優しさ
お昼休憩が終わり、また練習試合が始まった。
未だに日向くんと影山くんはコミュニケーションをあまりとってない。信じて待つのみだ。
私は見学をしつつ、マネージャーさんの手伝いや買い出しなどをしているうちに、夕方になっていた。
影山くんに宣言した通り、夕飯を作っていく。マネージャーと言えど高校生。日頃はお母さんが作るご飯を食べている為、自炊している私の方が少しばかり手際は良かった。
その為炊事においては戦力として加担することが出来、マネージャーさん達に大変感謝された。う、嬉しい…!
それにしてもあの人数分のご飯をこれだけの人数で作るのはかなりの重労働だ。作り終えた時点で私の体力は底を尽き、またしても皆がご飯を食べる時間は食堂からは消えていた。
本当は配膳までが仕事なのだが、マネージャーさん達から充分手伝ってもらったからもう休んでください!と言ってもらってしまったので、有難くお風呂を先に頂いた。
夜ご飯のタイミングで他校の人々と少しでもコミュニケーションとれたらなぁ、なんて思ったりもしたが、明日で帰るしもういいか。なんて思ってお風呂を出る。
そういえば、烏野高校の皆の前でもすっぴんで彷徨いたことはないことに気づく。
え…お風呂入っちゃったしもう化粧したくないな…でもすっぴん…どうしよ…と悩んだ末、誰にも見つからないように部屋へ行こうという結論に達した。
しかし
「…?なんか顔が違う」
こういう時に会う男、それがツッキーだ(?)
「うわぁぁぁ!!…さ、さよなら!」
「待ってくださいよ」
ナチュラルにしっかりと腕を掴まれる。逃げれない。
「ん…?あぁ、化粧してないのか苗字さん」
顔を覗き込まれてじっと見られる。デリカシーが無い。
「そ、そうです。見たくも無いもの見せてすいません!出来るだけ人に見られず部屋に戻りたいから、離して?」
「…影山も見てないの?」
「見た事ある訳ないでしょ!」
「ふーん…」
謎な質問だけするだけして、腕をあっさり離したツッキーはお風呂へ向かっていった。
なんだったんだ。いやいや、考えている暇は私には無い。さっさと部屋に戻ろう。
◇
なんてこった。何故か部屋が開いてない。マネージャーさんの誰かが鍵を持っているのだろうか。
いやしかし彼女らに会うためには食堂まで行かないといけない。あんなに人がいる中こんな顔で歩き回れない。困った。
ふらふらと校内を歩き回っていた私は体育館に居残り練習している影山くんが見えた
あ、練習してる…外から眺めさせてもらおう
扉の外に座り込んで影山くんを見つめる。いつ見てもかっこいい彼に今日もしっかり惚れ込んでいる。
よく見れば、谷地さんもいた。谷地さんがボールを山なりに投げて、それに影山くんがトスをあげる。
それをひたすら繰り返す。そういえば影山くんと谷地さんが一緒にいるのは中々見ない光景だ。
何度も、何度も繰り返す同じ動作。
そして取り憑かれたように私は彼らを見つめる。そして、気づけば呟いていた
「お似合いだなぁ…」
どこかでわかっていた。彼の隣に立って生きてくことが簡単ではないこと。好きだけではなんともならないこと。
そして人間としても出来ている影山くんに対して自信の無い私。とてもかっこいい影山くんに対して特別美人でもなんでもない私。
隣を胸張って歩いていくには、辛い事が多いってこと。
化粧なんかしなくたって充分可愛い谷地さんを見ていたらどんどん苦しくなっていった。何も、何も悪くないのに。
やっぱり私なんかじゃ一緒にはなれない。そう言えたらどんなに良いか。
だめだ、こんなこと言ったら影山くんは悲しむ。俺の一部でしょうって悲しむ。
考えることを辞めよう、思考を止めれるようにまずはこの場を離れよう
そう思い、私は体育館を後にした。
◇
しばらく校内を徘徊した。けれど歩いても歩いても2人が並び立つ光景が頭から離れない。それほどに、お似合いだと感じてしまった。
同い年だし、よっぽど話も合うだろう。選手とマネージャーが付き合うなんてとても青春だ。なんて自嘲気味に笑う。
そうして歩き回って食堂の近くを通った。
もう明かりは消えていて、夕飯の時間が終了したことに気づく。
明日の朝にはもう東京を出るので、朝ごはんの準備は手伝えない。なら、夜のうちに評判が良かったおにぎりでも準備しておこうか。
