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「次即死技来るからタイミング合わせて」
「これチートだよねぇ〜必殺技溜まってなかったら対処無理じゃんね」
「……玄人は必殺技使わず対処するけどね」
「いやーでも倒し方のコツ掴めたから次はソロでも頑張ってみる!マルチ助かったよ、ありがと研磨くん。ココア淹れ直すね」

 引っ越してすぐ聞かれて教えた私の新居には些か似つかわしくない人物が、気まぐれな猫の如く現れた。練習はどうしたの。ゲームしにしただけじゃないんでしょ。聞きたいことは山ほどあったけれど、藪蛇でも困るので、何も聞かずに「何飲む?」とだけ訊ねて部屋へと招き入れた。
 私のやっているオンラインゲームをいつの間に始めていた彼は「フレンド申請させろ」と言い、ひたすら私のワールドボスを蹂躙していった。交わされるのはゲームのことだけで、彼は何も言わない。きっと待っているのだ。私の言葉を。でも私はその言葉を紡がない。紡いではいけないと思い込んでいる。

「……ナマエの制服、変わったんだ」
「ああ、まあ転校したからね。女子校だからなんかソワソワするの」
「ソワソワ?」
「なんかこう……女子力眩しっ!てなる」
「なにソレ」

 少しだけふにゃりと笑った研磨くんに何処かホッとしながら、置き時計に視線を向ける。思っていたより時間が経っていて、あと少しで夕飯時だ。研磨くんに食べていくかを訊ねると、暫し視線がうろうろしてから、小さく頷き返してくれた。その時の彼の思惑なんて気付かぬまま私はキッチンに立ち、このあと彼のことを恨む事になった。後で聞いた話だが、彼のスマートフォンはとある一通のメールのせいで鬼電がかかって来ていたらしいけど、面倒になって電源ごと切ったらしい。



 一通のメールには、幼馴染には珍しく写真が添付されており、内容はキッチンに立つナマエの後ろ姿を画角に入れつつも自身も映り込みピースを向ける、なんとも挑発的なものだった。あ、表情はいつも通りだけども。文面も「いえーい」という本気で思ってる顔なのか、文面が間違ってるのかいよいよ分からなくなってきた。
 覗き込む部活終わりのメンバーは各々羨ましいだの部屋広いだのナマエチャンがキッチン似合うだの好き放題に言っている。堪らず夜久に「どーするよ、コレ」と迷走気味なことを聞けば「いや研磨迎えにいけよ」と、気心知れた仲なら分かる英断に乗っかるしか無かった。とことん俺にふっかけている研磨の様子を見るに、いよいよ逃げ場を失った。男黒尾鉄朗、腹を括った。いや括らされた、畜生。




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