君と僕の朝を迎えにいこう

『東さん!ナマエです、迅さんから何か聞いてますか』
「お、やっと起きたか。起きてすぐであれだけ動けるなんて流石だな」

 滅亡目前の乱世国家から何故か迷い込んだ超小型トリオン兵の薬で眠りについていたナマエの声は、暫く間が開いた事も感じさせない"いつも通り"を演じていた。
『ナマエが起きるかどうか、次の大規模侵攻で大きな分岐点になるから、東さんよろしくね』
 俺のことを名指しで訊ねたのも、いつも通り、何かあれば未来視の先で会うであろう年長者に言伝を託していると思ったからだろう。まさしくその通りだが、果たして彼女が目覚めた事でどんな未来の確変が起きるのだろう。

「好きに暴れろ!だそうだ」
『……!ふは、ナマエ了解、です』

 ぶつんと切れた通話。現在の状況は作戦進行と並行して伝えた。何処までも自由な彼女は、一体何を起こすだろうか。結末を見る為にも、俺もやるべき事をやらなくては。





(迅さんは好きに暴れて良いと言った。そして今の状況を鑑みるなら……)

 何度か試みたが本部に繋がらない。おそらく其方にも刺客が向けられたのだろう。指示を仰げないのと勝手に動くのは申し訳ないが、迅さんが『暴れて良い』と言うのだ。ならばお言葉に甘えて暴れさせて貰おうじゃないか。

(東さん達とは逆、手薄な方から挟み撃ち狙いでトリオン兵を落としてく!)

 グラスホッパーで後回しになっている地区へと駆けた。その速度は緩めないまま、私は再びアイビスを構えて遥か遠くにいるトリオン兵にヘッドショットを決めていく。スコープ越しに住民が居ないことを確認して、アイビスを離した動作の流れでトリガーベルトにトリガーを戻す。そして一瞬またたいた腕の黒トリガーがみるみるうちに形状を変えていき、漆黒のバズーカ砲を担ぐ。ざわめいた血液が思わず舌舐めずりをさせる。

「ごめんね、この国はみんな強いんだ」

 土煙が晴れた頃、そこにはもうトリオン兵も彼女自身も既に消え去っていた。





「お、また未来が動いた……これはナマエだな」
「迅サン、ナマエさん起きたのか?」
「お前とレプリカ先生のおかげでな。これでだいぶ死傷者が減る未来になった」
「やっぱりナマエさん強いんだな」
「普段ああ見えて割と好戦的だからな、アイツ」

 へぇ、と含みのある笑みを浮かべた遊真だが、意識はきちんと目前の敵に向けたままだ。変化した未来からして、おそらく本部からの指示はナマエ本人がまだ目覚める前のことで、東さん辺りから状況把握した上で単独奔走しているのだろう。あいも変わらず、俺の未来視への"読み"が良い奴だ。それなら俺は俺のやるべき事をやりますかね。遊真と共に踏み込んだのは再び未来が動いた時だった。





「……終わった、かな」

 復旧した本部から敵は撤退し、最後の門が閉じたと通達が入る。最良から二番目辺りの結果だろうか。一人一人の活躍は勿論だが、ナマエが目覚めてくれたのはかなり大きい。雑兵相手が多かった彼女にも戦功をつけてもらうようあとで進言しておこう。ふう、とゆっくり息をはくと、オイ、と不満気な声が耳に入り、其方へと視線を向ける。

「お前の仲間、撤退したってよ。悪いようにはしないって」
「そんな言葉を鵜呑みにする程愚かじゃない」
「かたいねぇ〜……ま、とりあえず捕虜ってコトで大人しくしててくれよ」

 目の前の少年・ヒュースは、不機嫌ではあるがエスクードから解いても逃げたり暴れるようなことはなかった。力量差を見誤る程愚かでは無いらしい。伊達にこの若さで遠征に来るだけのことはある。

「迅さ〜ん!」
「お、起きたかねぼすけ」
「その節はお騒がせしました……」

 駆け寄って来たナマエの頭をわしわしと撫でると、けらけらと笑いながら換装体を解いた彼女は、病室からすぐに出たせいでパジャマ姿でバズーカ砲を担ぐ、なんともちぐはぐな格好であった。指摘しようか迷いはしたが、再び換装するだけのトリオンは残っていないだろう。未来視でヒュースが逃げる素振りもないので、俺自身も一度生身へと戻り、ジャケットをそっと彼女の肩にかけた。不思議そうにするナマエに真意は言わず、ただ「病み上がりが風邪ひくぞ」とだけ伝えて、俺達の大規模侵攻防衛は終幕を迎えた。
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