「気苦労がたえないな、迅は」
そう言って缶飲料を寄越してくれた嵐山にサンキュ、と端的にお礼を述べてプルタブに指をかけた……が、迅は視線だけで嵐山に訴えかける。予想していたラベルではなかったからだ。困り顔の彼は参ったな、ともらしてから、ゆったりとした動作で隣に座った。
「お前、ここ暫く碌に休めてないんだろう?顔色が優れない」
「ココア程度じゃ俺は癒されないよ」
「じゃあ会いに行けばいい」
誰に、なんて無粋なことは聞かずとも、誰のことかなんて明白だった。トリオン量が多い人間はそれだけで狙われやすい。だからナマエには、トリガー起動が出来るまでは基本的に玉狛支部で過ごしてもらっていた。だが今日は本人たっての希望で道場に篭っている。曰く「このままじゃ身体が鈍って豚になる」かららしい。別に支部のトレーニングルームでも良かっただろうに、本人の強い希望でこの時間は道場に篭っているはずだ。渋る俺を諭す様に林藤さんは「支部から護衛を出すから」と肩を叩かれた。
「大規模侵攻の前にあったことが起因してる、なんてことはあるのか?」
「どーだろーねぇ……まあ起こってしまった以上対処療法していくしかないんだよなぁ」
「まったく、目が離せない妹分だ」
「はは、ほんとだよ」
:
久しぶりに足を運んだボーダー本部は、思いの外賑わっていた。各々個人ランク戦や修練、隊員との連携確認に勤しむのだろう。普段なら然程寄り付かない本部だが、支部から道場まで同行してくれた遊真くんが個人戦をしたいというので久々に足を運んだ。
普段複数のトリガーを使い分ける私の脳は、常人よりも情報処理がうんと速いらしい。悪くいえば、人の多い場所では上手く情報を絞らないと、雪崩れ込む情報量にパンクする。今もちょっとだけ人酔いを起こしているけれど、もはや日常である。
「ナマエさんさ、誰か捕まえてくるから見ててよ。そんでアドバイスちょーだい」
「遊真くんは下手なアドバイスしない方が伸びると思うけどなぁ」
「あ、カゲ先輩一戦やらない?」
私の言葉は届いたのかそうでないのか、意気揚々とブースへと姿を消していった。持ってろ、とカゲくんから放られたジャケットに埋もれながら二人の映る画面を探す。普段ならサイドエフェクトの所為で脱ぐことのないこの上着を放り投げていったカゲくんは、遊真くんが随分お気に入りらしい。戦闘スタイルが何処か近い者同士、相性が良いのだろう。カゲくんは取っ付きにくそうな空気をだすけれど、一度懐に入れてしまえば結構奥の方まで入る事を許してくれる。
そういえば私の進路が知れ渡った時や知られて否定された時は、決まって私の味方になってくれる。オメーの人生好きに生きろと、あのニヒルな笑みで見下ろしながら、不器用に頭を何度も撫でられたっけ。思い出し、思わずふふ、と笑うと、不意に声をかけられた。
「嵐山さんと迅さん!お疲れ様です」
「ナマエもな。話は聞いているが、体調はどうだ?何か悩んでたりはしないか?」
「あはは、その気持ちが私の元気の源です!お気遣いありがとうございます。私は大丈夫ですよ」
「一字一句迅の予知通りだな」
「予知じゃなくて予想な。ナマエは素直だから」
ひと足遅れて嵐山さんの隣に立った迅さんは、ほれ、とまだ少し温もりを感じるココアを手渡してくれた。お礼と一緒に遊真くんの試合観戦中である事を伝えると、多忙な二人には珍しく少しだけ時間があるらしい。私の一段上の席について迅さんは「へぇ、」と零した。カゲくんのマンティスが綺麗に決まり1-1。一戦目はトリオン漏出過多でカゲくんがベイルアウトした。
「で、久々の道場はどーだった?」
「お陰様で。また暫く支部にいると思って幾つか荷物をレイジさんに預けてあります。行きだけ送ってくれたので」
「そっか、今日の飯当番レイジさんか」
「私が代わるって言ったんですけど、上手くかわされちゃった」
「ナマエの料理か、随分と食べてないな」
キラキラと表情を輝かせる嵐山さんに、思わず吹き出す迅さん。こうしていたら年相応なのに、なんて歳下なりに思ってしまった。傍からみれば私もきっと"そう"なんだろう。今度隊に差し入れをすると伝えると、笑顔で感謝を伝えられた。流石は広報部隊隊長、眩し過ぎて目が潰れそう。
約束だぞ、と何度も繰り返してその場を去っていく背中に思わず苦笑してしまう。「変わんねーなぁアイツ」と言う迅さんは、いつの間にか私の持っていたジャケットと自身のジャケットをすり替えていた。……変わらないのは、貴方もですよ。そう言葉にするのは憚られて、顔の赤さを悟られない様に再び顔を埋めて画面に集中する。きっと迅さんにはお見通しだろうけれど、今はこの距離感のままがいいんだ。
ちゃっかり貰ったココアを押し付ける迅さん。
