ユーリと住むようになってから半年。先に聞いていた通り"一緒に住む"と言ってもユーリは寝る時に自分の家に帰る。だけど依頼に行く時も帰って来る時も、この家に来てくれる。私はそれだけで十分だった。
ただ、それと同時にもやもやが生まれた。前から感じていたもやもや。半同棲みたいな事をしている私とユーリの関係って結局何なんだろう、そんな考えがずっと頭に残っていた。友達って感じでも無い。恋人なんて持っての他。相棒?それはすでにラピードが居るから違う。的確な言葉が見つからなかった。それを考えれば考える程にユーリとの距離の取り方も、だんだんとわからなくなってきていた。
私がぐるぐる、もやもやしているのを見抜けないユーリでは無い。それにこの悩みの解決策は本人に聞くしか方法が無いのはわかっている。だから一度ユーリに聞いてみた。私達の関係って何なのかな?って。
『関係?んー…同居人、って所じゃねぇか?』
「同居人……?」
『何だそのしっくりきてねぇ顔。…まあ、そのうちに見つけられるだろ。しっくりくる関係の名前』
「…ユーリは考えたりしないの?どういう関係なんだろー、みたいな」
『考えて決めるようなもんじゃねぇし、それで大きく変わるわけでもねぇだろ』
「いや…変わるとは思うよ、たぶん」
『じゃあ今から"夫婦"だから"夫婦"みたいな関係の事してください!って言われて、すぐにできるか?』
「それは…無理、だね。まず実感するのに時間かかる。気持ちも追いつかなそう…」
『結局は互いの気持ちの問題だと思うし、関係に名前着いたってだけですぐに変わらない。自然と定着してくもんだと思うから、オレは考えたりしねぇって事だ』
「うーん…そっかぁ…」
『…まだ納得いってねぇみたいだな』
「ううん…大丈夫」
ユーリの考え方には納得いってた。私も似たような考えを持っていたのもあったから。でも悲しかった。少なからず同棲してるのだから、私の事は何かしら意識してくれていると思っていた。だけど、意識していたのは、特別な感情を抱いていたのは私だけみたいだ。胸が強く痛んだ気がした。
今も悩んでいる事だけど、当時は今よりもずっと悩んでいた。この感情は恋なのか、どうか。恋にしてはあまりにも歪んでいる気がした。依存はしている、だけどそこに恋愛感情があるのか。恋人らしい事をしたいかと聞かれたら悩む、ユーリがそばに居るだけで満足しているから。そもそも私なんかとそんな事をしたいとユーリが思うはず無い。だからと言って彼を責める気にもならない。恋?愛?どれもしっくりと来なかった。そんな悶々とした日が長く続いた。
そんな会話をしてから数日後。珍しくユーリは帝都で依頼をしていた。何でも前にも依頼があったケーキ屋さんで数日働くらしい。何でも屋さんみたいなギルドだとは思っていたけど、本当に仕事を選ばないみたいだ。完全に他人事で話を聞いていたが、だんだんと興味が沸いてきた。それに帝都でも少し噂になって来ている。忘れていたがユーリは目立つ、噂にもされやすい。街を歩いてると自然と噂が耳に届く。そんな日を数日過ごせば気にもなってくる。
その日は仕事を入れてなかった。目的はユーリが働いてるケーキ屋さん。あのユーリが接客してるというのも気になる。想像をしながらワクワクとお店へと向かっていた。そのワクワクもお店に着くとすっかり消えていて。
お店の前にも中にも人はたくさん。そんなに人気のお店なのかな?と最初は思ったけど、周りの様子を見れば理由が一目瞭然だった。オシャレな女の子がたくさん。そんな女の子達が熱い視線を向けて可愛い声で噂話をしている。その先に居るのはユーリだった。理由がわかった瞬間に胸が一気にざわついた。そして改めて思い知った。ユーリは私なんかと違う、私なんかと一緒に居る方がおかしいのだと。一気に後ろ向きな言葉が流れて来た私は逃げるようにその場から帰った。
家に帰ってからも女の子達の姿や声が頭に残っていた。みんな本気で狙っている?可愛い子たくさん居た…ユーリも誰かと付き合ったりするのかな?そんな事ばかり考えた。それと一緒に暗い感情が出てくる。誰かのものになるくらいなら…なんて最低な考えを当時の私は抱いていた。ユーリと付き合いたいわけじゃない、ただユーリを取られたくなかった。今思い出しても汚く暗い感情。恋から程遠い歪んだもの。そんな気持ちに包まれて、気が焦っていた。
『ただいまー…って、ユウ?どうかしたのか?』
