探していた小さな身体は、革張りのソファに殆ど埋もれる様にして、今日明日のスケジュールを確認していた。埋もれた彼女が真面目に作業をするその姿がなんともシュールで、人目も憚らずに持ち上げて自身の膝の上に乗せた。当の本人も慣れた様子で僕の事を背もたれにしてくる。頬をふにふにつつくと、忙しいから後にしろや、と無言の圧を感じた。おかしいな、僕一応恋人というか……
 うん、考えるのをやめよう。

「マシュマロあるんだ〜ナマエも食べる?」
「たべる。あ。」

 視線は紙上のままに、口だけぱっかりあけている姿だけみたらただの幼女である。でも僕たちは知っている。彼女はれっきとしたレディであるという事を。
 口にマシュマロを放り込んでやるついでに紙面を覗き込むと、任務のスケジュールと先日頼んだ一年生の引率(という名のお出かけ)を見比べて、日程の被りがないかを確認しているようだ。前置き無く頼んだ事なのに、律儀に悠仁たちの要望を丁寧に聴き取ってメモしていたり今の姿だったり、やはり彼女はマメである。

「結局何処に連れて行く事にしたの?」
「んー?折衷案でケーキバイキングの後に買い出しかな?上京組のあれこれ見に行かないと」

 折衷案というのは、ナマエ曰く「悠仁くんと野薔薇ちゃんがバイキングとオシャレカフェで取っ組み合い始めたから」らしい。そんな事で取っ組み合いするなよ。そう思いつつも自分たちもかつてそうだったから人のことは言えないなと思って、ふ、と笑みが漏れた。
 ナマエの選んだ店は、ケーキだけじゃなくパスタなどのランチも充実しているのがウリらしく、その辺りはそこまで甘いものを好まない恵への配慮だろう。本当に抜け目ない。

「悟くん、ほんとにいいの?行かなくて」
「ほらーやっぱ先生居ない方が肩の力抜けるじゃん?だけど引率は必要だからナマエにお願いしたの〜」
「……私君とタメなんだけど?」
「ムッとしても可愛いだけだよ」
「…………」

 唇を突き出して少し頬を赤らめてる姿が微笑ましくて、けれど下手に機嫌を損ねてしまってもいけないので、マシュマロを再び放り込んで何も言えない口実を与えてやった。黙々と咀嚼しながら少しずつ赤みが引いてく彼女を持ち上げて、向かい合わせになる様改めて膝上に座らせた。

「なあナマエ、伊地知に僕の任務リスケ相談してくれたんだって?」
「!、伊地知くんマジキックする……」

 今度こそ顔を伏せてしまった彼女に我慢出来ずにけらけらと笑ってしまう。そうそう、こういう所が可愛くて仕方ないのだ。一応お伝えしておくが、幼女趣味ではない。





『五条くんお願い、逃げて』

 一度だけ見た、彼女の年相応の姿に心惹かれたのはもう何年前の事だっただろうか。制御の効かなくなった呪力を無理やり使役しようと飲み込んだ結果、涙ながらにそう訴えてきたナマエが、幼女姿よりもよっぽど脆くて儚くて、愛しいと思った。だから、どれだけの邪魔が入ろうと僕は彼女を手放す気は無い。世界滅亡の危機と彼女を天秤にかける日が来たら、その時決めれば良い。そんな日が来ない為に備えてきたのだから。





「じゃあ三人ともナマエのこと宜しくね、一応中身が大人でも見てくれは小さいからさぁ」
「ウッス!俺ちゃんとナマエさんの迷子札用意しといた!」
「いや、交代で手を繋ぐか肩車が安牌だぞ。この人すぐ人混みに流されるから」
「ねぇ私のこと幼児扱いするのやめて。」

 首をぐいっと持ち上げて、じとーっと見てくる彼女の首には迷子札と僕からのお小遣いの入ったがま口。札はひらがなで表記されていて思わず吹き出しそうなのを我慢して口元が歪む。
 最寄駅まで送迎する伊地知に悠仁たちだけ先に乗車させるよう促した。

「ねぇナマエ、ちょっとちょっと」
「なに?」

 いつも通りの黒いワンピースとショートブーツにキャスケット帽。そこに不釣り合いな筈なのに妙にマッチしているがま口に迷子札。これすら愛おしいのだから末期だ。
 てこてこと近づいてきた彼女の目線に合わせてしゃがみ込んで、内緒話をする様な仕草をすれば彼女はいとも容易く顔を寄せてくる。
 目隠しを下げてナマエの頬と額にキスを落とすと、ここ最近で一番の赤面を見せてくれた。

「ばっ………!!」
「ふっ、そーゆーとこが心配なんだよ?」

 誰かに拐われないように誰かと手を繋いでてね?そう言えば林檎のような顔のまま、お返しと言わんばかりに唇にキスを落としてあっかんべーをされた。車に向かって駆けてく背中を見て、今なら彼女を学生と関わらせようと決意した夜蛾センの気持ちも分かる気がした。
 結局のところ、惚れた弱みだ。構い倒したくて仕方ないということである。僕は小さくなる車を見えなくなるまで見送った。



無垢な君だから愛おしいのです


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