(※高校生パロです)



「「明けましておめでとうございます!」」


 テレビには《HappyNewYear!!》というド派手な文字と共に、大勢の芸能人がわぁっと盛り上がっている映像が映し出されている。ここ最近ずっと勉強漬けだったから、こうしてリビングでゆっくりとテレビを観ていること自体不思議な感じがする。

 私が通っている立海大付属高校は、大学もエスカレーター式で進学することが出来る学校。だけど私は外部進学を希望していることから、この冬休みはほとんど家と塾を往復する毎日だった。蓮二にも寂しい思いをさせていると思う。いや、蓮二の事だしきっと寂しいとか思わないんだろうな。あっちはあっちでテニスで忙しいだろうし。そんなことを考えてしまい、無意識にため息をつく。新年早々ダメだ。こんなの。

 ネガティブな考えを断ち切るように頬を両手でペチペチと軽く叩き、自室へ戻ろうと立ち上がると妹が「えっ!」と声を上げた。


「お姉ちゃんもう寝ちゃうの?楽しいのはこれからなのに!カウントダウンTVやってるから観ようよぉ」
「私もう眠いから寝る…」


 そう言ってなんでなんでと喚く妹の誘いを断り、自室へと向かった。


「……え?」


 自分の部屋へ着き、何気なく携帯を開くと物凄い数のLINEが届いていた。意味もなく目をパチパチとさせ、携帯に顔を近付ける。その通知の数に俗に言う、あけおメールのようなものかと気付かされる。


「…わわ、」


 色んな人から来たLINEを一つ一つ確認していると、突然携帯が震える。LINEではなく、電話だった。着信の主の名前を見ると画面には"柳蓮二"の文字。まだ起きてたんだ。意外に思いながら応答ボタンをタップする。


「…もしもし」
「突然だが、今から会えるか?」
「へ?」


 いきなり何かと思えば。明けましておめでとうの言葉も無しに、突然そんなことを言い出すので少し拍子抜けしてしまう。でも蓮二がこんなこと言うなんて、ちょっと珍しいかも。しかも深夜に電話を掛けてくるなんて、むしろ何かあったのではないかと不安になる。


「少しだけなら会えるけど。何かあったの?」
「何かあった訳ではないが…。今すぐ家の外に出れるか?」
「えっ、まさか…」


 蓮二のその言葉に嫌な予感がして、自分の部屋の窓から外を覗く。すると案の定私の家の前に蓮二は立っていた。こちらに気付いたようで、ヒラヒラとこちらに手を振っている。

 そんな彼を見て軽く溜め息をつき、「すぐ行く」とだけ伝えて電話を切った。急いで部屋着の上から適当に上着を羽織り、外へと出る。


「蓮二」
「早かったな。あぁ、まずは明けましておめでとう」
「あ…、おめでとう。いつからここにいたの?」
「10分程前だな」
「え、それって…」


 年越す前の時間なんだけど。つまり、私の家の前で年越したということ…だよね?そこまでする程の用って一体何なんだとますます気になる。


「本当は一緒に年を越したいと思ったんだが、以前#name2#の家族は毎年家族全員で年越すのがお決まりだと言っていたのを思い出してな。水を指す訳にはいかないと思って待っていただけだ」
「え、言ってくれればよかったのに…。ごめん、寒かったでしょ?」
「構わない。今こうして#name2#に会えた。それだけで俺は十分だ」


 蓮二はそう言うと私の腕を引っ張り、体を引き寄せる。あっという間に私は蓮二の腕の中にすっぽりと収まってしまった。今まで抱きしめられた事なんてなくて、思わず頭の中が真っ白になる。…もしかして新年だから舞い上がってる、とか?


「流石の蓮二もテンション上がるんだね。意外」
「何を言っているんだ?」
「え、年明けだからこういうことしてるんじゃないの?」
「カップルはこういうことをするのが普通ではないのか?」
「ま、まぁ、そうかもしれないけどさ…」


 改めて蓮二の口からカップルとか言われると妙に照れる。蓮二は見たまんまで、奥手というかなんと言うか。恋愛に対してもとても真面目な人だ。付き合って半年経とうとしているのに、未だに手だって繋いだ事すらなかったくらい。そんな彼が今こうして、私を抱き締めてくれている。新年でテンションが上がっているんだと考えるのも無理ないと思う。心臓がバクバクと音立てているのが蓮二にバレないか不安になった。


「それでは、これも普通か?」
「え?」


 突然、顎をくいっと持ち上げられたかと思うと、一瞬視界が真っ暗になる。直後、唇に柔らかな感触。触れたのか分からないくらいのとても軽いキスだったけれど、私にはそれだけで胸がいっぱいになってしまう。


「れ、蓮二」
「どうした?」
「こ、こっちの台詞だから…。今日、どうしたの?今までこんなことしたことなかったのに」
「…すまない。そろそろ我慢の限界、だったんだ」
「我慢?」
「あぁ。冬休みに入ってから全く会えていなかっただろう?いい加減限界でな。それに付き合ってからずっと…こうしたかった」


 そう言うと蓮二は再び私を抱きしめた。先程よりも力強く。あの蓮二が寂しいと思っていたなんて、正直意外だった。そんな彼を愛おしく思いながら、私は蓮二の背中に手を回した。蓮二の胸元に顔をくっつけると、ドクンドクンと鼓動の早い音が聞こえてくる。…あ、蓮二もドキドキしているんだ。顔を見上げると、赤く頬を染めた蓮二がこちらを見下ろしていた。目が合うと蓮二は見るな、とでも言いたげに私の後頭部を抑え、蓮二の胸に顔を埋める形にさせられた。


「#name2#の受験勉強の邪魔はしたくなかったのだが…本当にすまない」
「寂しいと思ってるのは私も一緒だったから。気を使わせてごめんね」
「謝ることじゃない。ありがとう」
「蓮二のおかげでまた勉強頑張れる」
「…そうか、頑張るんだぞ」


 そう言って蓮二は私の頭をポンと撫でると、名残惜しそうに私から静かに離れた。離れた途端、私と蓮二の間に風がびゅうと通り抜けていき、若干の寂しさを感じてしまう。すると蓮二はハッとしたように「あぁ、そうだ」と呟いた。


「どうしたの?」
「明日、二人で初詣へ行かないか?」
「え、いいの?テニス部の人たちと行くとか言ってなかったっけ?」
「精市に連絡しておけば問題ない。…#name2#と一緒に合格祈願をしたい」
「それはすごく嬉しいけど、ちゃんと自分のお願いして欲しいなぁ」
「俺の今一番の願いはそれなんだ」


 今日だけで何度ドキドキさせられるんだろう。真っ直ぐと私を見据える蓮二の視線が少し恥ずかしくて、ふっと顔を下げてしまう。それと、ニヤけてしまう顔を蓮二に気付かれないように。


「ふふ、そっかぁ。ありがとう。じゃあ行こっか、明日」
「では明日の朝、また連絡する」
「ん、分かった。待ってるね」
「寝過ぎないようにな」


 そう言って蓮二は口角を少し上げると、そのまま家路へとついた。

 帰る彼の背中を見送りながら、思わず頬が緩む。というより、蓮二と会ってから緩みっぱなしだ。楽しいのはこれからだと言っていた妹の言葉はある意味正しかったのかもしれない。翌日、私が目を覚ましたのは陽が完全に真上に昇った頃。開口一番に蓮二の説教から始まったというのは、それはまた別のお話。
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