久々に引き受けた引率任務。同行するのは悠仁くん達2年生ズだった。既に一級仮認定が出ている子達だが、一人で任務に行かせるには、年相応にまだまだ見通しが甘い。極力一人任務は下級相手にという悟くんと正道の配慮だった。悠仁くん曰く最近は伊地知くんと千紗ちゃんが補助監督につくことが多いらしく、今日も例に漏れず運転席には千紗ちゃんが居る。先日亡くなった術師と組んでいた補助監督の子はどうか、と千紗ちゃんに訊ねれば、キチンとアフターケアをしてくれたらしい。なんて頼もしいのだ、城崎補助監督。男性陣代表が伊地知くんなら、女性代表は千紗ちゃんだろう。元気をもらえるという意味では新田ちゃんも良い勝負だ。

「そういえば此間の私の任務、無断見学してたって悟くんに聞いたよ」
「ナマエさんが剣術使うって私だけ知らなくて不満でした」
「あーそっか、野薔薇ちゃんは私と二人任務行った事無いもんねぇ」

 拗ねた様子の野薔薇ちゃんに美人が台無しだよ、と言えば、何故か鋭い視線は彼女の右隣二名に注がれる。睨みだけで四級呪霊なら祓えそうだな。私の考えを読んだかのように抱えた刀身はカタカタと揺れた。今日は出番無いと思うよ、と話しかければそれは困る!とでも言いたげに袋についた鈴がやかましく感じるほどに暴れ出した。悟くんとはまた違った手のかかり方をする愛刀に少しだけ呪力を流して黙らせる。

「いつ見ても生きてるみたいですね、その刀」
「まぁ、実際元は付喪神だったものだから、意思疎通図れるのはそこまで不思議でもないかな。あとは単に付き合いの長さだね」
「俺と初対面した時には持ってましたもんね」

 恵は懐かしい記憶を引っ張り出してしまったのか、途端に眉間の皺が増える。勿論五条悟が原因である。というか昔話をしていて恵くんの機嫌が急降下するのは全て悟くんの振る舞いの所為だろう。出会いも後から聞いて「最低だね」とコメントしたのは忘れない。おそらく私も悟くん本人も。

「さて、そろそろ現場も近いし、任務内容の確認をするよ。気を引き締めていこっか」

 仮にも悟くんから預かった子達だ。万が一が起きないよう、場を締める。とはいえ何度も死戦をくぐり抜けていた子達だ。万が一なんて事はまず起こらないと、大手を振って言えるのだけれど。間も無く到着する車は少しずつ速度を緩めだした。





 帳の内側で呪力の移動を眺めながら、普段なら帳の外側で待つ筈の千紗ちゃんと呑気にお茶を啜っていた。茶葉専門店で買った茶葉は、桜の香りが付けられていて春を感じさせるものだった。時間がかかると分かっていたので、大きな水筒に作ってレジャーシートと併せて持ってきたが、正解だったようだ。
 二級相当の呪霊が蔓延る廃屋と化した山奥のホテル内では、生徒と呪霊の追いかけっこが続いている。愛刀の反応から然程強い方ではないと分かっているので、千紗ちゃんはパンプスを脱いですっかり寛ぎモードだ。万が一襲いかかってきたとしても、おそらく腹を空かした愛刀が勝手に刺し殺してしまうだろう。袋から取り出されて鞘から抜かれたままの刀は酷く大人しい。

「今日の刀ちゃん、大人しいですね」
「いつもこうだと良いんだけどねぇ」
「人の想いの数だけ強い呪霊は居ますからね」
「本当にねぇ……あ、また一体減った」
「呪力の動きや感じからして、祓ったのは釘崎さんでしょうか?」
「……千紗ちゃん本当に訛ってないね、術師やろうよ。今なら引く手数多だよ」
「皆さんのサポートが生き甲斐なのでお断りします!まあ本当に迫られた時は戦いますけど」

 そう言って千紗ちゃんは目を細めて建物の中の駆け回る呪力3つを見つめていた。慈愛に満ちた瞳。呪いが蔓延る世界で、彼女もまた、未来を担う彼ら術師を温かく見守る一人なのだと思うと、なんと心強いことか。……そういう人達が私の学生時代にもっといたら、どれだけ良かっただろう。摩耗した果てに失くした彼の心も、未だ高専に、そして悟くんの隣に居続けてくれただろうか。
 今の環境の中ならば、彼のような悲劇が再び起きる事はないだろうか。悟くんの信じた道を間違っていないと心から言える様に、何度だって内なる自分に問いかける。悟くんが迷った時少しでも寄り添えるように、一番彼の道を疑い、一番彼の道を信じる存在であり続けるために。

「千紗ちゃん、結婚しても出来ればあの子達のそばにいてあげてね」
「何言うんですかナマエ先輩、私は仕事と既に入籍済みです」
「あら、それはそれでなんて勿体無い」

 せっかくの美人が貰われないままというのは、親御さんからしたらどうなのだろうか。まあ道を決めるのは彼女自身なので口を挟む事はしないが。

「ナマエ先輩、私、形は違えど彼らを守りたい気持ちは一緒です。だからこの仕事が好きで、ずっと続けたいって思えるんです」

 術師のままでは出来なかったことが出来る仕事ですから。そう言い切った千紗ちゃんの顔は何処か晴れ晴れしたものだった。私は思わずふは、と笑ってしまう。つられた彼女も笑いだす。最後の呪霊の消えゆく悲鳴が響く頃、ようやっと笑いは収まっていった。

「さて、最後の仕上げに行きますかね」

 私はぴょい、とレジャーシートから腰を上げて、吸い付く様に手元に寄ってきた愛刀を握って建物の中へと向かう。千紗ちゃんのお気をつけて、という言葉には片手をあげて応えるだけだ。





「残穢残しはないですかぁ〜?」
「あ、ナマエさん!最後のヤツ俺が倒しました!なんかすげーすばしっこいヤツ!」
「外から千紗ちゃんと動きだけ見てたよ。悠仁くんも負けず劣らずな動き方してたね」

 ワンコよろしく駆けてきた悠仁くんを見てカラカラと笑うと、倒した数でマウントをとる野薔薇ちゃんと、残穢残し無しですと興味なさげに答える恵くんも寄ってきた。流石、仕事が早くて大変宜しい。
 ひと通り済んだところで撤収しようとした途端、ピリ、と嫌な気配を感じた。この建物の隣の生い茂る森の中、確か過去に結界を張った祠があったかと思い出したが、恐らくそこに何かが、"居る"。
 悩んだ末に彼らには一度補助監督に報告に戻る事、式神が迎えに来たら私を追って祠に来るよう伝え、すぐに祠へと向かった。駆け出した途端カタカタと湧くように震え出す愛刀に、予感が的中したと悟り溜め息が漏れた。



きっかけなんて見落としてるだけだよ


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