交流会を無事終えて、寒がりな私は少しだけマフラーが恋しい季節になった。とはいえ今までつけていたものでは長さが足りないし、悟くんのを借りるには服のテイストが違いすぎる。今日の任務もつつがなく終わったと、高専に電話報告をする。書類整理に追われながらも対応してくれた新田ちゃんが「迎えに行くッス!」と申し出てくれたが、マフラーを見たいから、と包み隠さず話して断った。電話を切る間際に「何かあればいつでも車は出す」と言ってくれた優しさは、彼女の良さだなと顔が綻んだ。

 一人で街中を歩くなんていつぶりだろう。少なくとも自発的にショッピングに赴いたのはこれが初めてで、実は少し緊張している。
 というのも、これまでは身体の幼さ故に迷子扱いされたり人混みに流されたり……結局誰かに手を繋いでもらったり、大半は悟くんに肩車をされていた。標高2メートルの景色は中々見ものである。学生時代は夏油くんも手助けしてくれたが、わざと横抱きにして悟くんを挑発してたりと、喧嘩が絶えなかった。そして結局最後には悟くんの腕に守られながら街中を進むのである。

 身長160cmに届くか届かないかギリギリの高さにようやっと慣れてきたが、それでも人混みを歩くのはまだ少し苦手だ。とはいえ今日は平日だし時間も少し早めなので、マフラーを見るくらいなら問題無くこなせるだろう。





 私は春先に悠仁くん達とも訪れたショッピングモールの中で、迷いなく歩を進める。以前悟くんがファッション雑貨を購入した店舗の取り扱い商品が殆どユニセックスだった筈なので、そこで買おうと決めていたからだ。任務中に使うことが多いだろうから、明るいカラーにしたい。マフラーではなくネックウォーマーもアリかもしれないな、なんて脳内で試着を繰り返しながら店の中を右往左往する。

「うーん……困った」

 ようやっとふたつに絞る事には成功したが、究極の二択になってしまった。結局マフラーではなくネックウォーマーにしたのは、私の制服の襟ぐりが広めだからだ。外側にマフラーを巻くよりも、中にネックウォーマーを入れ込む方が絶対温かい。寒がりな私の経験則がそうすべきだと言っていた。
 そして目の前では露草と勿忘草、2色の青が揺れている。ふと、背中をぐぐ、と丸めてワンピースを見せていた昔の彼の姿を思い出して感傷に浸る。そんな風に心に隙を作っていたから、人混みに混じる違和感に気づく事が出来なかった。ただただ不覚と言わざるを得ない。

「え………」
「私はこちらの露草が似合うと思うな」

 切れ長の目は柔く細められ、こちらを窺っている。呆気に取られる私の手からするりと露草色のネックウォーマーを抜き取った彼は、そのままレジで会計を済ませ、ご丁寧にタグまで切ってもらっている。私にほら、とつけるよう促した。プレゼント自体に他意はないと分かるので、黙って頭からかぶり付けてみせる。ハイネックな制服からアクセントカラーのように覗く露草色はほんの少ししか顔を出していないのに存在を主張していた。

「有難う、決めかねてたから助かった。それで何のご用?」
「この後カフェでもどうかな?奢るよ」

 にこり、と微笑んだ彼は、確かに色褪せぬままの姿なのに、再会して確信する。やっぱり彼じゃない。夏油傑の皮を被ったナニか(取り敢えず偽夏油とでも呼んでおこう)は何を意図して私に接触してきたのだろう。
 少なくともいま此処でことを荒立てる気は"一人もいない"ようだ。彼の後ろを歩くのは、先日報告のあった呪霊とその仲間だろうか。会話が成り立っているから特級の中でもかなり上位にあたるだろう。
 少し観察していると、見てくれだけ気にしなければ人間とそう変わりない。長髪で陽気な、一番人間じみた見目の呪霊が服をあてて「どう?どう?」と聞いては口々にコメントしている。一人は素直に感想を言い、一人は真面目にしてろと諭し……呪いが人間から生まれるからか、人間らしいなぁと思った。その様子からおそらく彼らも今、私と対敵するのは得策ではないと考えているのだろう。暫し悩んだ末、私は重たい口を開いた。

「……エスコートしてくれるなら、別に」
「いいね、口説き甲斐がありそうだ」

 これから始まるであろう腹の探り合いにウンザリしながら、気晴らしにカフェでとことん高いやつを頼んでやろうと心に決めた。



秘めたる心は露草色


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