「……で、結局誰が一番だったワケ?」

 頬杖をつきながら利き手で綺麗に切り分けたケーキを泳がせる野薔薇ちゃんに、パスタを啜る口が思わず止まった。前に君たちの先生がアホな競争したショッピングモールで買い出ししようか!と要らぬ前置きを昨夜したのを覚えていたのか。そんなに気になることかなぁ、いや、食事中の話題を振ってくれたのだろうかと、啜りきった麺をんぐんぐ咀嚼しながら思い至る。

「家入さんは兎も角、先生が真面目に選んだのか怪しいですけど」
「あー伏黒それ俺も思った」

 ブラックコーヒー片手にそう言った恵くんに悠仁くんが呆れ気味に同意している。悟くん君、生徒からの信頼なさすぎじゃない……?

「結果なんて言うまでもないよ、三人が何選ぼうと、最後に一番を選ぶのは正道……夜蛾先生だもん」
「ああ、全部可愛い!!ってコト?」

 親バカだわ……と大きく息を吐いて残りのケーキを口に運んだ野薔薇ちゃんの言葉は聞かなかったことにした。否定はしないが仮にも校長先生だぞ、君たちの。

「じゃあじゃあ!ナマエさんの一番は誰のだったんですか?」
「え?」

 悠仁くんの言葉で他二人の視線も勢いよくこちらに向く。え、そんなに気になるの?勢いに気圧されながらも、当時の3つ並んだワンピースを思い浮かべる。





「五条くん、ここレディースファッションだよ」
「お前中身はレディだから合ってンだろ」

 硝子ちゃんは自身の買い物に旅立った。夏油くんは荷物持ちで連行され、残った五条くんは私を連れてワンピース選びを再開していた。と言うよりは概ね決めていた様子で、目移りすることなくまっすぐこの店舗まで辿り着いた。

「絶対サイズ合わないよ……」
「さてそれはどーでしょう?」

 サングラスの隙間から見えたのは、いたずらっ子の笑みである。まあ楽しそうならいいか、と連れられるまま中に入っていく。
 五条くんが手に取ったのは、本来なら超が何個もつきそうな短いワンピース。硝子ちゃん辺りが来たらとてもセクシーで似合うだろうなぁと思った。
 3色展開のうち2色をハンガーラックから取り出して、窮屈そうに屈んで私にあててみせる五条くんは、失礼ながら滑稽だった。

「お、膝下よりちょい余裕ある?ビンゴじゃん」
「ロングワンピだね」
「ちげーよ」

 これからはお前も少しずつ身長伸びンだろ。
 そうぶっきらぼうに言い放った彼に思わず目を丸くした。正道が私を彼らの学年に放り込んだのは、極力術式の消耗を減らすためでもあっただろう。それでも、その先の変化なんて深く考えたことなんて無かった。そうか、私もちゃんと成長出来るのか。
 ん、と差し出された2色のワンピース。ハイネックの部分をチャックで締めるタイプで短い手足の私には脱ぎ履きもしやすそうだし、生地も思いの外伸縮性があった。切り替えも無いし、今の私が着てもロングワンピースとして問題なさそうだ。本当に彼は何処までもよく見ている。

「色、好きな方選べよ。どっちも青だけど」
「青だけど全然違うよ」
「あー手が疲れた、早く選べ」
「私に似合うワンピース競争じゃなかったの……」
「どーせ夜蛾セン親バカだから全部って言うだろ」

 それもそうだ。そもそも以前から全く同じ服しか着ない私に他の服も勧めていたのは、他でもない正道だ。そこまで分かってたのなら、何故この人は出来レースを開催したのだろう。
 不思議そうな私に彼は悪戯が成功したとでも言いたげな顔で囁く。

「次は全員私服で遊びに行こーぜ」

 お前の知らないモン、もっと見せてやるよ。
 初対面では一番私の事を面倒くさそうにしていた彼が、何故ここまでしてくれるのかが分からない。有能術師の気まぐれにしては至れり尽くせりである。意外と世話焼きなのだろうか。……うーん、それとはちょっと違う気がする。これから共に過ごしていけば、少しは彼のことを理解できるだろうか。彼のことを知りたいという、初めての他者への欲求に思わず口角が上がる。
 結局どっちにすんだよと急かす彼に、私は「君が似合う色を選んでよ」と伝えた。彼の目は果たしてどちらの青を選ぶだろうか。

 ねぇ正道。貴方は私に世界を見ろと言ったけど、暫くは五条悟だけで手いっぱいになりそうだよ。



未だ見ぬ深淵を見てみたい


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