そう言って缶飲料を寄越してくれた嵐山にサンキュ、と端的にお礼を述べてプルタブに指をかけた……が、迅は視線だけで嵐山に訴えかける。予想していたラベルではなかったからだ。困り顔の彼は参ったな、ともらしてから、ゆったりとした動作で隣に座った。
「お前、ここ暫く碌に休めてないんだろう?顔色が優れない」
「ココア程度じゃ俺は癒されないよ」
「じゃあ会いに行けばいい」
誰に、なんて無粋なことは聞かずとも、誰のことかなんて明白だった。トリオン量が多い人間はそれだけで狙われやすい。だからナマエには、トリガー起動が出来るまでは基本的に玉狛支部で過ごしてもらっていた。だが今日は本人たっての希望で道場に篭っている。曰く「このままじゃ身体が鈍って豚になる」かららしい。別に支部のトレーニングルームでも良かっただろうに、本人の強い希望でこの時間は道場に篭っているはずだ。渋る俺を諭す様に林藤さんは「支部から護衛を出すから」と肩を叩かれた。
「大規模侵攻の前にあったことが起因してる、なんてことはあるのか?」
「どーだろーねぇ……まあ起こってしまった以上対処療法していくしかないんだよなぁ」
「まったく、目が離せない妹分だ」
「はは、ほんとだよ」
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久しぶりに足を運んだボーダー本部は、思いの外賑わっていた。各々個人ランク戦や修練、隊員との連携確認に勤しむのだろう。普段なら然程寄り付かない本部だが、支部から道場まで同行してくれた遊真くんが個人戦をしたいというので久々に足を運んだ。
普段複数のトリガーを使い分ける私の脳は、常人よりも情報処理がうんと速いらしい。悪くいえば、人の多い場所では上手く情報を絞らないと、雪崩れ込む情報量にパンクする。今もちょっとだけ人酔いを起こしているけれど、もはや日常である。
「ナマエさんさ、誰か捕まえてくるから見ててよ。そんでアドバイスちょーだい」
「遊真くんは下手なアドバイスしない方が伸びると思うけどなぁ」
「あ、カゲ先輩一戦やらない?」
私の言葉は届いたのかそうでないのか、意気揚々とブースへと姿を消していった。持ってろ、とカゲくんから放られたジャケットに埋もれながら二人の映る画面を探す。普段ならサイドエフェクトの所為で脱ぐことのないこの上着を放り投げていったカゲくんは、遊真くんが随分お気に入りらしい。戦闘スタイルが何処か近い者同士、相性が良いのだろう。カゲくんは取っ付きにくそうな空気をだすけれど、一度懐に入れてしまえば結構奥の方まで入る事を許してくれる。
そういえば私の進路が知れ渡った時や知られて否定された時は、決まって私の味方になってくれる。オメーの人生好きに生きろと、あのニヒルな笑みで見下ろしながら、不器用に頭を何度も撫でられたっけ。思い出し、思わずふふ、と笑うと、不意に声をかけられた。
「嵐山さんと迅さん!お疲れ様です」
「ナマエもな。話は聞いているが、体調はどうだ?何か悩んでたりはしないか?」
「あはは、その気持ちが私の元気の源です!お気遣いありがとうございます。私は大丈夫ですよ」
「一字一句迅の予知通りだな」
「予知じゃなくて予想な。ナマエは素直だから」
ひと足遅れて嵐山さんの隣に立った迅さんは、ほれ、とまだ少し温もりを感じるココアを手渡してくれた。お礼と一緒に遊真くんの試合観戦中である事を伝えると、多忙な二人には珍しく少しだけ時間があるらしい。私の一段上の席について迅さんは「へぇ、」と零した。カゲくんのマンティスが綺麗に決まり1-1。一戦目はトリオン漏出過多でカゲくんがベイルアウトした。
「で、久々の道場はどーだった?」
「お陰様で。また暫く支部にいると思って幾つか荷物をレイジさんに預けてあります。行きだけ送ってくれたので」
「そっか、今日の飯当番レイジさんか」
「私が代わるって言ったんですけど、上手くかわされちゃった」
「ナマエの料理か、随分と食べてないな」
キラキラと表情を輝かせる嵐山さんに、思わず吹き出す迅さん。こうしていたら年相応なのに、なんて歳下なりに思ってしまった。傍からみれば私もきっと"そう"なんだろう。今度隊に差し入れをすると伝えると、笑顔で感謝を伝えられた。流石は広報部隊隊長、眩し過ぎて目が潰れそう。
約束だぞ、と何度も繰り返してその場を去っていく背中に思わず苦笑してしまう。「変わんねーなぁアイツ」と言う迅さんは、いつの間にか私の持っていたジャケットと自身のジャケットをすり替えていた。……変わらないのは、貴方もですよ。そう言葉にするのは憚られて、顔の赤さを悟られない様に再び顔を埋めて画面に集中する。きっと迅さんにはお見通しだろうけれど、今はこの距離感のままがいいんだ。