『分析結果を元に中和剤を打った。これ以上は私にも出来ることはないだろう』
「充分だ、遊真くんも忙しい中申し訳ない」
「イエイエ、オレもナマエさんには早く起きてほしーし」
「……迅が言うには、大規模侵攻に間に合うかは五分五分だそうだ」
「侵攻前に起きてすぐに現着出来るかは別問題だもんな」
忍田と遊真、レプリカはガラス越しに未だ眠りから醒めないナマエを憂いた。脳波から夢を見続けているらしいが、一体どんな夢を見ているのだろう。遊真はもう眠ることの出来ない身体で、最後に見た夢なんてとっくの昔に忘れてしまった。ただ思うのは、それほどまでにナマエを捕まえて離さないような、そんな甘い夢なのだろう、と。
「ナマエさん起きたら10本勝負やりたいな、オレ」
「彼女と君が?ははっ、それは是非観戦したいな」
叶うのがどれほど先かは分からない。それでも希望的観測、この場を明るくするには十分な願いだった。
:
朝のしんと静まり返った道場で一人、習慣の黙祷をしていた。けれど思い出せない、私は一体誰にこの黙祷を捧げていたのだろう。……なんて、知らんぷりしたままで居られるほど子どもでは無かった。年齢不相応に大人びてしまった自分に嘲笑しながら、かつて愛用だった竹刀を握り込む。
「もう行くのか」
届いた声に振りかぶった竹刀を下ろす。どういった経緯かは分からないけれど、分かるのは、目の前の祖父はまやかしであるという事。いくつもの違和感を繋ぎ合わせて出した結論は、分かっていても再びの別れには違いない。出来れば顔を合わせる前に脱出の糸口をと思っていたが、そうもいかないらしい。
「引き留めにきたの?」
「まさか。お前は少し勘違いをしているが、私は敵ではない。廃れた国の作り出した、ただの現実逃避さ」
黒トリガーになった人間に再び会い、そのまま天命を全うする。ふざけた代物さ。そう言い放ったおじいちゃんは私のバングルを指さして話を続けた。
適合者から得たデータとトリガー情報を繋ぎ合わせて作られたのが、この夢の中の仮想空間で、廃れた国が死ぬ前の夢くらい見させて欲しいと作られたもので、今回私が被害に遭ったのは想定外の事だったらしい。死ぬ未来の人にとってはこれ以上ないものかも知れないが、まだまだ生きねばならない私にとってはとんだ迷惑だ。
これが夢の中なのだというのなら、現実ではどれくらいの時間が経ってしまっているだろうか。大規模侵攻前にとんだ失態だ。目が覚めたらすぐに状況確認をしなくては。
「作り物の分際で、と思うかもしれんが」
「なあに?遺言くらい聞きますよ」
「気をつけて、行ってこい。もう当分此方には来なくていいぞ」
「え……それって、」
問いかけは崩壊していく夢の中に、泡沫の如く弾けて消えた。私は暗闇の中を暫く漂い、そして。
:
「本物の、おじいちゃんだった……?」
聞けず仕舞いとなった問いを洩らしながら、頬を伝った涙をぐいと拭う。どれほど眠っていたのか分からないので、ひとまずゆっくりと身体を起こした。軋みを少しだけ感じたが、それ以外の不調は見当たらない。見渡すとそこがエンジニア室併設の特別救護室だと分かった。しかし不思議なのが、ガラス越しには誰一人居らず、解析室の灯りだけが漏れ出ていた。それだけで何かが既に起きていると判断するのには十分だった。
私は自身に繋がれたチューブを全て抜き、部屋の外に置かれていた愛用のトリガーベルトを装着して部屋の外へと駆け抜けた。大規模侵攻はもう始まっている。私の直感が侵攻者のもとへと誘ってゆく。
『総員距離を取れ、アレの火力はバカに出来んぞ』
『バカにはバカでどうですか?東さん』
『ナマエ起きたのか!だが一人でいけるか?』
『少し時間を稼ぎます。その内浮いた駒がヘルプに来てくれますよ』
駆けつけた先ではボーダー精鋭のスナイパー陣を相手取って一人優勢を保っていたとみえる敵の姿。確かに一発が重く、それが連続となれば近接武器は不利だろう。……標準のトリガーであれば。
本部で確認した通りなら、少し時間を稼げば出水くん達が駆けつけるだろう。その間だけ、スナイパーが隙を見つけやすいよう私が距離をつめる。出遅れた分、仕事はきっちりやりますとも。
「女を苛める趣味は無いんだが?」
