「遊真くんごめんスイッチ!」
「俺コイツのが得意だから任せて」
そんなやり取りが聞こえて、己も戦いの最中だというのに(流石は元近界民の2人だ)なんて思わず感心してしまった。以前遊真が洩らしていた言葉はこういう事かと、1人腑に落ちた。多分ナマエさんも思ってはいるけど言わないだけだよ、と言ってもいたな。大量のトリオン兵を風刃で捌きながら、俺の何倍もの数のトリオン兵をガラクタ宜しく積み上げている2人をちらりと盗み見る。このままいけば何事もなく閉門して終わる筈だが、どうも先程からビジョンが歪む。
「ザコ一掃は私に任せて!そいつちょっと面倒!」
「だからナマエさんもホッパー入れなよ」
「適材適所!あと私一応SEあるし!」
『私と遊真くんが前線バディ、迅は後ろで流れてきた奴を捌きながら未来視に注力。いけそう?』
そう提案したのはナマエだったが、未来視が不安定になる事も視野に入れていたのだろうか。相変わらず未来視を信じない彼女だが、今回はそれに救われる形になるだろうか。揺れ動くビジョンが少しずつ明瞭になった時、最初に見えたのは横たわるナマエだった。分岐点は、「ッ、遊真切るな!!」
「……ここは、」
「ナマエさんの部屋だよ」
「ゆうま、くん」
「任務終わってすぐに気絶するように寝ちゃったから、オレが連れて帰ってきたんだよ。ご飯、食べられる?」
「あのひとは、どうなったの」
涙を堪える声が、震えた。遊真くんは唯々じっと私を見つめて答えない。いや、答え方を探しているのかもしれない。思わず彼の腕を掴もうとした私の手は、触れはしたが握力なんて無いに等しかった。
随分と陽が高いことから、任務の後、長いこと眠ってしまっていたようだ。私にとって空白となった時間を知ることが、知るべきなのに、酷く恐ろしい。
「……"あのヒト"は迅さんが本部に連れて行った。その後の連絡は来てない。ただ、酷く衰弱してて、生きてるのが奇跡みたいだった」
「……何か言ってた?」
「うん、言ってた。でも、それを伝えるのはオレじゃない。事の顛末も全部、迅さんに聞くべきじゃないかな。オレ、迅さんの制止が無かったら躊躇いなく殺してたから」
淡々と告げる遊真くんは、何処か迷子の子のようだった。あのヒト、とぼかしているが、状況から遊真くんも迅も、私にとってどういう存在なのか理解しただろう。
遊真くんにスイッチしてもらったトリオン兵は、見た目こそ既存種に酷似していたが、中身は全く別のシロモノだった。なんと中には人間が納められており、その人間のトリオンで稼働していたのだ。良く言えばトリオンさえあれば、訓練など受けずとも戦える。逆をいえば強制的に戦わせられる。なんて悪魔的な思想のトリオン兵なんだろう。創造主をくびり殺してやりたい。
しかし今はそれよりも目の前のことだ。私は今度こそしっかりと手を繋いで言葉を紡ぐ。
「近界だったら躊躇いが命取りだもの。当然よ」
「でもここは玄界だよ、でしょ?迅さん」
「そーだな、遊真ありがとな。かわる」
「うん。またね、ナマエサン」
部屋を出ていく遊真くんに端的な返事だけ返す。ゆっくりと遊真くんのいた位置に収まる迅は、何処かひと仕事終えたような(実際夜勤明けだからそうっちゃそうだ)、そんな表情で私に体調を訊ねてくる。倒れたこと自体は単純なトリオン切れと過労、ダメ押しのストレス負荷である。迅が今聞いているのはそういう事ではない。おそらくストレスについて訊ねているのだろう。
「正直、驚いた。だって居るはずが無いから」
「あのヒト曰く、お前たちが国を出てからずっと、戦争のたびにあのデカブツにトリオンを喰われてたらしいね。ただ星の子のリミットが近いから、他国から少しでもトリオンのある人間攫おうとしてたみたい」
「そう、なの……」
「他の防衛地点でも同種のトリオン兵が居たらしい。戦いに不向きな人間も、トリオンがあればすぐに兵士になれるってワケだ」
そう最初に言ったのはおそらく鬼怒田さん辺りだろう。くしゃりとシワの寄った顔で吐き捨てているのが目に浮かぶ。生死は分からないが、この迅の何処か気の抜けた話し方から察するに、恐らく中にいた彼らはエンジニア室預かりで拘束とは名ばかりの保護となったのだろう。
「……多分、本当は私が最初に選ばれてたのよ。星の子として。それを……制止して……」
「待った、そう憶測だけで自責の念に駆られんな。事実は聞かなきゃ分かんないだろ」
「でも、」
「まずは体調整えて、そしたら一緒に面談しにいこう?……お前の母さんに、さ」
浅く開いたトリオン兵の中から見えた顔は、記憶には殆ど無いはずなのに。やつれて恐らく面影なぞほぼ無いだろうに。私は直感的に心臓が掴まれた。
ああ、やっぱりあのヒトは母様だったのか。