きみの心に宿った忠誠

 アフトクラトル傘下の国が、近いうちに"ちょっかい"を出しにくると聞いたのは、イヤイヤしながらも結局連れて行かれた本部会議でのことだった。まだ狙いは分からないが、市街地への被害は現状見えておらず、また大規模侵攻の傷がまだ癒えていないことから、内々に対処すると大人たちは言った。
 確かに言っている事は正しい。けれど、もしものことがあった時、失われるのは突如襲われて理解が及ぶ前に攻撃を受ける一般市民だ。それで良いのか、紙面を滑る視線を遊ばせながら1人考え込む。考えたところで今の私にできる事は限られているのだけれど。

「よ。会議お疲れさん」
「雷蔵さん!すいません、無茶言って」
「いつもの事だろ?部屋寄ってけ」

 ……できる事は確かに限られているのだけれど、何もしないとは、言ってない、よね?





「雷蔵さん完璧です!有難うございました」
「おれは別にいーけどさ、このこと迅の奴は知ってんの?」
「いえ?だって迅さんなら未来視で分かるかなって」
「お前なぁ……」

 迅さんの未来視が万能でないことなど私も重々承知しているが、何も言われないのだから大きな分岐点になりうることは今の所ないと言う事だ。なら私が多少好き勝手しても界境防衛機関に不利益はないということでもある。

「まあいつまでもトリオンの多いお前を武器無しにしておくわけにはいかないとは思ってたけど、まさか生身でも使えるトリオン武器を頼まれるとはねぇ……」
「守られるのは性に合わないので……」

 呆れた物言いをする雷蔵さんだけど、提案した際は新しい取り組みに目を輝かせていたのを私は忘れない。しかも制作を依頼する対価として、先日大規模侵攻で捕縛した我儘放題なエネドラットの相手を代わることだったのだから、なんだかんだ言いつつ私の気持ちは否定しないでくれるのだ。
 ものは揃った。あとは来たる日に向けて私が何処まで扱えるようになるかだろう。渡されたひとつをギュッと握り込む。戦わなければ。その気持ちだけが私を戦場へと駆り立てた。



「おう迅!お前もやるか?賭け大富豪」

 いつ強襲が来ても良いように、暫く缶詰になっているからと、各々トランプだのウノだの持ち込んでいて、内心「修学旅行か」と突っ込まずにはいられなかった。とはいえ何も無く篭っているのも飽きがくるだろう。俺自身も視えぬ未来に気疲れして部屋に戻ったのだから、多くは言うまい。

「やらないし賭けないで。なんか気が抜けるなぁ……」
「おう抜けてろ抜けてろ、お前は普段が気を張りすぎなんだよ」
「太刀川さんは緊張感持ってくれない?」

 お前もそう思うだろ?と太刀川さんが声を投げかけた先は、空席。ありゃ、と不思議そうに呟く太刀川さんに誰が居たのか訊ねる。どうやらナマエが先程まで観戦していたらしい。行き先のアテを聞く前に珍しく過った彼女の姿。どうやら雷蔵さんやエンジニア達と何か話し込んでいるらしい。今回においては非戦闘員の彼女だが、果たして大人しくしていてくれるだろうか。

−−−いや、ないな。

 彼女が戦わないことを選ぶ事はまずあり得ない。いつかの未来視で視えたボロボロの彼女が今回の防衛中の出来事ではないことを祈りながら、俺は再び部屋を後にした。
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