野薔薇ちゃんが私の部屋と同じハンガーラックをご所望との事で、食後は一時分かれて行動することになった。悠仁くんの事は恵くんが面倒をみてくれるそうなので、お言葉に甘えた。まぁ、男子二人の方が動きやすさもあるだろう。

「ナマエさんの部屋、同じ間取りか疑うくらいオシャレだったからハンガーラックだけは絶対死守するわ」
「はは、現品なくても高専着でカタログオーダーしてあげるから、他の家具も見て決めなね」

 どうせ持って帰るのは面倒だ。全て郵送にしてしまうならどちらも変わるまいと、私がすっかり行きつけになってしまったインテリアショップに案内する。
 私の部屋にはクローゼットもあるけれど、着回しの激しい服はラックに常設しておくのが楽なのだ。急な任務でも、開け閉めせずに身支度が整うのは、特に人命が関わる任務の際は大きい。術師は常に秒の勝負なのである。
 けれど目の前の彼女は純粋にそのデザインが気に入ったようで、最近出たばかりの類似したラックもあわせて吟味している。

「野薔薇ちゃん、」
「?……ナマエさんどーしました?」
「ここは私出してあげるから、好きなデザインのやつ選びなね」

 インテリアは中々買い替えが利かない。私も過去に身長に合わない家具を買って苦労した事がある。彼女たち一年生の場合は、まだ懐もそこまで余裕は無い。妥協して後から後悔してほしくも無いし、これぐらいは甘やかしても許されるだろう。何よりこうして生徒を任されたのが初めてで、私自身も少し浮かれているのかもしれない。

「……ナマエさん男前、好き」
「野薔薇ちゃんみたいな美人に褒められたら調子乗っちゃうなぁ」

 けらけらと笑っていると、野薔薇ちゃんの眉間に皺が寄った。そしてじわじわと私との距離を詰めてくる。……私なんかマズイこと言った?セクハラ?モラハラ?とりあえず原因が分からず小さな声で彼女を呼んでみた。

「……ナマエさんって、ホンットーー!!に、五条先生と付き合ってるんですか?」
「うん?」
「こんなに可愛くて優しくて時折男前なのにあの万年ヘラヘラ職務放棄系アラサーの彼女であって良いわけない」
「あ、その事なんだけどね……」

 追い討ちをかけるように(私にその気は更々無かった)事実を伝えると、野薔薇ちゃんが五条コロス、と術式を両手に高専に一人戻ろうとするので、ハンガーラックと併せて全身鏡も買ってあげてなんとかその場を諫めることに成功した。





「付き合ってる越えて婚約してたんスか」
「世の中不条理よねぇ……」
「それは俺も同感だとしか言えないな」
「ええぇ〜……」

 再度集合して休憩がてらカフェに入ったら、早々に野薔薇ちゃんは先程の私との会話を烈火の如く二人にぶちまけた。そろそろその殺意をおさめてほしい。

「恋愛感情が無いとは流石に言わないけど、色々事情があったんだよ」
「事情……」

 悠仁くんは自身もある意味悟くんの力に生かされているからか、それ以上深掘りはしないでくれた。恵くんは仔細は知らなくとも、それなりにこの世界に長く身を置いている。大方の察しはついているのだろう。そんな二人の空気を読んでか、野薔薇ちゃんもこれ以上は言及せずに残りのアイスティーをストローガン無視で一気に煽った。(アルコール入ってなかったよね?)

「みんなから見て五条くんがどんな人なのかは分からないし、こういう人だよって押し付けるつもりもないよ。ただ、常に最適解を求めすぎて破茶滅茶してるところはあるかなぁ」

 それで救われる命があるから、私は否定しない。むしろその救った命がまた別の命を救っていくのを長年見てきたから、「嫁に来ない?」という雰囲気もクソもない婚約の申し出に、私はただ首肯だけで受諾したのだ。
 まあ、私の見た目が見た目だし、何よりお相手は世界一多忙な術師様である。婚約止まりでそこから先は何ひとつ進んでいない。けれど「それが一番武器になる」ことを知っているから、特別急かすこともない。

「あれ、電話……伊地知くんだ。ちょっと出てくるね」
「人攫いに気をつけてくださいね」
「……恵くん可愛げなくなったね」





「こちら夜蛾ナマエ、出るの遅れてごめんね伊地知くん」
『いえ、気にしないでください。買い出し順調ですか?』
「うん、お陰様で。朝送ってくれてありがとうね、無事買い出しも終わったしすっごく助かったよ」

 せっかくだから映画の一本でも連れて行ってあげてから帰ろうかな、と時間を逆算してから、さて要件は何だろうかと促した。
 するとガス、というなんとも痛そうな音と共に電話越しに小さく『伊地知マジキック』『もうしてますって!』と聞こえた。ああ悟くんも乗ってたのね。

『もしもーし、グッドルッキングガイ五条悟でーす』
「ぐ…なんて?要件だけ言って悟くん。今カフェの中に生徒だけ残してるの」
『……お前は俺と急遽任務、今高専出たから場所教えて』
「えー……特級様居るなら私要らないじゃん、頑張れ特級様」
『お前も似たようなモンだろーが。つーかそこは察しろ。とりあえず買い出し終わってるなら生徒は高専に戻るよう伝えて、じゃ。』

 素が出てるよ、とコメントする前にそこで通話は切られてしまった。察しろ、と言われても、この身体故に私は久しく任務に駆り出されていない。呼ばれたとしても一人での任務だ。昨年の大規模な任務でさえ別だったのだ。悟くんと一緒なんて何年振りかも覚えてない。私はなんともいえない不安を感じながらカフェの席へと戻った。
 ……映画は次の機会だな。



さようならば話は此処まで


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