「いじめられるほどお前は私より強いのか?」
「なに?」
漆黒のバングルは瞬く間に太刀へと変わる。私は撃ち込まれる弾丸を太刀で弾き返しながら、速度を緩めることなく敵の喉元目前まで迫った。あと一歩踏み込もうとした所で、敵の銃口が足下へと向いた事に気づき後退する。あと少しの所を、足場を崩され思わずムッとしてしまうが、焦らず土煙に紛れて距離を取った。ジジ、と耳元に通信が入ったから、実質選手交代である。黒トリガーからスナイパーのトリガーへと切り替えてレーダーを起動すると、米屋くんと出水くんが馬鹿にしあっているのを緑川くんは苦い顔で見ているのを視界の端に捉えた。君も大概迅バカだと思うけどなぁ。
『弾バカと槍バカなら、私は剣バカ?』
『剣バカは太刀川さんじゃねーか?あの人の代理で太刀川隊臨時で入ったらしーじゃん』
『あのまま加入してくれって言ったら、汚部屋を理由に断られたぜ』
『先輩達片付けないの?』
緑川くんは隊長の性格上、隊室を汚す以前に私物化する事が無いんだろうな。戦闘バカ3人は戦う事に対しては真摯に取り組んでいるが、会話はまるで休み時間の男子学生だ。それでも強いのだから、流石と言わざるを得ない。戦い慣れた3人に指示を仰ぎながら私も加勢する形で敵の注意を削いでいく。時間稼ぎに費やした分、残りは彼らに任せるのがベストだろう。
そうでなければとっくに迅さんから個人通信なり何なり、連絡が来ているだろう。大きな分岐点はおそらくここ以外の場所なのだ。そっちに注力してもらう為にも、今私に出来ることは。フルガードに加勢して、そのまま重力に乗って渾身の槍が降りかかる。細く開かれた彼の視線からは、敵とはいえこれだけの大人数相手に立ち回った彼・ランバネインへの賛辞が感じられた。ああ、そういえはそういう人だったなぁ。
「ワリィな、こちとらチームプレイなんだわ」
そう言って米屋くんの槍が貫く。見事、と土煙の中ランバネインがこぼしたのを聞いて、ぼんやりとなぜ敵だったのだろうなんて、意味のないことを考えていた。
「充分だ、遊真くんも忙しい中申し訳ない」
「イエイエ、オレもナマエさんには早く起きてほしーし」
「……迅が言うには、大規模侵攻に間に合うかは五分五分だそうだ」
「侵攻前に起きてすぐに現着出来るかは別問題だもんな」
忍田と遊真、レプリカはガラス越しに未だ眠りから醒めないナマエを憂いた。脳波から夢を見続けているらしいが、一体どんな夢を見ているのだろう。遊真はもう眠ることの出来ない身体で、最後に見た夢なんてとっくの昔に忘れてしまった。ただ思うのは、それほどまでにナマエを捕まえて離さないような、そんな甘い夢なのだろう、と。
「ナマエさん起きたら10本勝負やりたいな、オレ」
「彼女と君が?ははっ、それは是非観戦したいな」
叶うのがどれほど先かは分からない。それでも希望的観測、この場を明るくするには十分な願いだった。
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朝のしんと静まり返った道場で一人、習慣の黙祷をしていた。けれど思い出せない、私は一体誰にこの黙祷を捧げていたのだろう。……なんて、知らんぷりしたままで居られるほど子どもでは無かった。年齢不相応に大人びてしまった自分に嘲笑しながら、かつて愛用だった竹刀を握り込む。
「もう行くのか」
届いた声に振りかぶった竹刀を下ろす。どういった経緯かは分からないけれど、分かるのは、目の前の祖父はまやかしであるという事。いくつもの違和感を繋ぎ合わせて出した結論は、分かっていても再びの別れには違いない。出来れば顔を合わせる前に脱出の糸口をと思っていたが、そうもいかないらしい。
「引き留めにきたの?」
「まさか。お前は少し勘違いをしているが、私は敵ではない。廃れた国の作り出した、ただの現実逃避さ」
黒トリガーになった人間に再び会い、そのまま天命を全うする。ふざけた代物さ。そう言い放ったおじいちゃんは私のバングルを指さして話を続けた。
適合者から得たデータとトリガー情報を繋ぎ合わせて作られたのが、この夢の中の仮想空間で、廃れた国が死ぬ前の夢くらい見させて欲しいと作られたもので、今回私が被害に遭ったのは想定外の事だったらしい。死ぬ未来の人にとってはこれ以上ないものかも知れないが、まだまだ生きねばならない私にとってはとんだ迷惑だ。
