日向くんと影山くんを東京に無事送り届け、そのまま宮城へとんぼ返りした日は流石に疲れ、日曜日は動けなかった。


それでも彼らが充実した練習を出来るのならそれも良いか、なんて思える程に私は彼らに入れ込んでいるらしい


こんな形でも彼らの助けになれるのならば私の存在価値はあるな、なんて満足感に浸りながら合宿から帰ってきてから初めて烏野高校を訪れた


しかし、そこで見た光景は合宿前とは異なっていた


「…?なんか、あったの?」


「はい…ちょっとあの二人が喧嘩しちゃって…田中さんが止めてくれたから良かったんですけど、投げたり投げ飛ばされたり、2人とも怖くて」


そう言って俯く谷地さん。意見の食い違いはいつもあるように見えるけど、それとは比べ物にならないくらい言い争ったようだ


「そっか…2人が自分達の力でなんとかするのを信じて待つしか無いのかな」


「先輩達もそう言ってました。…でもまたあんな風に喧嘩したらって思うと怖いです…また今度は長い合宿があるのに」


「1週間くらいだっけ?東京に行くんだよね。他校の人々に迷惑にならないといいけど…」


「…そうだ、苗字さん一緒に来ることって出来ませんか!?」


「ん!?デジャヴを感じる…」


「苗字さんいたら、少なくとも影山くんは抑えられそうなので、あんな風になることは防げるかと!」


「いやいやいや、それは流石に無理だよ。ごめんね?」


「そうですよね…苗字さんは1週間もいられないですもんね…」


正直言われた時は土日の間だけならアリかも。なんて思ってしまった私は少しバグって来ているみたいだ。


しかし、やはり他校の人々もいる中何もしない私がただの影山くん見張り係として行くのは間違っている、皆真剣にやってるのに私だけ何もしないなんて、私自身もしんどい。


「出発は来週、夜に宮城出るんだっけ?」


「はい、朝には東京に着けるよう移動します」


じゃあ来週は1週間皆と会えないんだなぁ、少し寂しく感じる


皆が戻ってきたら、合宿中の土産話でも聞こう。それを楽しみに1週間仕事頑張ろう。そう意気込んだ。








…はずだったのだが、何故か今私は1泊2日分の荷造りをしている


結局谷地さんが諦めがつかず武田先生に相談したところ激しく同意され、更には烏養コーチも賛同したらしい


そして3人にどうか、どうにかなりませんかと迫られ、いつの間にか私は首を縦に降ってた。数の暴力。


私はみんなが行った後から合流になるので、交通費は学校側から捻出します!!と武田先生が言ってくれたがそれは流石にお断りした。


割と最近車でとんぼ返りした所なので、1泊出来るのならよっぽど自分で移動できる。


私って流され易いのだろうか…どこか悲しく感じながら荷造りを進める。


行くからにはちゃんと、影山くんの様子を見ておこう。コミュニケーションも出来るだけ取るようにしよう。





約4時間半の移動を経て、東京へ着いた。


校門へ着いたと武田先生に連絡したところ、駐車場まで迎えに来てくださった。


「今日は本当にありがとうございます!これで安心して彼らを見守れます」


「いえいえ、…でも影山くんはそんな悪い子じゃないし止めようと思えば皆さんでも止めれるかと思うんですが」


「はい、それは勿論です。でもその行動に対してどうしてそうなったのか。一緒に考えてあげる存在が必要だと思ったのです。」


「日向くんとは違い、影山くんには少し自分でなんとかしようとする意志が強いです。そんな彼の中に取り入れられる存在が苗字さんです。僕は影山くんには苗字さんが必要だと常々思っていましたよ。」


