何度か飛びかけた意識は、鬼灯が重ねた手を強く握るたびに現実に戻ってきて、なんとか鬼灯が満足するまで起きていられた。
もう呼吸するのも精一杯で、よく最後まで応えられたなと我ながら思う。
鬼灯がここまで疲れ果てているのを見るのは初めてかもと思いながら、抜き取った後の処理を手早く行うと、私の隣に勢いよく倒れ込んできた。
「落ち着いた?」
鬼灯に話しかけた声は、嬌声をあげすぎて掠れかけている。
「今ので急に頭の中のモヤが晴れた感じがします…すみませんでした」
肘を曲げて手首をワンレンから覗くおでこに乗せながら、鬼灯が申し訳なさそうに謝った。
深いため息に真剣度合いが伝わる。
「そこはありがとうにしてよ。守ろうとしてくれたのに煽ったのは私だし」
痛む腰を摩りながら鬼灯を跨いでベッドを降り、軽く口を濯ぎに行ってから床に転がったすっかり温くなったスポーツドリンクを手に取る。
横着して前屈して手を伸ばすと、今までにないくらい腰が痛い。
結構無理な姿勢させられてた気がするし仕方ないけど、もう少し柔軟体操とかしたほうが鬼灯のためというより自分のためにいいかも。いや、鬼灯のためはまずい。あれこれされる幅が広がって、私の体がとんでもないことになる。
それはそれとして、体の柔軟性は必要だろうし、明日からやろう。
封を開けて少しだけのつもりが、半分ほど飲んだところで口を離す。
封も閉めずに、私がベッドからいなくなったことで四肢を少しばかり広げて体を休める鬼灯に、残りの半分を差し出した。
視界に入ったペットボトルに、ゆっくり体を起こした鬼灯は勢いよく全て飲み干す。お互い喉の渇きはまだ潤せていない。
「羽織るだけでいいので服着てください」
なるべく私の姿を見ないようにしているのに気付いて、鬼灯のいう通り下着をとっぱらったまま着物を纏って紐を緩く結ぶ。
「シャワーは?」
「もう起きたらにしましょう。不快感はあっても十分寝れる」
「ベタベタして気持ち悪くない?タオル濡らしてきてあげようか」
「いいから寝ますよ」
鬼灯が壁側に転がり込んでいつもと逆の位置に、早く来いと腕を掴まれ引っ張られる。
旦那様はよほど限界のようだ。
どことなく湿ったシーツに寝転んで、鬼灯を見ると、未だおでこに腕を乗せながら、悔しそうに吐き出した。
「もっと面白いランダムを引き当てたかった」
「たとえば?」
「声が高くなるとか、パートナーに催淫がかかるとか」
鬼灯のおでこにデコピンをお見舞いする。
たまに痛いのかましてくるから、仕返し。
「アホじゃ無いの?もうあんなの二度とごめんだし、思春期の中学生男子の頭してる?」
「男はいつだってガキでアホでスケベですよ」
「知ってる。前二つに関しては確かに烏頭とかそうかも」
「…今は私以外の名前出さないでください」
疲れ果ててもう目も開けないままピロートークをする鬼灯の顔を見つめる。
やっぱり、今日はすごく珍しい日だ。
「はーい。ごめんね」
「目を閉じていても貴方の顔が緩んでるのが分かりますよ」
「それは長年の付き合いが功を奏してる」
鬼灯の手が、私の腰に回る。
近かった顔が、より近くになって鬼灯のまつ毛がよく見えた。
「体痛いですよね、すみません」
「うん。だって鬼灯、四十八手何個か試してたでしょ」
「ご存知でしたか」
「昔読まされた本で見たことあるなぁと、思ったから。名前までは覚えてなかったけどね」
やたらと深いところまで当たるものから、浅いのに弱いところに当たって苦しいのとか。
正常位も後背位も座位も、一通り変な姿勢だと朦朧とする頭の片隅で思うものは、多分四十八手の一つだったと思う。
結局何度鬼灯が射精したのを避妊具越しに感じたか覚えてない。
薬が効いてる中、毎度避妊具を欠かさずにいてくれて真面目だなと思ったことは覚えている。
ゴミ箱の中身は、確認しないほうが幸せだと先ほどペットボトルを取りに行った時に見るのをやめた。
何かを話そうとしてくれているらしく、微かな声がするが、もうそれは言葉の形を保持していない。
ガラムマサラと聞こえた気がするから、起きたらカレーでも作る気なのかな。知らないけど。
なんだか可愛い。と思いながら、鬼灯の頬に手を添えて親指でなぞる。
「今日はお疲れ様。おやすみ」
私の手に少しすり寄るような動きをすると、すぐさま寝息を立て始めた。
私も何度も落ちかけていた意識に、目の前の寝顔を見つめながらゆっくりと目を閉じる。
私と鬼灯の間で、微かに触れ合っていた手に指を絡めた。
この薬を鬼灯に浴びせたのが、EU地獄の魔女、マジカルマリンだと知るまでは、後数時間。