高専に戻るまでの道案内は恵くんにお願いした。予定より早い解散を惜しんでくれる野薔薇ちゃんと悠仁くんに、嬉しさのあまり思わずハグをした。「次はオフの時に映画観に行こう」と伝えると、一年生3人から溢れんばかりの喜びが感じられた。それにまた私も喜びを噛み締める。

「ナマエさんコレ……小腹空いたら食ってください」
「あ!私が気になってたドーナツ!」
「……任務、気をつけて」
「……!へへ、恵くんありがとう」





「何ソレ」

 伊地知くんが開けてくれた後部座席には既に悟くんが居て、正直助手席にして欲しかった。が、おそらく任務の話は伊地知くんからではなく悟くんからなのだろう。渋々乗り込んだ矢先につっけんどんに投げかけられた質問である。

「……恵くんが、私の気になってたドーナツくれたの。任務気をつけてって。」
「へぇ……あの恵がねぇ〜……」

 しげしげと私の抱える紙袋を見てくる視線が鬱陶しくて、さっさと任務を共有しろと催促するよう少し大きめな「で?」が口から出た。肩が大きく跳ねた伊地知くん、ごめん。

「正確には僕の任務なんだけど、ナマエにやってほしくて。僕見てるから。」
「はぁ?どういう……」

 尻すぼみに声が落ちていく。自身で答えを導き出したからだ。答え合わせは勿論するのだけれど。

「宿儺の指、」
「正解。流石だね」

 悟くんは続けた。多分これから馬鹿みたいに忙しくなるし馬鹿共が動き出すと思うんだよね。最近ナマエは極力大掛かりな任務は振られなかったけど、多分これからはそうも言ってられない。ナマエが最低限のコストで任務をやってくれたら、僕は他に時間が割けるし、何より実践積んどいた方がナマエにとってもカンを戻す良い機会だ、と。
 淡々と告げる姿は、なんとも機械的だった。それは今に始まったことでは無いけれど、悟くん自身の気持ちとか願いとか、そういうのを全て取っ払って、「世界にとっての正解」を選ぶ時の姿だ。
 私は、彼が裏でやっていることを見ないフリをしている。本来"上"の奴らは私を酷使したくてたまらないのだ。それを、悟くんが請け負ったり他の術師に振ったりしている。それはかつて私が、己の術式に殺されかけた姿を見てしまってからずっと、ずっと。

 けれど、宿儺の器の存在によって、世界は一変したと言っていい。

 おそらく彼は、私の想像より何歩も先で、物事を考えている。いつか来る大きな戦いに備えて。私からしてみれば「最低限のコストで」戦うよう言われたのは、彼の僅かな甘えだ。私をフル稼働する方がよっぽど良い事は分かっている。分かった上で、彼は言ったのだ。言葉にはしないが、「生きて欲しい」と。ふと、懐かしい顔が脳裏を過ぎる。

 『悟の隣にいてやってくれるかい?』

 それは貴方の役目でもあったのに。『彼』の心を掬い上げられなかった私が言える台詞ではない。私は悟くん達の青い春を守る事が出来なかった。だから、悟くんが決意した今、今度こそ私はみんなを守ってみせよう。死ぬのが当たり前の世界だからこそ、生きている限りは笑っていてほしいのだ。次は失くさないように。
 私は、命を賭けて、君達の青い春を守ってあげる。





「……で、最低限のコストって、具体的にはどんな感じ?」
「んー、それなんだけどさ。ナマエ、術式無しで特級倒せる?」
「……本気で言ってる?それ」
「マジマジ、大マジ」

 うへぇ、と思わず顔を顰めてしまった。何が嫌って、倒せる倒せないではなく、時間がかかるし疲れる。それが何よりも嫌だった。まさかこれからの任務がそうなのか、と疑いの目を向けると、それは違うと首を横に振られた。

「一級案件だからナマエなら余裕でショ」
「その自信どこから来るの……」
「愛、かな?」
「何か言ってるなぁ……」

 わざわざ付いてきたという事は、久々の除霊任務につく私に万が一のことがあった時、彼自身がフォローに入るのだろう。そうならないよう努めはするけれど。
 ご武運を、と告げて帳の向こうに消えていく伊地知くんから、目の前の呪霊に意識を向ける。私の場合、術式をうっかり使わないようするって案外難しいかも、なんて思いながら、私は思い切り地を蹴った。



今から始まるワルツを君と


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