パラソルの作り出した日陰のもとで、アイスティーを啜る。香りも深みもないこの水は、あの子が淹れてくれたものとは雲泥の差だな、と思いながら手首の時計に目をやる。昔から遅刻癖のある彼だが、私相手に遅刻はしないだろうと思い視線を周囲に向けてみる。ほうら、いた。

「冥さんゴメンゴメン、待った?」
「君にしては待たせなかった方じゃないのかな?五条君」
「あれ、それ裏を返せば嫌味ってヤツ?」
「伏黒恵と虎杖悠仁の住居、要望には叶ったかな?」
「あー、それがさぁ、恵のヤツあんま話してくれないんだよねー。五条さんよりは遥かに信頼出来る場所ですって、それだけ」
「へぇ、てっきり七海君や伏黒君本人から聞いていると思っていたよ。君、相当信用が無いね」

 七海建人とナマエは今世では兄妹にあたる。仕事で関わりがあったのだからもしやと思っていたが、今世でも相変わらず信用はないらしい。愛しい人はそう遠くない場所に居るというのに、なんとも憐れなものである。愛されすぎている女も、信用のなさすぎる男も、どちらもどうして見ていて退屈させないのか。私はつい笑いが漏れたが、サングラス越しに見えた双眼は邪気もなく、ただ純粋に不思議そうだった。

「近いうちまた訪ねるが、良ければ来るかい?1人増えた所で相手も嫌な顔はしないだろう。なに、私の下僕とでも言えば良い」
「そこ部下とかで良くない?」

 居住先への仲介料を受け渡した五条はそのまま注文票を持って席を立った。もう行くのかい?と尋ねれば、今日も忙しいのだという。今生くらいゆっくりすれば良いのに、なんて野暮な事は言わなかった。数日後の彼らの再会はいったいどんな感情に染まるのか、仲介料の札束の厚みを指先で感じながら思いを馳せた。



「え、伏黒お前五条先生に言ってねーの?」
「別に言わなくてもいつか会うだろ。それに、ナマエさんにとって何が幸せか、俺が決める事じゃないからな」
「なら尚更教えておいたほーが良くね?」
「今生では結婚すると七海さんが義兄になりますよってか?」
「……ウワーー、先生もナナミンもすんげー嫌がりそう。つか結婚許してもらえなさそう」

 これが運命の悪戯というやつか。なんて、ナマエさんの苗字を聞いた時には思わず頭を抱えた。これは今回もなかなか面倒なことが起こりそうだし、あの人なら容赦なく巻き込んできそうだと、己の身元請負人であるあの軽薄な顔を浮かべて眉間に皺が寄った。

「でもさー、俺ナマエさんが五条姓じゃないの、なんかヤだな」
「普段呼ばねーだろ」
「そーゆーんじゃなくてさぁ……こう、ナマエさんといえば五条先生、五条先生といえばナマエさん!みたいな……」
「まあ、言いたい事は分かる」

 きっと何だかんだ言ってもあの2人が出会えば必然のように結ばれるのだろう。というか五条さんがあの手この手使って囲い込みそう。ナマエさんに選択肢を与えさせないのがあの人のやり方だと嫌という程見てきたのを思い出して思わずため息が漏れた。
 閑話休題。今日は先立ってナマエさんの家に越すことになった虎杖の荷物運びを手伝っていた。家具はナマエさんの置いたあり物を暫く使うらしく、荷物は然程の量では無い。今日は店先に居るから表から入って来てと事前に言われていた俺たちは、軽快なベルの音を鳴らして木製ドアを開けた。

「ナナミンじゃん!!今日平日なのに!」
「まずは挨拶でしょう、ご無沙汰ですね、虎杖くんに伏黒くん」
「そんなやり取り初対面の時にもしてなかった?」
「ナマエ、煮沸してますよ」
「おあっとと……2人ともこんにちは、2階には自由に上がって。ひと段落したらお茶にしましょ」

 大型犬宜しく七海さんに飛びついた虎杖はすごく嬉しそうだ。死別した師が今目の前にいるのだからそれもそうか。七海さんがリモートワークの日はナマエさんの店にやって来るとは聞いていたが、まさかこんなすぐに会うとは思わず、流石に俺も少し驚いた。
 ちなみにナマエさんの店は紅茶党が足繁く通うカフェだ。数量限定だがモーニングとランチも取り扱っているらしいが、基本は茶菓子専門だ。昔から紅茶党で珈琲が苦手な人だとは思ってたが、まさかあの冥さんが支援をしてくれるほどの店になっているとは思わなかった。

「ナナミン何食ってたの?」
「BLTサンドです。早く片付けを済ませたら奢ってあげますよ」
「マジ?!うわ俺2階行ってくる!伏黒も早く早く!!」
「……すいません喧しくて」
「変わらないでいられる、彼の長所ではないですか。私は何も迷惑していません」

 あ、この人こうやって笑うんだ。そんな事を思いながら、俺は再び呼ばれる声に応えて2階へと上がる。あの世界を生き抜いて、今もなお太陽のように笑っていた虎杖は、確かに何ひとつ変わっていないのかもしれない。



不変の空を羨望している


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