あきらかに顔色が悪かった私を心配してくれる。でもその優しさに感謝をする余裕すら、この時は無かった。
「ユーリ…おかえり。ねぇ、…話あるんだけど、いい?」
『ん?ああ、いいけど…ユウから改まって話あるなんて珍しいな』
「……私、ユーリの事が好き」
『随分と突然だなぁ…、オレもユウの事好きだぜ』
「違うよ、ユーリ。本気なの…私ね、ユーリと付き合いたい」
顔色悪い、余裕も無い。きっとユーリは私の異常さに気付いていた。だけど突き放す事は無くて、どこか悲しそうな顔をしていた。今でも鮮明に覚えてる。
『……ごめんな』
普段とは違う弱い声だった。今もし同じ声を聞いたら抱き締めてしまいそうな程に弱い声。だけど当時の私はそんな変化も見抜けなくて。断られた焦りが勝っていた。
『…ユウ。オレも少し話あるんだけど、いいか?』
「え…?」
『なるべく手短に話すから』
別な手を考えていた私には予想外な言葉で。もしかして一緒に居る事を拒絶される…?なんて見当違いな不安が出てきた。血の気が引く気がして、頷く事しかできなかった。
そんな私の不安に気付いたのか、ユーリが手を握ってくれて。じんわりと落ち着く事ができた。その様子を確認してからユーリは話してくれた。
ユーリの罪の話、その理由とユーリなりの考え。そして、この先いずれ償いをする事。だから私の告白を断ったという事。いつもと同じように、他愛のない話をする時みたいに話をしてくれた。でも握られた手が微かに震えていた気がして。私はこの時はじめてユーリの弱さに触れた。実際には時折ユーリの暗さには前々から気付いていた。だけど自分勝手な私は、それに気付かないふりをしていた。本当に昔の自分は最低だと思う。
だけどこの時は境に気持ちは大きく変わって。ずっと強く輝いて見えていたユーリにも弱さはあった。それを見せずに私の事を支えてくれていた。何度お礼を言っても足りない程の感謝と、自分を押し殺す事をさせてしまった謝罪と。いろいろな感情が一気に流れてきた。
『…そもそも一緒に住む時に言えよって話だよな。悪い、今まで黙っていて』
「……。ユーリ、ごめん」
『ユウは何もしてねぇだろ?……あっ、一緒に住むのが嫌になったなら言えよ。ちゃんと責任取ってから出てくつもりだ』
「ユーリの事が好きって言葉を訂正する」
『まぁ、こんな奴と一緒なんて居たくねぇ…って、ん?はぁ?』
「いや、好きは好きだよ。でも何か違う。そんな簡単なものじゃない。まず、そう思うには私が未熟すぎる」
『ユウ?何の話してんだ…?』
「ごめん、ユーリを好きって気持ちは一旦保留にさせて」
『それは構わねぇが…、それが普通だろうし。でも一旦保留ってなんだよ』
「…私、ユーリの事何もわかってなかった。知ろうともしなかった。ユーリに甘える事しか考えてなかった。…だけど今はユーリの事を支えていきたい。もっと弱さに触れていきたいと思ってる」
『…本気で言ってんのか?』
「本気。でも今の私じゃ、まだ物足りない。支えきれない。だから変わる。ユーリの事軽々と支えるくらいに、弱さも全部受け止められるように」
『……、後悔しても苦情は受け付けねぇぞ』
「しないよ。例え後悔したとしても自分で決めた事だから、ユーリを責めるような事はしない。…逆にユーリは後悔してる私を責めてもいいよ?」
『オレが責められるような立場でもねぇだろ』
「そのくらいの覚悟があるって事。どんな未来でも絶対に後悔しない。ユーリのそばに居て、支えていきたい」
『…さっきの告白よりも、ずっと胸に刺さるな、それ』
「あれはもう忘れて…ください…」
『それは無理だ。しっかりと聞いちまったからな。ずーっと覚えておく』
「…性格悪っ」
『今更だろ?』
「今更だね」
『……そこは否定しろよ』
いつの間にか、いつもの調子。おかしくてお互いに笑っていた。繋がれたままの手から伝わるユーリの体温がとても愛おしく感じられた。
あれから2年。ユーリと私は未だに"恋人"にはなっていない。ユーリの気持ちと私の気持ち、お互いの気持ちを擦り合わせて決めた事。
どんな関係?って聞かれたら、答えに迷う。だけどあの時のような暗い気持ちは無くて。
たまにぶつかり合ってたまに支え合って、私達なりのペースで今に至った。これからも、きっと同じ。幸せな未来にはならないかもしれないけど、そばにいる間はユーリに幸せを感じてほしい。何よりも大切で、大事な人。
これからも2人なりの幸せを築いていきたい。