いよいよ迎えた玉狛第二の初ランク戦。まだ体調が万全では無い修くんは解説を任されたらしい。顔見知りの佐鳥くんがいるとはいえ、初めて尽くしでは大変だろうと、桜子ちゃんから私にまでお声がかかった。
元々観戦するつもりで夜間シフトまでまだまだ時間がある中本部まで来たのだし、私は二つ返事で了承した。久しぶりの解説は流石に緊張するけど、修くんと佐鳥くんがいてくれるなら大丈夫だろう。
『と、いうことで急遽!夜の解説席では激レアなナマエさんにもお越しいただきました!突然のお願いにも快く受けてくださって有難うございます!』
「此方こそ、久しぶりで拙い箇所があっても目を瞑ってくださると幸いです」
『密かに人気が高いナマエさんの実況、むしろ私は刮目せよ!!と言いたいですね』
それどこ情報?とこの場で聞くのは藪蛇な気がしたので薄笑いで誤魔化した。刮目しないで試合を見てください。要らぬ緊張で変な汗かいてる気がする。なんかヤだな。居心地の悪さに視線を泳がせていると、修くんと視線がかち合った。首を傾げると、素直な彼は思ったままを言葉にした。
「ナマエさんって何処でも名前呼びなんですね」
「ナマエは自分の苗字嫌いなんだよ。だからみーんな名前呼びだな。あれ、ナマエの苗字って……」
『っと久々のゲストで盛り上がっている間にも全隊転送が完了しました!今回は玉狛第二が三雲隊長不在の為人数不利ですが如何でしょう?』
グッジョブ桜子ちゃん。心からの拍手を送りたい。佐鳥くんの言葉を遮るように転送完了を知らせ、話題は玉狛第二の数的不利へと。勿論応対するのは三雲隊長だ。彼からしたら突然のフリだったけれど、まるで「ああそんなことか」とでも言い出しそうな軽い雰囲気で返答した。
「あ……大丈夫だと思います」
彼らを知る者なら誰もが思っただろう。『そりゃそうだ』と。前シーズンのボーナスが無いので下位グループからのスタートだったが、中位で先に揉まれても良かったんじゃないかと思ってしまう。それ程に遊真くんの動きは無駄がなく、しかし鮮やかなものだった。
人が撃てないらしいと聞いていた千佳ちゃんも、得意の砲撃で上手く炙り出しに成功している。これはオペレーターも中々良い仕事をしているとみた。決して下位グループが弱い訳ではない。ただ、彼らが些かイレギュラー過ぎたのだ。経験値が桁外れの遊真くん、トリオンモンスターの千佳ちゃん。そして玉狛第一のオペレーターも務めている栞ちゃんはランク戦に於いては最も経験豊富だ。
『玉狛第二、生存点含め8ポイント獲得!一気に中位へと食い込んだ!!ナマエさん、どうでしょう?』
「結果的に玉狛第二が独走した形になりましたね。ただ勘違いしないで欲しいのは、決して下位グループが弱い訳ではないという事です。玉狛第二は結成したてでまだ情報が少なく、数的不利を差し引いてもそういったアドバンテージが存在しました」
『なるほど……』
「これだけ目立ったという事は、次から既出の能力は研究され尽くす。これだけは三雲隊長に覚えておいて欲しいですね」
『つまり、玉狛第二の次の試合は隊長の立ち回りと未だ出していない戦術がポイント、という事でしょうか?』
「と、思いますが佐鳥くんはどうです?」
「ちょ、ここで振るのは狡くない?!」
ランク戦の仕組みを説明しただけで仕事が終わった気でいたであろう佐鳥くんを此方へと引き戻すように話題を振れば、案の定な反応に、観客席は笑いに包まれた。恨めしそうに閉口している彼に代わって、締めの言葉にするとしよう。
「先日の大規模侵攻も、このランク戦も、根本的な部分は同じです。今の自分に何が出来るのか、それを常に己に問い続けてくださいね」
『とても同年代とは思えない素晴らしいお言葉、そして解説ありがとうございました!以上で夜の部を終わります』
お疲れ様でした、という桜子ちゃんの声と観戦席のざわめきが重なって、あっという間にがらんとしてしまった。夜の部はこうなりがちなのは今に始まった事ではないけれど。
