次の交渉の場には、遊真くんと修くんも加わっていた。遊真くんは嘘を見抜けるサイドエフェクトがあるし、何より私と同じく近界を良く知る存在だからだろう。修くんは自発的にか、或いは遠征の際必要だから知らせたかったのか。どちらにせよこの場には約束通り、ガロプラの遠征艇から帰された私がちゃんといた。戻ってきた時、視えてた筈なのに酷く安堵している迅がなんだか可笑しくて、思い出しては律していた表情が緩む。
 彼らの交渉が終わり、去ろうとするラタを私は慌てて引き留めた。交渉内容に聞き入っていたら、危うくついてきた理由を忘れてしまう所だった。

「このイヤリング、片方は貴方が持ってて」
「……私が、ですか?」
「あの中で唯一違う感情をこのイヤリングに向けていたでしょう?本当は両方渡すべきなんだろうけど、それだと直接渡したガトおじさんにも、持ち主だった王妃様に怒られてしまうから」
「……有難う、ございます」

 去り際彼の手に握らせた片側のイヤリング。私の耳にはもう何の飾りも無い。もう片方はあのオルゴールの中に眠らせてきた。通信機能も何もないけれど、彼にはとても大切な意味を持つものだと、出会った時の視線でなんとなしに感じた。改めて深く頭を下げた彼は、静かにその場を去っていった。レギー達に次はいつ生きて会えるだろうか。ポケットの中のトリガーを強く握り締めた。





「へー、ナマエさんガロプラ行ったことあったんだ」
「まさか知り合いが来るとは思わなかったけどねぇ……まあ対敵しても手を抜いてあげる気は更々無かったけどね」
「ナマエさんらしーね、オレ嫌いじゃないよ」

 そんな風に訊ねてきた遊真くん自身は、ガロプラは記憶の中にはないそうだ。行ったとしても大分幼い頃で、レプリカ先生が居ないと分からないと言う。
 私の受け答えを聞いて驚くのは修くんだけで、遊真くんは近界のことをよく理解していた。今日の味方は明日の敵になり得る。それが近界を放浪する者の運命なのだ。過酷な国では兄弟で戦わせて、強い方だけ滞在を許すなんてこともあるらしい。人質という形だっただけ良かったのかも、と思ってしまうのだから私も大概狂っている。

「でもナマエさんがガロプラの遠征艇に居たと聞いた時は驚きました……いくら知り合いだったとはいえ」
「あら、きっと修くんも同じ立場なら行ったと思うよ私。ねぇ?遊真くん」
「あはは、分かるかもソレ」

 でしょう?とゆるりと笑うと修くんはすっかり口を閉ざしてしまった。否定出来る要素が無かったのだろう。彼は根っからの善人なのだ。ふと話はガロプラ襲撃当日の、彼らの試合の話に移る。改めて風間さんは修くん贔屓だな、なんて思ってしまうが、どこか応援したくなる存在なのだ。三雲修という少年は。もしも近い未来、彼らが近界に行くのであれば、必要なのはトリオン量と戦闘力だけではない。彼のような機転の利く頭脳がいなければ、隊員の首は簡単に飛んでゆく。ふと視界の端でニヤリと笑う遊真くんが問う。

「どう?俺の隊長は」
「見ていて飽きないね、遊真くんも楽しくて仕方がないんでしょう?」
「ナマエさん俺と同じサイドエフェクトだったっけ?」

 2つも持っててたまるかこんなチカラ。私は遊真くんの言葉を笑い飛ばして、視線を修くんに戻す。何か言いたげな視線は未だ泳いだままだ。変な所で不器用なのは、何処か迅を彷彿をさせる。迅だったら放っておく所だけれど、相手はいたいけな少年だ。ゆっくりでいい、と次の句を待つ。

「ナマエさんは、これまで遠征に行った事はありますか?」
「勿論、トリオン量が多い人間は居るだけで価値があるからね。何より上の人達はみーんな私が近界から来た事を知ってるし」
「……三輪さんも、ですか?」

 私は顔を伏せて首を横に振る。遠征に行くメンバーで近界民だったと知るのは、旧知の中である嵐山と、機密会議に呼ばれやすい東さんに冬島さん、それから風間さんだ。あとは自身でも把握していない。伝えたかもしれないし、伝えてないかもしれない。少なくとも三輪に話す事だけは出来ない。彼の近界民嫌いは根強いが、いち隊員として私の事はいたく信頼してくれているからだ。
 先日のガロプラ襲撃後も1人最前線で白兵戦をしていた私に下手くそな優しさで労いの言葉を残していった。それは紛れもなく未だ知られていない証拠である。現在は玉狛支部に住み込みとなっている私だが、元が無所属な事もあって玉狛支部の括りには入っていないようだ。廊下で会えば普通に挨拶はするし、時にはぶっきらぼうにトリガーをかざして、私の代わりに自販機の支払いを済ませてしまう。そんな距離感。

「前にも話したけれど、私こっちで暮らしてる期間の方がすっかり長くなっちゃったから、元近界民っていうのもなんか違うし、かといって今更玄界民ともいえないから……でも人間である事は同じだから、ラベリングなんて大した意味は無いのよ、きっとね」
「僕も、ナマエさんはナマエさん。それで良いと思います。」

 何処かぎこちなく、けれどまっすぐな言葉は私には少しばかり眩しかった。彼はこの先きっとたくさんの人を救っていくのだろうと、白髪の相棒と並ぶさまを見てぼんやりと眺めた。ああ、今日はなんだか良い夢でも見れそうだ。

選ばれない者のカタストロフィ

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