「え?私が何の仕事してるのかって?」
「前にナマエさん、無職じゃないって言ってたでしょ?でも大学生でもなさそうだし」
「半分当たりで半分はずれかな?」
「ナマエさんそればっかだね」

 口を尖らせて不機嫌である事を隠しもせず咎める遊真くんに、私はけらけらと笑いながらついてきて、と伝える。不思議そうな顔のままてこてことついてくる遊真くんを横目に「入りますよー」と声をかけながらノックをすれば、室内からは開いてるよ、と部屋の主人は入っておいでと促した。


唐沢さんと内緒話


「おやおや今日はデートかい?」
「ふふ、唐沢さんお疲れ様です」
「ナマエさんこの人って」
「スポンサー募ったり資金調達したり、お金周りのお仕事をされている唐沢さんだよ」

 予想外の人物だったのか、遊真くんは目をまんまるにして食い入る様に唐沢さんを見つめていた。当の唐沢さんは「そんなに熱烈だと照れてしまうね」なんて歯牙にも掛けない様子だ。

「オサムの件ではたいへんありがとうございました」
「三雲くんの件?唐沢さんまた何かしたの?」
「ヒーローに反論の場を与えただけさ」

 それを活かすかどうかは彼次第だったけれどね。そういって肩を竦めた唐沢さんは、おそらく確信犯だろう。彼はそう言う人だ。彼が言うには、大規模侵攻による多大なる被害を三雲くん一人に背負わせようと企んだ根付さんに対し、記者会見の場に三雲くんを連れて行った、それだけのことらしい。根付さんは機転のきく人だからつつがなく会見は終わったのだろうが、三雲くんが現れた時はさぞかし肝を冷やしただろう。ボーダーが外とやり取りする上で、裏の顔が唐沢さんだとするならば、表の顔は広報部を支える根付さんだろう。当分続くであろう胃痛にお悔やみ申し上げる。
 唐沢さんは生粋の玄界民だが、纏う空気も行動もどこか近界民のものを感じさせるから、私はこの人の事が結構気に入っていたりする。私の言葉に遊真くんはちょっとわかるかも、と笑っている。

「で、カラサワさんがナマエさんとどう関係してるの?」
「なるほど?それで遊真くんがついてきたのか」
「まあみんな不思議がりますよね」

 ふむ、と顎に手を添えていた唐沢さんは、立ち話も何だと言って来客用のソファへと私たちを促した。チラリとデスクをみるに、大方仕事が行き詰まったので私たちを程よく休む言い訳にするつもりだろう。それでも期限は決して破らない人だ。

「私の仕事はね、唐沢さんの補佐だよ。本部職員ではないから外部委託みたいになるの、かな?他にもお世話になった大学教授のお手伝いをテレワークでしてるの」
「ナマエさんってアラシヤマと同い年でしょ?まだ大学生じゃないの?」
「そこは大人である私の都合だね」
「カラサワさんの?」

 こてん、と傾いた頭上には幾つものハテナが浮かんでいた。それはそうだろう。近界民で戸籍すら存在しない私が学校に通えるだけでも奇跡なのに、唐沢さんはそれ以上のことをやってのけたのだから。まあ私の大学事情は「その方が唐沢さんが準備しやすいから」だと言われたが、頼んだ手前我儘は言わなかった。

「私海外の大学出身なの。唐沢さんのツテでね。そしたらぽんぽん飛び級しちゃって、今は名義上は在学扱いだけど、殆ど教授の補助してるだけなの」

 そういって遊真くんも見慣れたであろう私の相棒であるノートパソコンやタブレットを持ち上げてみせた。(余談だが、手書きのノートは以前筆記体ばかりで「読めん」と迅が頭を抱えていた。)

「ナマエさんは誰かのサポートをするのが得意なんだな」
「生粋のリーダーが出来ないタイプだね」

 唐沢さん手厳しい。それでもその手厳しさが潔くて私が好きだ。変にオブラートに包むくらいなら、そのまま吐き出してくれた方がよっぽど良いというものだ。そういう点では遊真くんも素直で良いと思う。だからつい世話を焼いてしまうし、あまり言いふらさない仕事事情も話してしまったのだろう。

「まあ、私は安心したよ。ナマエくんがこうやって他者に自身のことを話す様になるとはね」
「そんな事ないと思うけど」
「君の仕事や在籍先をきちんと知ってるのなんて、隊員の中だと迅くんと嵐山くん、あと雷蔵くんくらいのものじゃないか?」
「それなら今日の俺で四人目だな」

 唐沢さんの言葉を受けてきょとん、としてしまった。何度でも言うが、決して隠しているつもりはなかったし、聞かれれば全然答えた。近界民であることは話せないので、多少ぼかす事はあるやもしれないが。
 それでも聞かれる事がなかったのは、私がみんなに対して自身が近界民、みんなは玄界民と線引きをしては、遠ざけていたから。優しいみんなはそれを察して踏み込まずにいてくれたのだろう。

「そういえば太刀川くんの単位が危ういらしい。今度勉強でも見てあげたらどうだい?」
「やる気がない人に教えられることなんてないので」
「君も大概手厳しいな」

 私が玄界に残ると決めた時に真っ先に環境を整えてくれたのは実は城戸さんと唐沢さんだった。私は内緒の「いたずら」をする唐沢さんににこりと微笑んで、「いたずら」の為のUSBを渡して遊真くんと部屋を後にした。
 その数日後、大手スポンサーが新たに名を上げてくれたとか資金提供だけだったとか。真偽の程は唐沢さんだけが知る。

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