「思ってたよりは遅かったな」
「早い方が良かった?」
あの日からもうどれぐらいの時間が流れたかは分からないが、次世代の彼らの成長を見届け、生きる事を全うして"此処"に来たつもりだ。幸いにも私の最期はまるでランプをカチリと消すような、そんな楽な最期だった。痛みもない、ただ電池切れのようにストンと意識を失うように私は還ったのだ。
次に目を開けば私を抱き抱える悟くんの姿。高専時代の容姿なのは、彼の執着がそこにあったからだろう。遅かった、と言う彼の表情は晴れ晴れとしたもので、おそらくきちんと生き抜いた私を嬉しく感じているのだろう。
「私、悟くんの代わりにはなれなかったけど、彼らの支え程度にはなれたと思うんだ」
「俺である必要ねーだろ、アイツらはお前のことだって必要としてたし、代わりは居ないんだから」
今生はどーだった?とニヒルに笑う彼は、私を抱えたまま大きな窓越しに青空を眺めている。次々に飛び立つ飛行機は輪廻の先へと続いているのだろうか。さっさと乗る事も出来ただろうに、敢えて乗らずにいたのは、私を待っていてくれたなんて。自惚れても良いだろうか。私の心中を察したのか、悟くんは「急かす気はなかったけど、ずっと待ってた」と素直な言葉を吐いた。それだけで十分だ。
がむしゃらに愛し呪い合った私たちは、間も無く新しい命として歩んでいくだろう。ならば次の生でもどうか、愛という呪いで以って、貴方と巡り会えますように。
『愛してくれてありがとう』
泡沫の彼方に消えた声は、もうどちらのものかなんて分からないが、いずれ生まれ変わる私達にとっては詮無いことである。
2025.4.26 fin.