これが夢の中なのだというのなら、現実ではどれくらいの時間が経ってしまっているだろうか。大規模侵攻前にとんだ失態だ。目が覚めたらすぐに状況確認をしなくては。
「作り物の分際で、と思うかもしれんが」
「なあに?遺言くらい聞きますよ」
「気をつけて、行ってこい。もう当分此方には来なくていいぞ」
「え……それって、」
問いかけは崩壊していく夢の中に、泡沫の如く弾けて消えた。私は暗闇の中を暫く漂い、そして。
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「本物の、おじいちゃんだった……?」
聞けず仕舞いとなった問いを洩らしながら、頬を伝った涙をぐいと拭う。どれほど眠っていたのか分からないので、ひとまずゆっくりと身体を起こした。軋みを少しだけ感じたが、それ以外の不調は見当たらない。見渡すとそこがエンジニア室併設の特別救護室だと分かった。しかし不思議なのが、ガラス越しには誰一人居らず、解析室の灯りだけが漏れ出ていた。それだけで何かが既に起きていると判断するのには十分だった。
私は自身に繋がれたチューブを全て抜き、部屋の外に置かれていた愛用のトリガーベルトを装着して部屋の外へと駆け抜けた。大規模侵攻はもう始まっている。私の直感が侵攻者のもとへと誘ってゆく。
『総員距離を取れ、アレの火力はバカに出来んぞ』
『バカにはバカでどうですか?東さん』
『ナマエ起きたのか!だが一人でいけるか?』
『少し時間を稼ぎます。その内浮いた駒がヘルプに来てくれますよ』
駆けつけた先ではボーダー精鋭のスナイパー陣を相手取って一人優勢を保っていたとみえる敵の姿。確かに一発が重く、それが連続となれば近接武器は不利だろう。……標準のトリガーであれば。
本部で確認した通りなら、少し時間を稼げば出水くん達が駆けつけるだろう。その間だけ、スナイパーが隙を見つけやすいよう私が距離をつめる。出遅れた分、仕事はきっちりやりますとも。
「女を苛める趣味は無いんだが?」
「いじめられるほどお前は私より強いのか?」
「なに?」
漆黒のバングルは瞬く間に太刀へと変わる。私は撃ち込まれる弾丸を太刀で弾き返しながら、速度を緩めることなく敵の喉元目前まで迫った。あと一歩踏み込もうとした所で、敵の銃口が足下へと向いた事に気づき後退する。あと少しの所を、足場を崩され思わずムッとしてしまうが、焦らず土煙に紛れて距離を取った。ジジ、と耳元に通信が入ったから、実質選手交代である。黒トリガーからスナイパーのトリガーへと切り替えてレーダーを起動すると、米屋くんと出水くんが馬鹿にしあっているのを緑川くんは苦い顔で見ているのを視界の端に捉えた。君も大概迅バカだと思うけどなぁ。
『弾バカと槍バカなら、私は剣バカ?』
『剣バカは太刀川さんじゃねーか?あの人の代理で太刀川隊臨時で入ったらしーじゃん』
『あのまま加入してくれって言ったら、汚部屋を理由に断られたぜ』
『先輩達片付けないの?』
緑川くんは隊長の性格上、隊室を汚す以前に私物化する事が無いんだろうな。戦闘バカ3人は戦う事に対しては真摯に取り組んでいるが、会話はまるで休み時間の男子学生だ。それでも強いのだから、流石と言わざるを得ない。戦い慣れた3人に指示を仰ぎながら私も加勢する形で敵の注意を削いでいく。時間稼ぎに費やした分、残りは彼らに任せるのがベストだろう。
そうでなければとっくに迅さんから個人通信なり何なり、連絡が来ているだろう。大きな分岐点はおそらくここ以外の場所なのだ。そっちに注力してもらう為にも、今私に出来ることは。フルガードに加勢して、そのまま重力に乗って渾身の槍が降りかかる。細く開かれた彼の視線からは、敵とはいえこれだけの大人数相手に立ち回った彼・ランバネインへの賛辞が感じられた。ああ、そういえはそういう人だったなぁ。
「ワリィな、こちとらチームプレイなんだわ」
そう言って米屋くんの槍が貫く。見事、と土煙の中ランバネインがこぼしたのを聞いて、ぼんやりとなぜ敵だったのだろうなんて、意味のないことを考えていた。