まだ広報の仕事があるという佐鳥くんにお疲れ様と伝えて、修くんにも声をかける。そして私は時間を確認しながら、ゆったりとした足取りでエンジニア室へと向かった。本当は修くん達ともう少し感動を共有したかったけれど、"彼ら"はもう次を、いや、もっと先を見ているだろう。だから野暮な事はしない。基地に戻ればレイジさんあたりが今後の動きをそことなく教えてくれるだろう。
「次は狙われる側……あ、修くんは散々追いかけられた経験があるのか」
千佳ちゃんの為に命懸けで駆け抜けた修くんと、レプリカ先生の痕跡を探す遊真くんの背中を思い出す。千佳ちゃんだって、界境防衛機関に入るまでに何度も苦い経験をしてきている。なら狙われる側はむしろ慣れているだろう。
界境防衛機関の隊員は誰一人として弱くないから、油断してるとぱっくりと食べられちゃうけどね。玉狛支部だからと肩入れも贔屓もする訳ではないけれど、何かしてくれそうな、そんなワクワクを与えてくれる魅力がある。さて、そんな彼らのランク戦がつつがなく進行されるように、私もお仕事頑張りますか。いつものコーラ片手にパソコンと睨めっこしていた雷蔵さんに声を掛けて、戦闘ログを収集し終えた私のトリガーを預かる。
「あ、そーいえば」
「雷蔵さんどうしましたか?」
「ほら、お前目が覚めてから碌に検査もせず大規模侵攻の防衛行っただろ?二度手間になるし今脳波だけ取らせろ」
「えー……めんどくさいです」
文句を言うな、と言いたげに私の背中をぐいぐいと押す雷蔵さん。ヘルメット状の脳波計を被せられてしまえば、もう抵抗しようがない。大人しく手探りでベッドに横になると、良い子だな、と子ども扱いされた。もう学生でいうところの高2なのになぁ。
心配してくれているのは分かっているけど、そろそろ子ども扱いせずに、守る対象ではなく共に戦う存在として扱って欲しい。だってその為に今の未来を選んだのだから。
そんな事を考えていたものだから、玉狛第二を買っている迅さんを思い出して少しだけ、本当に少しだけ、もやっとした。
元々観戦するつもりで夜間シフトまでまだまだ時間がある中本部まで来たのだし、私は二つ返事で了承した。久しぶりの解説は流石に緊張するけど、修くんと佐鳥くんがいてくれるなら大丈夫だろう。
『と、いうことで急遽!夜の解説席では激レアなナマエさんにもお越しいただきました!突然のお願いにも快く受けてくださって有難うございます!』
「此方こそ、久しぶりで拙い箇所があっても目を瞑ってくださると幸いです」
『密かに人気が高いナマエさんの実況、むしろ私は刮目せよ!!と言いたいですね』
それどこ情報?とこの場で聞くのは藪蛇な気がしたので薄笑いで誤魔化した。刮目しないで試合を見てください。要らぬ緊張で変な汗かいてる気がする。なんかヤだな。居心地の悪さに視線を泳がせていると、修くんと視線がかち合った。首を傾げると、素直な彼は思ったままを言葉にした。
「ナマエさんって何処でも名前呼びなんですね」
「ナマエは自分の苗字嫌いなんだよ。だからみーんな名前呼びだな。あれ、ナマエの苗字って……」
『っと久々のゲストで盛り上がっている間にも全隊転送が完了しました!今回は玉狛第二が三雲隊長不在の為人数不利ですが如何でしょう?』
グッジョブ桜子ちゃん。心からの拍手を送りたい。佐鳥くんの言葉を遮るように転送完了を知らせ、話題は玉狛第二の数的不利へと。勿論応対するのは三雲隊長だ。彼からしたら突然のフリだったけれど、まるで「ああそんなことか」とでも言い出しそうな軽い雰囲気で返答した。
「あ……大丈夫だと思います」
彼らを知る者なら誰もが思っただろう。『そりゃそうだ』と。前シーズンのボーナスが無いので下位グループからのスタートだったが、中位で先に揉まれても良かったんじゃないかと思ってしまう。それ程に遊真くんの動きは無駄がなく、しかし鮮やかなものだった。
