欲張りな心

「ねぇ柳さん〜」
「名前が俺のことを柳さんと呼んでくる時は何か頼み事がある確率…100%だな」
「あは、バレたかぁ〜」
「当たり前だ」

昼休みの屋上。昼ご飯も互いに食べ終え、他愛もない会話を交わしながら私は蓮二にあるお願い事をしようと考えていた。ポッキーの箱を片手に持って。
なんて言ったって今日はポッキーの日。いつもはこんなお願い出来ないけれど、「今日はポッキーの日だから」っていう口実でポッキーゲームがしたいと頼める。こんなチャンス、逃すわけにはいかない。

「…それで、なんだ?頼み事というのは」
「あ、えっとね!それなんだけど…」
「ほぅ…ポッキーゲームか」
「な、なんで分かったの?」
「後ろに隠し持っているソレが丸見えだ」

蓮二は得意そうに笑うと、私が持っているポッキーの箱を指差した。

「あっ、…」
「分かりやすいにも程があるぞ、名前」
「う。…い、いいじゃん、別に」
「あぁ。そういうところも可愛いからな」
「うるさいぃ」
「こんなことで照れていて、ポッキーゲームなんて出来るのか?」

照れてしまったことも蓮二にはお見通しらしい。そのことにますます私は恥ずかしくなる。
蓮二の言う通り、ポッキーの日と聞いて舞い上がっていたけれど、よくよく考えればポッキーゲームなんて結構私にはハードルの高い行為かもしれないと今更になって気付いてしまう。けれど、言ってしまったからにはもう後には引けない。

「こ、このくらい、お茶の子さいさいだし…全然余裕…」
「ほぅ?後半ほとんど聞こえなかったが?」

蓮二はそれだけ言うと私が手にしていたポッキーの箱を奪い取る。反射的に取り返そうと手を伸ばすも、それは虚しく空を切った。

「どうした?」
「やっぱ…やめておこう?」
「言い出したのは名前だろう」
「そうだけどさぁ…」
「そうだけど、なんだ?」

私が言い淀んでいる間にも蓮二は箱から袋を取り出すと封を切っていた。

「あー、それ私のなのに」
「ほら、口を開けろ」
「…本当にやっ…むぐっ」

私の言葉なんてまるで聞いておらず、話している途中にポッキーが先端に口先に差し込まれた。

どうしたらいいのか、この状況に戸惑っていると「目を閉じろ」と言われ、反射的に瞼を閉じてしまう。

目を閉じても始まる気配が無く、何故か口元にあったポッキーが抜き取られる。驚き目を見開くと、目の前に蓮二の顔があり気付いた時には唇に柔らかい感触があった。

「ち…ちょっと!」
「すまない。目を閉じた名前を見ていたら…つい」
「つい、じゃないよ…ここ学校だからね?誰もいないからよかったけど」
「どのみちキスはしていただろう?」
「そ、それは…」
「…もう1度するか?」
「し、しないわ馬鹿!」

キーンコーンカーンコーン。私が声を上げると同時に昼休みの終わりを知らせるチャイムが鳴った。耳元で囁かれた声が脳裏に焼き付く。

「残念、お預けだな。さて戻ろうか」
「あー…うん」
「なんだ、不服そうな顔をしているが…もう1度して欲しかったのか?」
「しないってば!」
「ふっ、分かっている。それではまた放課後にな」

私の頭をくしゃっと撫で、それだけ言うと蓮二は先に屋上から去っていった。いつも一枚上手な彼に悔しさだけが募る。学校でキスをしてしまったせいか、少しボーッとしながら片付けを済ませる。

そして、ふと気付いたことがある。

「ポッキーゲームしてないじゃん…」





だいぶ遅刻ですが、ポッキーの日ということで少し関連付けたお話を書きました。楽しんで頂ければ幸いです。