そう言って笑いかける武田先生。自分でも気づけてない部分を気づかせて貰えたような気持ちになる。私は影山くんの為にもいないといけない。





体育館の扉を開ける、するとほとんど知らない人々が中にいた


「うわぁ…沢山いますね」


「はい、ビブスの色ごとに学校がわかれてます。紹介しますね」


そう言ってそれぞれの学校を紹介してもらった。正直全然覚えられる気がしない…


「それで、今は烏野高校は音駒高校と試合中なのです」


言われた方を見ると確かに試合中で、まさに今影山くんがサーブを打とうとしている時だった


ボールを宙に放る、そして助走をつけたとき


「あ!苗字さん!なんで居るんですか!?」


「っ!?」


「こ、こんにちは…」


大きな西谷くんの声に驚き、影山くんが放ったボールは影山くんの頭目掛けて落ちてきた


「…いでっ!!」


痛そう…というか西谷くんの言い方からしてもしかして皆には言ってないのだろうか


なんでいるんすか。とでも言いに来そうな影山くんを澤村くんが押さえつける


「影山!試合中だぞ!!」


「いや…なんでいるんすか苗字さん」


「先生達が呼んだんだよ!!明日の朝までいてくれるから、話なら後で聞いてもらえ!」


「明日まで…!うっす!」


澤村くんにそう言われ、コートに戻る影山くん


あんなに嬉しそうな顔されるとやはりこちらも嬉しくなる


その後、練習が一区切り着くまで他校のマネージャーさん達に自己紹介したり、お昼ご飯の準備を手伝った。




「!?これ…苗字さんのおにぎりだ!!」


「んぁ?なんだそりゃぁチビちゃん。」


「うちのバレー部によく来てくれるお姉さんっす!料理上手で、おにぎり前作って貰ったらめっちゃ美味かったんす!それがこれ!」


「んんー?…ホントだこれうめぇな!!」


「木兎さん。静かにしましょう。」


「おい、赤葦もこれ食ってみろよ!美味いぞ!」


「…ホントですね。他校のマネージャーでしょうか?」


「や、烏野んとこの…なんだ?お姉さん?」


「そうです!元々影山の知り合いで…」





皆がお昼ご飯の時間、私は外に出ていた。


結局影山くんとはまだ話せてない。練習にペナルティに忙しそうだ。


皆は夏休みに入ったこともあり、外は大変暑い。けれど中にいると、あまりに知らない人が多いので気疲れしてしまう


「あっついなぁ…」


「そんなとこいるからじゃないですか。」


驚いて振り返るとツッキーが立っていた。


「あれ、ツッキーご飯は?」


「もう食べ終わりました。こんな暑い中食欲も湧かないですよ」


「わかる気がする…皆よく食べるよね」


「苗字さんのおにぎりだ!って日向が騒いで回ってましたよ」


「え!?なんでバレたかな…あ、この間作ってあげたかも」


「その話の流れで色んな人に苗字さんのこと紹介してました」


な、なんだと…?ろくに自己紹介も出来てない人が多いのに名前だけが広まっていく…


「…もういっか、暑いし」


「…だいぶ暑さに頭やられてますね」


「うるさいよ!?ツッキーそんなんだとかっこいい大人になれないよ!」


「かっこいい大人ってなんですか」


「…なんだろう」


「…。」


「室内戻ったらどうですか、ろくに会話できてないし」


「そうするよ…」


ツッキーとすれ違い、校内入口を目指す。するとすれ違いざまにツッキーが「これ。」と言って未開封の水が入ったペットボトルを渡してくれた。


もしかして、暑いのに外にいることを心配してくれていたのだろうか。


そう思ってしまったらツッキーの可愛げのない行動も可愛く見えてしまって


「ツッキー!ありがとう!!そういうとこ好きだよ!!」


「ばっ…何言ってるんですか、王様に聞かれでもしたら面倒なことになりますよ」


そう言い切って去ってしまったツッキー。ちゃっかり赤くなってる顔を見ると可愛いなぁ、なんて微笑む


大丈夫だよ、影山くんはまだきっとご飯食べてるだろうし。


なんて思いながら扉を開けた先に影山くん。


「ひぇっ…」


「ひぇってなんですか。…ちょっと来てください」


腕を引かれて人気の無い場所に連れてこられる


え、これは怒ってる?怒ってない?お互い好きですねって自覚した後にそういうことすんなって怒られる?


怒られる理由までしっかりわかっているのに私は影山くんが怒っていないことを願っていた


「…怒ってないっすよ」


「…良かった。」


「でも、もやもやはします。…たぶん、妬いてます」


「ご、ごめん…」


「いいっすよ。やっと話せましたね。」


そう言ってぎゅううっと抱きしめてくる影山くん。


付き合ってないんだからダメだ!と当初は抵抗していたのだが、力の差とあまりに自然な流れで抱き寄せるのでもう抵抗はやめた。


気づいたら抱きしめられてることが多いので、実は影山くんは凄く手慣れているのでは無いのかと思わされる。


「なんで、来るって言ってくれなかったんすか」


「いや、私先生やコーチから聞いてるもんだと思ってたの」


「聞いてないっす。」


「うん、私もそれこっち着いてから気づいた。皆の驚いた顔見て。」


「おにぎり美味かったっす。苗字さんの味。他校の人たちも美味いって言ってました。」


「良かった!そう言って貰えると嬉しい。夜ご飯のお手伝いもするつもりだから期待してて!」


なんて調子に乗って言ってみたが


「はい。期待してます。」


なんて至近距離で微笑まれながら言われるとショートしそうになる、イケメン凄い…


そもそも抱きしめられてるだけでも心臓が過労死しそうなのにそんな風には微笑まないで欲しい、急に止まってしまいそうだ。


「そ、そろそろ練習戻らないとじゃない!?」


「…はい、いってきます」


最後にもう一度ぎゅうううっと強く抱きしめてから体育館へと向かった影山くん。


それに対して力が抜けて床に座り込む私。


これじゃあどっちが大人だかわからないな。


back
top