そうと決めたら既に炊き上がっていたご飯を準備し、取り掛かる。
◇
暫く無心で作り上げていたので、先程の思考を止められて安心した。
しかし、雑念が生じてくるとやはり考え始めてしまう。
高校生が大人に憧れるのはよくある話だ。私もそうだった。
影山くんはそれを恋だと思い込んでしまったのかもしれない。
一度離れればちゃんと、同年代と恋愛出来るかもしれない。
そうしたら、私への想いは憧れだったと気づけるかもしれない。
そうだ、そうしたら良かったんだ。これが1番だ。私が影山くんにしてあげられる最善だ。
彼は、私なんかが引き止めてはいけない人物だ。
影山くんの未来が明るく幸せなものであれば、
私はどうだって、報われなくたって、
「…あれ…」
気づけば頬に涙が伝っていた。
自分でも全く気づいていなかったので驚き、こんなところ誰かに見られてしまったら余計な心配をかけてしまうと考え、急いで手の甲で拭う
止まれ、止まれ。止まれ!そう念じても全く止まる気配のない涙に焦り、強く目元を擦る。
「…!何やってるんすか!!」
なんで、こんな、1番会いたくない人に見つかってしまうのだろう。
「擦っちゃ駄目っすよ!目が腫れます…それにどうしたんですか。なんで、泣いてるんですか」
両腕を影山くんに掴まれる。泣き顔が晒され、いたたまれない。
「…なんでもないよ」
「そんな訳ないですよね。…俺には話せないことですか」
「…うん」
「っ…どうして、話せないんですか」
「影山くんが悲しむから」
「俺を悲しませてもいいです。」
「駄目。そんな顔見たくない」
「…やっぱり俺とは付き合えない、そういうのですか?」
なんで…
「大丈夫です、もう聞き慣れました。悲しみません。必ず一緒にいる方法探します。どうしたら一緒にいてくれるのか考えます。だから、話さないのだけは辞めてください。」
今日も、真っ直ぐ思いを伝えてくれる影山くん。
いつもなら嬉しいのに、今だけは自分が恥ずかしくなり、この場から逃げ出したくなる
「…谷地さんとお似合いだと思った」
「えっ?谷地さん?」
「うん、同年代で、可愛くて…それで思った。私と1度離れたら影山くんはちゃんと同年代と恋愛出来るんじゃないかって」
だめ、言っちゃだめだ。
「そうしたら私に対する気持ちは憧れだったって気づけるのかなって、私なんかと付き合わなくて良かったって未然に防げるのかなって、」
止まれ。やめて、言いたくない
「影山くんが幸せになってくれるなら、私はどうなっても」
こんな気持ち影山くんに知られたくない。どうなってもいいなんて、
「報われなくても、」
報われなくてもいいなんて思ってない、私は、
「私はいいと…」
止めたくて仕方なかった私の口は止まった
否、止められた。
影山くんの唇によって
くっついたのは一瞬で、すぐに離れる
「…なんで、そんなこと考え出しちゃうんすか」
こつん、とおでこを合わせながら話す影山くん
「同年代であることが正義では無いですよ。俺は、憧れじゃなく、ちゃんと心の底から苗字さんが好きです。ほんとは、キスだってもっと前からしたかった。」
「でも、付き合ってないって言われるかもしれないし嫌がられるかもしれない。そう思って我慢してました。これは憧れてても出来ることっすか?」
違う
「…出来ない」
「はい。…伝わりました?俺の気持ち」
ムッとしながら言う影山くん
「…うん、ごめんなさい」
「もう1人で悩むのやめてください、俺の事巻き込んでいってください」
こんなうじうじしてる私に対して朗らかに笑いかけてくれる影山くん
彼を見てたらまた涙が溢れてきた
「え!?ど、どうしたんすか!?…あ、キスしたの嫌でしたか、すんません…」
「違うよ!…嬉しかったの、言葉も、き、キスも…」
ただ、裏表の無い本当の優しさをかけてくれる影山くんが愛しくて、愛しすぎて涙が溢れた。
また、悩んでしまうかもしれないし、辛くなるかもしれない。それでも、彼と一緒に生きていきたい。
「…これからもよろしくお願いします」
「…!…うす!」
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