「諏訪さぁ〜ん?もっと後援くれないと笹森くん無駄傷増えて漏出過多で落ちちゃいますよ〜」
「アイツはまだオメーみてーにぴょんぴょこ動けねーよッ!!」
背後から感じる重音をBGMに、目の前のトリオン兵と刃を交える。笹森くんと同じセットにしてもらったトリガーは、いつもと比べると些か軽く感じた。自身の黒トリガーが如何に重厚かつ頑丈で、己のサイドエフェクトなしでは扱えないことを実感する。
数日任務を共にすることとなった諏訪隊。初日の笹森くんはオペレータールームから全体の動きを見たいからと、現着していない。笹森くんくらいの腕があるなら、諏訪さん達のフォローと言わずガンガン前に出ても面白そうだなぁなんて、まだ少し先の未来を思い描きながら立ち回る。後ろからはギャーギャーと文句が、そしてそれを宥める声が聞こえてきた。滅多にない現場での混成部隊。新鮮で、でもどこかむず痒い。
「諏訪さんお疲れ様でした、笹森くんは何か質問とかある?答えられるかは分からないけど」
「いえ!なんていうか、先入観を壊された感じ……色んな可能性があるんだってすごく勉強になりました!」
先入観?と首を傾げて訊ねれば、小手返しなどの些細な動作のことを言っているらしい。そういえばくまちゃんも以前目を丸くしてたっけ。あの時彼女に話したことをそのまま伝えて、私は隊室を後にした。この後は仮眠をとった後、冬島隊との混成部隊で防衛任務だ。逆算してやるべき事の順番を決めて、少しだけ足を早めた。まずはエンジニア室に行って試作トリガーを受け取らないと。
「らーいぞーうさん、これありがとうございました。試作機と交換してくださいな」
「お、丁度いい所に来たなナマエ」
「エネドラとのゲームはお断りです、今日夜勤あるの知ってるでしょ?」
『オレも今日はゴメンだな!コイツ向きのゲームじゃねぇ』
「エネドラのプロコン捌きが頭おかしいだけだよ」
小さい体の前にはゲーム機に繋がるコントローラーが鎮座している。今日はテレビゲームの気分らしい。私はどちらかといえばターン制の盤ゲームの方が好きだ。チェスとか将棋とか。
「んで?どーだったよ混成部隊」
「諏訪さん煽って文句言われたよ」
「そらそーだ、何言ったか想像に難くねーな」
「伸び代ある若者をガンナーのフォローばかりに使うのは勿体無いからついね」
「まー、それは違いないな」
ズココ、と殆ど空の紙カップからは鈍い音が鳴っている。机には既に同じものが数個、暫く缶詰だった事が伺える。はて、そこまで急ぎの用などあっただろうか。
「……んや、少し飲み過ぎただけだ」
絶対嘘だ。雷蔵さんの絡む隠し事なら、彼を当たればすぐ分かるだろう。仮眠は諦めて私は広報部へと足を向けた。
「生憎嵐山隊は取材詰めなので会えませんよ」
「根付さんウソつく時目が右向きがちなの知ってる?」
「えっ」
「ウソでーす」
隠し事が下手な嵐山との対面は叶わなかったが、上層部が私に何か隠れてことを進めていることだけは分かった。根付さんから内容まで聞くのは難しいだろう。ならば賭けに出る他ないか。私はそう離れていない部屋にノック無しに滑り込み、部屋の主の名前を呼んだ。
「根付さん辺りから気づいたかい?」
「分かってるくせに、唐沢さん。詳細は聞きません。ただこれだけ教えてください。"主犯"は迅ですか?」
唐沢さんは何も言わない。部屋に流れる沈黙、それ自体が答えに他ならなかった。迅がまた一人で抱え込んでいる。しかもそれは私に関する事だ。ここ暫くの出来事を振り返れば概ね予想がつくというのに、悪あがきもいいところだ。私がため息と共に肩を落とすと、唐沢さんはからりと笑った。
混成部隊の話が挙がった辺りから違和感は覚えていた。そしてやっぱりな、とも思った。恐らく仮想敵の狙いは私で、私が狙いとなればやって来る国はひとつしかない。
迅は、彼は齢19にして、ひとつの国が滅びることを選んだのだ。ただのいち戦闘員である私を守る為に。私自身、迎えがきたとしても抵抗しただろう。最悪こちらから乗り込んで殲滅してやったっていい。それ程に母国を憎いと思っている。
(迅が罪悪感を抱える必要はあるの?)
結局は私と母国の問題である。きっと彼は私を救うことで国ひとつ滅びる事に罪の意識を忘れないだろう。そういう奴なのだと、皆が思っている。最善を選んだならば、信じて、罪悪感なぞ捨ててしまえばいいのに。不器用な男の子。私に対して「守らせてくれない」とふてることがあるけれど、あなたこそ「共に背負わせてくれない」じゃないか。見えた未来をあなたがどう選ぼうと、最後の選択をするのは私自身だ。なら罪悪感なんて背負うだけ無駄だというのに、本当に、本当に貴方ってひとは。
「……ほんとうに、ばかね」