「会議、私は居なくて良いよね?」
「はぁ?ナマエも一応召集かかってるだろ。何でそうなるんだよ」
「白兵戦してることが分かってるなら、私に必要なのは"どこまで暴れていいのか"だから。細かい作戦下手に聞くより結論だけ迅から聞くのが良くない?」
「……あー、お前そうやってまた」

 一瞬煌めいた瞳は私の未来を視たのだろう。自身の暴れ回る周辺の下見だったり玉狛第二の子達の進捗を見たり、今日の会議に向けて迅のシフトを受け持ち連日夜シフト続きだった為に出来なかったことをやりたい。そんな本心がのぞき視えてしまったのだろう。駄目と言いづらいと言いたげな顔の迅は、淹れたてのコーヒーを嗜む林藤支部長に助けを求めるような視線を送る。

「今更言う事聞いてくれる奴じゃないからなぁ。それに先に貸し作っちゃったのは迅だろ?諦めろ」
「やったー、林藤さんだいすき」
「えぇマジかよ……林藤さん絶対俺の味方だと思ったのに」
「日中の未来視回りまで同伴頼んだのは欲のかきすぎだったな、迅」

 快活な笑いで迅の背中を叩き、林藤さんは支部長室へと戻っていった。きっと私が申し出たことだと聞いた時点で、最後にこうなる事は予想していたのだろう。最も渦中の迅は気付かなかったようだが。
 元々会議に出るのを好まない私は、呼ばれるたびに露骨に嫌そうなポーズを取っている。遊真くんを狙って玉狛支部に強襲を仕掛ける話が出た時には堪らず口を出してしまった。身内で争う事ほど無駄な事はない。今回は私が居なくとも隊員の中でも長寿に入る面々も集う。荒れることはまずないだろう。尚更行く必要性を感じない。行ってもせいぜい会議後に太刀川さん辺りの戦闘狂達に相手をしろと追っかけ回されるのがオチだ。それならば、やるべき事を優先的にやるべきだ。

「……1人であんま抱え込むなよ」
「それ迅が言うの?」

 玄関に腰掛けショートブーツのジップを上げていると、視界端にかがみ込んだ迅を捉えた。まだ何かあるのか訊ねようとしたのも束の間、私の首にぐるりと真新しいマフラーが巻かれた。昨日悩んで結局棚に戻したマフラーだった。いつの間に。振り返ろうとしたが、不安そうに揺れる瞳が一瞬だけ向けられて、そのまま私の肩口に埋もれる。そのまま後ろから抱きしめられて、私はどうしたの、と問う事しかできない。

「今回は人の生き死にはみえてないんでしょう?だから私も大丈夫だよ。前みたいに生身で戦う様なことはしないし」
「……ナマエはいつも自分を大切にすることを忘れるから、俺が甘えてばっかりだよ」
「いいじゃない、迅の貴重な甘え相手。光栄」
「俺が嫌なんだっつーの」
「はは、じゃあ会議は宜しくね」

 そっと迅の腕を解いてトン、と外へ一歩踏み出す。振り返る事はしなかった。甘えてしまいそうで、それが当たり前になっていくのが酷く恐ろしいから。玉狛に移り住んでも、まだ私の根っこは変われずに居るのだ。





「盛大に振られたなぁ、迅」
「……林藤さんの援護射撃の所為だよ」
「はっは!悪い悪い、でもアイツの事も尊重したいんだよ俺は」
「尊重?」
「此処に慣れる事にまだ怯えてるんだよ、アイツはさ」

 迅には分からないか、と半ば諦めた様な言い方をされて少しだけムッとしたが、事実俺はナマエの隠し上手に騙され続けている。大事なことはいつも教えちゃくれないし、見せてもくれない。つけ込む隙も無い。それでも1人離れた場所で片足立ちをし続けられるよりはよっぽどマシにはなった。
 それでも時折進んで1人になろうとする瞬間がある。俺はそれが怖くて仕方なかった。また此処から離れていくのではないか。その考えはずっと消えてくれない。中々末期なこの症状は、ほんのささやかなトラウマとでも言えようか。

「俺たちは独りじゃないんだよ、ナマエ」

 呟いた言葉は静かなリビングに響くだけで、誰にも届くことはなかった。

遠くなる雨降りとざわめき

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