人が撃てないらしいと聞いていた千佳ちゃんも、得意の砲撃で上手く炙り出しに成功している。これはオペレーターも中々良い仕事をしているとみた。決して下位グループが弱い訳ではない。ただ、彼らが些かイレギュラー過ぎたのだ。経験値が桁外れの遊真くん、トリオンモンスターの千佳ちゃん。そして玉狛第一のオペレーターも務めている栞ちゃんはランク戦に於いては最も経験豊富だ。
『玉狛第二、生存点含め8ポイント獲得!一気に中位へと食い込んだ!!ナマエさん、どうでしょう?』
「結果的に玉狛第二が独走した形になりましたね。ただ勘違いしないで欲しいのは、決して下位グループが弱い訳ではないという事です。玉狛第二は結成したてでまだ情報が少なく、数的不利を差し引いてもそういったアドバンテージが存在しました」
『なるほど……』
「これだけ目立ったという事は、次から既出の能力は研究され尽くす。これだけは三雲隊長に覚えておいて欲しいですね」
『つまり、玉狛第二の次の試合は隊長の立ち回りと未だ出していない戦術がポイント、という事でしょうか?』
「と、思いますが佐鳥くんはどうです?」
「ちょ、ここで振るのは狡くない?!」
ランク戦の仕組みを説明しただけで仕事が終わった気でいたであろう佐鳥くんを此方へと引き戻すように話題を振れば、案の定な反応に、観客席は笑いに包まれた。恨めしそうに閉口している彼に代わって、締めの言葉にするとしよう。
「先日の大規模侵攻も、このランク戦も、根本的な部分は同じです。今の自分に何が出来るのか、それを常に己に問い続けてくださいね」
『とても同年代とは思えない素晴らしいお言葉、そして解説ありがとうございました!以上で夜の部を終わります』
お疲れ様でした、という桜子ちゃんの声と観戦席のざわめきが重なって、あっという間にがらんとしてしまった。夜の部はこうなりがちなのは今に始まった事ではないけれど。
まだ広報の仕事があるという佐鳥くんにお疲れ様と伝えて、修くんにも声をかける。そして私は時間を確認しながら、ゆったりとした足取りでエンジニア室へと向かった。本当は修くん達ともう少し感動を共有したかったけれど、"彼ら"はもう次を、いや、もっと先を見ているだろう。だから野暮な事はしない。基地に戻ればレイジさんあたりが今後の動きをそことなく教えてくれるだろう。
「次は狙われる側……あ、修くんは散々追いかけられた経験があるのか」
千佳ちゃんの為に命懸けで駆け抜けた修くんと、レプリカ先生の痕跡を探す遊真くんの背中を思い出す。千佳ちゃんだって、界境防衛機関に入るまでに何度も苦い経験をしてきている。なら狙われる側はむしろ慣れているだろう。
界境防衛機関の隊員は誰一人として弱くないから、油断してるとぱっくりと食べられちゃうけどね。玉狛支部だからと肩入れも贔屓もする訳ではないけれど、何かしてくれそうな、そんなワクワクを与えてくれる魅力がある。さて、そんな彼らのランク戦がつつがなく進行されるように、私もお仕事頑張りますか。いつものコーラ片手にパソコンと睨めっこしていた雷蔵さんに声を掛けて、戦闘ログを収集し終えた私のトリガーを預かる。
「あ、そーいえば」
「雷蔵さんどうしましたか?」
「ほら、お前目が覚めてから碌に検査もせず大規模侵攻の防衛行っただろ?二度手間になるし今脳波だけ取らせろ」
「えー……めんどくさいです」
文句を言うな、と言いたげに私の背中をぐいぐいと押す雷蔵さん。ヘルメット状の脳波計を被せられてしまえば、もう抵抗しようがない。大人しく手探りでベッドに横になると、良い子だな、と子ども扱いされた。もう学生でいうところの高2なのになぁ。
心配してくれているのは分かっているけど、そろそろ子ども扱いせずに、守る対象ではなく共に戦う存在として扱って欲しい。だってその為に今の未来を選んだのだから。
そんな事を考えていたものだから、玉狛第二を買っている迅さんを思い出して少しだけ、本当に少しだけ、もやっとした。