夕食で使ったカトラリーをひと通りの洗い終え、水を止めたその時だった。自身の中に巡る"何か"の流れも止まったような、そんな不思議な感覚を味わいながらもナマエは首を傾げるだけでそのままソファへと深く腰掛けた。「夜には帰る」と告げた迅さんは未だ姿を見せず、夕食は一人分寂しくラップがかけられていた。
ここ最近玉狛支部に泊まる日のナマエは、昔ひと時だけ間借りしていた部屋を借りていた。水色のランドセルが後生大事に残されていた事実に苦笑したのは、記憶に新しい。
まだ帰るまでかかるであろう彼を待つ間、ホットミルクでもお供に本でも読むか、と冷蔵庫に手をかけた時だった。
「あれ、林藤さんも飲みます?ホットミル……」
「ナマエ、ちょっとトレーニングルーム来い」
重々しい言葉に只事ではないことだと、ナマエはすぐに理解した。なんとも神様は、どこまでも"私たち"のことを嫌っているらしい。
「とりあえずこれ、起動してみろ」
「っとと……一応貴重な備品ですよ、投げないでください」
「そんなヤワな作りじゃねーのは分かってンだろ」
トレーニングルームで投げ渡されたのは、標準的なトリガー。オプションは弧月だろうか。私は体内の循環するエネルギーを集中させて、トリガーを起動した。
……筈だったのに。
手の中にはうんともすんとも言わぬままのトリガーがあった。何度起動を試みても終ぞ弧月が起動することは無かった。
ハッとして自身の黒いバングルへと意識を向ける。体内を駆け巡るエネルギーを一気に放出させるように、黒トリガーの起動を試みた。矢張りこちらも変化はなく、無理やりトリオンを放出した身体は僅かに疲労を覚えていた。揺れた足元を支えるように、咄嗟にコントロールパネルに片手をつく。林藤さんは何も言わない。全て分かっていたのだろう。慌てる事も下手な慰めの言葉もないまま、私の掌から標準トリガーを拾い上げ、私をオペレーターの席へと促した。
「前々から未来のひとつとして存在してて、それでも確率は低かったらしい。が、第二次侵攻の辺りからハネたそうだ」
「トリガーは半永久的に使えない、という事ですか」
「……それを今迅が探ってる所だ」
「私自身からは見えないんですか?」
「あー……お前は高確率の未来があって、それが未来視の邪魔をするそーだぞ。オレも詳しくは聞いてねェ」
がしがしと後頭部をかく林藤さん。言葉に嘘はない。直近の未来さえ掻き消してしまうような私の未来とは果たしてどんなものなんだろう。
疑問は尽きないけれど、今確実なのは今の私では戦力になれないという事だ。トリオンが消えたわけではないと、身体中を巡る温もりで分かっている。なのに、トリガーは起動出来ない。これは一種の接触不良なのだろうか。私は色んな可能性を推論しながら、起動したトレーニングルームでひとまずトリガー無しでトリオンを形成出来ないか、出来るならそのまま攻撃に転用出来ないか試みる。今の自分はシューターなのだと思えばいい。トリガーのサポートが無い分、加減や軌道を描くのが難しい。
(きっとこの未来が見えてたから、迅さんも林藤さんも、夜まで支部に居させてくれたんだ)
慣れない所作動作、そして思考に翻弄されながらも少しずつ闘いに持ち込める最低限の形まで持っていこうと何度も試行錯誤を続ける。戦えなければ此処には居られない。そう己に課したのは他の誰でもない、自分自身なのだから。
ここ最近玉狛支部に泊まる日のナマエは、昔ひと時だけ間借りしていた部屋を借りていた。水色のランドセルが後生大事に残されていた事実に苦笑したのは、記憶に新しい。
まだ帰るまでかかるであろう彼を待つ間、ホットミルクでもお供に本でも読むか、と冷蔵庫に手をかけた時だった。
「あれ、林藤さんも飲みます?ホットミル……」
「ナマエ、ちょっとトレーニングルーム来い」
重々しい言葉に只事ではないことだと、ナマエはすぐに理解した。なんとも神様は、どこまでも"私たち"のことを嫌っているらしい。
「とりあえずこれ、起動してみろ」
「っとと……一応貴重な備品ですよ、投げないでください」
「そんなヤワな作りじゃねーのは分かってンだろ」
トレーニングルームで投げ渡されたのは、標準的なトリガー。オプションは弧月だろうか。私は体内の循環するエネルギーを集中させて、トリガーを起動した。
……筈だったのに。
手の中にはうんともすんとも言わぬままのトリガーがあった。何度起動を試みても終ぞ弧月が起動することは無かった。
ハッとして自身の黒いバングルへと意識を向ける。体内を駆け巡るエネルギーを一気に放出させるように、黒トリガーの起動を試みた。矢張りこちらも変化はなく、無理やりトリオンを放出した身体は僅かに疲労を覚えていた。揺れた足元を支えるように、咄嗟にコントロールパネルに片手をつく。林藤さんは何も言わない。全て分かっていたのだろう。慌てる事も下手な慰めの言葉もないまま、私の掌から標準トリガーを拾い上げ、私をオペレーターの席へと促した。
「前々から未来のひとつとして存在してて、それでも確率は低かったらしい。が、第二次侵攻の辺りからハネたそうだ」
「トリガーは半永久的に使えない、という事ですか」
「……それを今迅が探ってる所だ」
「私自身からは見えないんですか?」
「あー……お前は高確率の未来があって、それが未来視の邪魔をするそーだぞ。オレも詳しくは聞いてねェ」
がしがしと後頭部をかく林藤さん。言葉に嘘はない。直近の未来さえ掻き消してしまうような私の未来とは果たしてどんなものなんだろう。
疑問は尽きないけれど、今確実なのは今の私では戦力になれないという事だ。トリオンが消えたわけではないと、身体中を巡る温もりで分かっている。なのに、トリガーは起動出来ない。これは一種の接触不良なのだろうか。私は色んな可能性を推論しながら、起動したトレーニングルームでひとまずトリガー無しでトリオンを形成出来ないか、出来るならそのまま攻撃に転用出来ないか試みる。今の自分はシューターなのだと思えばいい。トリガーのサポートが無い分、加減や軌道を描くのが難しい。
(きっとこの未来が見えてたから、迅さんも林藤さんも、夜まで支部に居させてくれたんだ)
慣れない所作動作、そして思考に翻弄されながらも少しずつ闘いに持ち込める最低限の形まで持っていこうと何度も試行錯誤を続ける。戦えなければ此処には居られない。そう己に課したのは他の誰でもない、自分自身なのだから。