鬼灯は閻魔大王の代理として今日は朝から晩までそのお相手だと出払っている。
帰りも遅く、仕事次第では徹夜で書類仕事をこなすかもしれないと今日は会わない約束だ。
そんな中、リリス様から夜に会いたいと連絡が来て、現世風にレースの手袋や頭から顔にかけて垂れるチュールヘッドドレスの小物を合わせた和洋ミックスの着物を身につけて花街へ向かう。
会場は、狐カフェのVIPルームだ。
「こんばんは、檎。リリス様はもういらっしゃる?」
「流石花街元トップ。かわいいお召物だねえ。いらっしゃるよ。ご利用ありがとうございます」
キャストはつかず、ただ部屋を借りただけ。私の部屋にお呼びするのも、閻魔殿の接待部屋も違うと思って、ツテを辿った結果ここになった。
働いていたお店にはやはり行きづらいし、いくらご納得いただいたとて妲己様のもとに行くのも、あまり気は向かない。
「お待たせしました、リリス様」
「ハローなまえちゃん。あ、今はグッドナイトね。さ、座って座って」
すでに甘いものを召し上がるリリス様の隣に座って、私もドリンクを頼む。
「今日の服装すごく可愛い。ワヨーセッチューってやつ?」
「現世は最近こう言う感じらしいんです。リリス様もお似合いになると思うので、見繕って今度お送りさせてください」
ここのブランドがリリス様に似合うだとか、今の現世のトレンドだとか、女子二人らしく盛り上がる。
でも、多分リリス様が私を呼んだのはこんな雑談がメインじゃない事ははっきり分かっていた。絶対あの事だと、嬉しい反面今日は少しだけ足が重たかった。
「そ、れ、で。ふふ、アタシが今日ここに呼んだわけ、分かってるでしょ?」
「まぁ、あの事かな、とは。その感じ、鬼灯から何か吹き込まれてますね」
「先日お礼をもらっちゃったの。いいもの見れたって。随分と楽しまれたみたいね」
おい鬼灯、そんな事私は聞いていないぞ。
何勝手にしてくれてんの。
「あ、はは。できればあれっきりがいいです」
「あら、鬼灯様にも同じもの渡そうと思ってたのに。いらない?」
「私の体が持ちません」
勘弁してくださいと本気の顔で言うと、冗談よと笑われる。
リリス様の冗談はどこまでが本当か分からないのでタチが悪い。
試作品で使用感が知りたいからもう少し詳しく教えて欲しいと言うリリス様に、改良の為と迫られては断りにくく、ぼかしつつあの日の話をポツポツと伝える。
何度か恥ずかしさで顔を赤らめて言葉を詰まらせる私に、リリス様は終始楽しそうであった。
どっとした疲労感に襲われながら、お開きの時間がやってくる。カウンターでベルゼブブ様のカードを出したリリス様に慌てて支払いを申し出ると、これ魔法のカードなのとウインク付きで財布を握る手を遠ざけられた。すごいデジャヴ。そしてベルゼブブ様、ごめんなさい。今夜はご馳走様でした。
店先で見送ってくれる檎に手を振って、リリス様と帰路を共にする。ベルゼブブ様は閻魔殿でお待ちだそうだ。
「そうそうあの薬、じゃなくて魔法のジュース」
「いや、もう薬で構いませんよ」
「いえ?ジュースよ。貴方にまだちゃーんと効能の説明をしていないのを思い出したわ」
「…と、言いますと?」
言葉の意味を理解しかねて、首を傾げる。効能も何も、実飲体験があるのだけど、思うように出なかった効果でもあったのだろうか。
「ふふ。あのジュース、パートナーに愛されていればいるほど、強い効果を発揮するの」
「…それは、すごい技術ですね」
「研究データも出つつあるのよ。ちなみに貴方に飲ませたのも、そのデータのため」
一体何の成分でそんな事を…とか、そんな治験だったとは聞かされてないとか、言いたい事は色々あるけれどまぁリリス様だし…と言う気持ちもある。
目を細めてこちらを見るリリス様に、尋ねて欲しいと訴えられる気がして、導かれるようにゆっくりと口を開く。
「それで、私はどのくらいの効果だったんですか?」
やけに心臓が煩い。
耳元に口を寄せたリリス様が囁いた言葉に、私はリリス様の方を向き直しもせず、行く先に視線を固定した。
頭も、顔も、耳も、燃え上がるように熱いのは気のせいだと信じて。
「ふふ、末長くお幸せに」
西洋の悪魔って、本当に恐ろしい。