ。ちなみに元々一年ズが集まっていた所に見舞いに来た二年ズもあわさって現状に至るらしい。
「今さっき京都校の子達にも会ってきたけどさ、みんな今日は本当に頑張ったね。生きて再会できて嬉しいよ。だから、明日も元気に過ごせるようにゆっくり休んで欲しいかな?」
「ナマエさん言い回しが狡いよぉ……」
そういってひし、と抱きしめてから野薔薇ちゃんは自室へと帰っていった。他の子達もひと言ふた言交わして出ていく。そうして残ったのは悠仁くんと恵くん。私の中のMVPは間違いなくこの二人だ。着慣れない袴によたつきながらも傍に寄って、精一杯手を伸ばして二人を抱き締めた。今日一番命のやり取りをした子達。本当ならまだ護られるべき新芽なのに、戦う事を求められる。そういう世界だと理解して、合意して、彼らはこの世界を選んだ。私だって結果的にはそうだったのだから、何を言うのだろうと思われるかもしれないけど、それでも、駆けつけて守ってあげられなかったことが悔しくてしかたなかった。
彼らにとって戦うことは当たり前のことだろうが、それによって必ずしも生き残れるかどうかまでは当たり前じゃないことを、私は痛い程知っている。私が天元様の元に居た時、失くしてしまっていたかもしれないと後から報告を聞いて血の気が引いた。
「二人とも、生きててくれてありがとう」
少しだけ震えた声は、失いかけたことへの恐怖、失わずに済んだことへの喜び。果たしてどちらだったのだろう。未だ擦り傷の残る少年二人から返ってきた抱擁は力強く酷く私を安心させた。