「ねぇ正道、この刀さぁ、私がこのまま使わせてもらう事はできない?だめ?」
「……五条、視てくれ」
「異常無いでーす。それに俺もその方が良いと思いまぁす」
「ハァ……」

 一週間程刀と任務に赴いたり、出自を調べていたが、結論として私が持っていることが良い作用になると思ったが故のことだった。刀という攻撃手段が加われば、私は術式に頼らない戦闘時のカードが増える。そして私の呪力を食べることで刀は大人しくなるのだから、特別封印する必要が無くなる。結局調べはつかなかった以上、得体の知れないものだからこそ、手元で"監視"するのが手っ取り早いと思ったのだ。それには五条くんも同意してくれるらしい。但しそれを最終的に決断するのは師である正道だ。もっと言えば、上にこの刀の存在と処遇について進言する事を決めるのは、だが。

「刀での戦闘メインになれば、最終兵器としての残量が減る事がなくなるって言えばどーせ上は頷くよ、正道」
「お前はまたそういう言い方をして……」

 はあぁ……と盛大な溜め息をついて項垂れた正道は、暫し項垂れた後、力無い返答をくれた。数日ですっかり背負い慣れた巾着袋の中でカタカタと揺れると同時に、鳴き龍の鈴が鳴り渡った。





「五条くん、本当は少し嫌なの?私預かりになること」
「別に。仮に俺が預かってもただ呪力食われるだけで活用出来ねーし、お前が持ってる方が良い事ずくめならそーするしかねーじゃん」

 私を肩に乗せて廊下を歩く五条くんは、ふてた様子で吐くように言い切った。理屈ではなく、感情的な部分で何か不満があるのだろう。彼が「別に」で済ませようとする時は、大体そうなのだと最近覚えた。

「変わらない事かもしれないけど、私は聞きたいよ。五条くんがどう感じてるのか」
「……ホントお前鈍いよな。ムカつく」
「………………え、五条く、」

 肩から突如降ろされ抱きしめられる。突然のフリーフォールに私は目を白黒させるしか出来ない。首に這う何かがこそばゆい。一瞬だけちくりと痛みが走って、それから漸く目を合わせてくれた五条くんは、相変わらずふてた様子である。

「刀に妬くとか末期すぎてムカつく、それぐらい想われてることに気付かないお前にムカつく。でも一番は、そんな風なお前に作り上げた奴らが……ムカつく」
「……心配してくれてるの?」
「アー…もうそれで良い。良いから、鈴の音を聞く度に俺の事思い出してよ」





「マジ手強すぎて無理……」
「これは相当参ってるな、五条」
「だね。これはもうナマエはプロポーズされるくらいじゃないと気付かないかもしれないね」
「それガチの最終手段だろふざけろ」

 「日下部さんの任務に強行して剣の指導してもらうのだ」と去っていったナマエを見送った後、寮に戻ってことの経緯を話した。二人揃って人の不幸で飯を食う勢いで笑うものだから、イライラを通り越してなんだか疲れた気がする。

「でも婚約は割とアリなんだよなァ」
「悟今何歳か言ってご覧?」
「聞けよ最後まで」
「五条家御曹司サマと幼女ナマエちゃんが結婚は絵面的に問題しかないな」
「だから婚約までだって言ってんだろ。アイツの後ろ盾に五条家が居たら、それだけで上の馬鹿どもは下手にナマエを使うとか考えねーだろ」
「思いの外真面目な話だね。でも確かに、最終兵器の彼女には必要な後ろ盾だね」

 ウンウンと頷く傑は、さっきまでの揶揄う様子から真面目な顔つきにかわっていた。何か思う所があるのか、顎に手を当ててうーん、と唸った傑は思考を数巡した辺りでようやっと口を開いた。

「彼女なりに最終兵器として運用されないよう考えてはいるみたいだけど、その時が来て命じられたら……ナマエは迷いなく自己犠牲を選ぶよね」

 傑の言葉に硝子は僅かに目を伏せた。俺は、いや俺たちはそれだけは絶対に阻止したい。一人の大切な仲間を守りたいのは皆同じなのだ。夜蛾センもそれを汲み取ってくれたから、ナマエの帯刀を許したのだろう。
 上層部は彼女を人とは認識していない。いざという時の戦う手段のひとつ、武器としか思ってない。それを受け入れているナマエに始めこそムカついたが、彼女の過去や経験してきたこと、何より彼女の思う高専での存在意義を知れば知る程、そうならざるを得ないのだと知らしめられた。彼女を責めるのはお門違いなのだと。
 だから夜蛾正道という"父親"は、娘を想ってこのクラスに放り込むことを決めたのかもしれない。少しでも我が子が気づきを得てくれたらと、まるで子獅子を崖から落とす気持ちで、苦渋の判断だったろう。

「でもまぁ、私らの学年に入れたのは正解よね。なんせ最強屑共はタダでは死なないからな」
「硝子の物言いには棘があるが、私も同意だね」
「……とりあえず外堀埋めてプロポーズすっか」
「悟、だからまだ早いって。法律は守ってくれ」
「だぁから婚約までだっつの!」
「五条がプロポーズするまでに何年かかるかかけない?硝子」
「いいね、乗った」
「オイテメェら泣かすぞ」





「ああ〜、そんな事もあったねぇ。僕忘れてたのに、ホント硝子はよく覚えてるよねぇ」
「結局お前が遅いせいで賭けが頓挫しちゃったもんでな」
「え?何々、僕のせいにしないでよ。散々年齢の事言ってたのお前らじゃん」

 思い出に耽りながらコーヒーに口をつける硝子を見下ろしながら、僕はポケットに入れたままの左手の指輪の存在を確かめた。結局18を迎える前にプロポーズもとい婚約をしたが、御三家にいればそう珍しいことでも無い。ナマエ自身も全てを察した上で首肯ひとつで快諾してしまうのだから笑ってしまった。後になって彼女にもキチンと恋心が芽生えていたと知って一人悶えたのは僕だけの秘密だ。

「で?多忙極める旦那様は任務帰りに何の用だ?」
「勿論ナマエのことだよ。というよりは、アイツの出自のことかな。少し意見が貰いたくてね」

 目線だけこちらに寄越した硝子は端的に「話してみろ」と承諾してくれたので、僕はこれまでの断片的な情報を元に考えたことをひとつひとつ話していく。話が進めば進むほど硝子の表情は険しく変わってゆくが、あくまで機微な変化だ。通りすがり程度の人間なら気付かないだろう。最後まで聞いた硝子は脚を組み替えてから呆れがちに「あり得るな」と呟いた。

「要は、ナマエは母親が術式を消した事で身体が成熟して身籠る事ができた。だからこそ、術式を使えなくなった後も飼い殺しにされてた、と。反吐が出るけど多分そうなんだろうな」

 硝子のお墨付きを貰った推論なら、充分な手札になるだろう。これでナマエを"納得させる"準備は整った。あとはどのタイミングで話すかだ。硝子に「悪い顔だな」と呆れられたが、楽しいのだから仕方ない。ナマエはいつだって色褪せない、飽きさせない、僕の隣で光る道標のような存在なのだ。そんな彼女の新しい顔を見る度に僕は何度でも恋に落ちていく。きっと今回の件で悩み込んだであろう彼女には申し訳ないが、その悩みは忘れてもらう。
 さてどんなプランで行こうか。僕は巡る思考に口角が上がって仕方がなかった。



少しだけ咲くのは待ってくれないか


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