攫われ奪われて
「悪ぃ、お前のこと友達としか思ってねぇや」数時間前の彼の言葉が頭の中で何度もこだまする。この私、名字名前はずーっと想いを寄せていた人、丸井ブン太にバッサリと振られた。私が意を決して告白したっていうのに最初は冗談だと勘違いするし、本気だって分かった途端困ったような表情されちゃうし、人生初の告白って皆こんなもんなのだろうか。
ギコギコと近所の公園のブランコを漕ぎながら、ぼーっと考える。空は茜色に染まり夕日が地面を照らす。遠くの方ではカラスの鳴き声が聞こえてくる。昼間にはたくさん居たであろう子供達も、この時間じゃ1人もいない。
明日からアイツとどう接したらいいんだろう、考えるだけで嫌になる。今だって意図せず目から涙が零れ落ちてるし本当嫌になってくる。
「ここにいたか」
低く、落ち着いた聞き馴染みのある声に思わず顔を上げる。彼の姿を見ただけで、どん底まで落ちていた気分が少し晴れた気がした。
「蓮二…」
「ダメだったか」
「うん。友達としか思ってないって」
「…そうか」
私の隣のブランコに蓮二もギィ、と音を立てながら座った。高身長な彼がブランコに乗ると、どこか不恰好に見えてしまい、つい笑ってしまいそうになる。
「蓮二にはたくさん相談してたのに、こんな結果で終わっちゃってごめんね」
「謝ることではない。こちらこそ力になれず、すまなかった」
「もう。蓮二こそ謝らないでよ」
私が笑ってそう言えば、蓮二は少し安心したように笑った。
「ねぇ、少し蓮二に困らせるような質問してもいい?」
「…あぁ、何だ?」
「私ってそんなに女としての魅力…ないのかな」
告白が冗談だと思われていた時、丸井に「そもそも名前のこと女として見てねぇし」と言われたことが頭の中でこびりついて離れなかった。
「何を言っているんだ、名前は女性として十分魅力的だろう」
「自分で聞いておいて悪いだけど…よくそんな小っ恥ずかしいこと言えるよね」
「ふっ、本心から出た言葉だ。名前の告白を断るなんて、本当に惜しいことをしたと思うな丸井は」
「ありがと蓮二。そう言ってくれるだけで…、結構救われる…かも」
蓮二の言葉に再び一粒二粒と涙が溢れてくる。足元の地面にはじわりじわりと涙が滲んでいく。蓮二の前で泣いても困らせてしまうだけ、と必死に堪えようとしていると隣で荒々しくと立ち上がる音が聞こえた。と思えば、全身がふわりと温もりに包まれる。顔を上げると、蓮二が屈むようにして私を抱きしめてくれていた。
「れ、蓮二…?」
「気が済むまで泣くといい。俺はそんな事で困ったりなんかしない」
蓮二のその言葉に瞬間、私は何かが弾けたように止めどなく涙が溢れ、蓮二の腕の中で静かに泣いた。私が泣いている間、蓮二は子供を寝かしつけるようにずっと背中をさすってくれていた。
・
「少しは、落ち着いたか?」
「うん…ごめんね、ありがとう。泣いたらだいぶスッキリした」
「そうか。それなら良かった」
そう言うと蓮二はさり気なくポケットティッシュを渡してくれた。蓮二って気遣いが上手だし、なんていうか、一緒にいて落ち着く人だ。本当に。
「蓮二も何かあったら聞くから、遠慮なく言ってね。私じゃ頼りないかもしれないけど…」
「そんなことはない。あまり自虐的になるな」
「あはは、そうだね」
「……名前。俺も名前に困らせる質問を…してもいいだろうか」
「え?うん」
いつになく真剣な表情の蓮二にこちらの方が緊張してしまう。蓮二のことを見れば、喉仏がごぐり、と上下するのが見えた。
「俺では…アイツの代わりにはなれないだろうか」
「え?」
蓮二の言っている意味が分からなくて、思わず聞き返してしまう。もしかしてアイツって丸井のことを言ってるの?自分でも分かるくらいに鼓動が段々と早くなっていく。
「無理なことを言っているのは承知で言っている。しかし、…」
「ちょ、ちょっと待って。その、蓮二が言ってるのって丸井の代わりってこと…だよね?」
「あぁ、そうだ」
「それって…その…」
「好きだ。名前のことが」
彼のストレートな言葉に、本当に目の前が真っ白になった気持ちになる。
「え…あの、つまり…」
「俺はお前の事を女性として好いている」
「じゃあ、私…蓮二にかなり酷いこと、してたよね?丸井のことだってたくさん相談してたんだし…」
「気にするな。名前の幸せそうな顔を見るだけで良かった。…先程まではな」
そう言うと蓮二は片膝を地面につけ、私を見上げる。ドラマでよく見るプロポーズをする時のようなその姿勢に、思わず心臓が一つ跳ねた。
「名前」
「な、なに?」
「俺と…付き合ってくれないだろうか。これ以上名前の辛そうな顔は見たくないんだ。この柳蓮二、名前のことを…必ず、幸せにしてみせると約束する」
「蓮二…」
「こんな時に言うべきではなかったのかもしれない…だが、俺は名前の幸せな顔が見たい。隣でずっと笑っていて欲しい。…今日の名前を見てそう思ってしまった」
今ここでドキドキとしてしまう私は単純すぎるんだろうか。さっきまで振られて泣いていたのが嘘のようだ。
「でも、私…丸井のこと好きだったんだよ?」
「勿論分かっている。この柳蓮二、必ずお前を惚れさせてみせよう」
そう言うと蓮二は私の右手を両手でそっと包み込むように握り締め、ふっと微笑みかける。
こんなに近くに私を見てくれている人がいたのに気付かなかったなんて、私は本当に愚か者だ。私は蓮二の両手の上にもう片方の手を重ねてみる。
「私は手強いよ?」
「ならば、名前のより細かなデータを取る必要があるな」
「そう易々とデータは取らせませーん」
「早速泣き顔も可愛いというデータが取れたが」
「ちょ……」
私がわざとらしく睨みつけてみせると蓮二は、まぁまぁとでも言いたげに私の頭をポンと一つ撫で、立ち上がり手を差し伸べた。
「さて、帰ろう」
「…うん」
蓮二の手を取り、ブランコから立ち上がる。自然とさっきよりも顔の距離が近くなり、顔に熱が帯びているのが分かる。
そんな私を見て蓮二は私の頭を撫でながら、ふっと笑い
「俺に惚れてしまう日はそう遠くないかもしれないな」
なんて冗談ぽく言う彼に、否定出来ないのが悔しくなった。