翌日の朝、私は東京を出発した


顔も名前も全然覚えられてない私に、ご飯や買い出しのお礼として挨拶された。もう明日で帰るしもういいや、なんて思ってしまって申し訳ない。


そして車に向かって歩き出した際、影山くんに抱きしめられた。毎度の事ながら強い力で。少し痛いけど、愛情を感じるので嫌ではない。


だが、今回は皆の目の前でそんなことをされてしまい、私は恥ずかしさから逃げるようにして東京を出た。





影山くんとキスしてしまったことをふと思い出した。な、何を考えてるんだ私は。と焦る。


顔が熱くなるのを感じながらも幸せを噛み締めていた。早く、大人になってくれないかな、なんて考える


しかしながら徐々に大人になっていくのを見ていくのも楽しいだろう、彼はきっとこれからも人として、バレーボール部として成長していくだろうから。


そんなことを考えては無意識に口角が上がってしまう。


だめだ、私凄く浮かれてる。


こんなにも、幸せ過ぎたのがいけなかったのか。


幸せは長続きしないものなのか。私は神を恨んだ。


宮城に帰ると、父親からの着信があったことに気づく。


滅多に連絡は無いので、何事かと思いすぐに折り返した。


電話に出た父親はまず始めに「落ち着いて聞いてくれ」なんてドラマで聞くような言い回しをした。


そして言った、



「お母さんが倒れた。もう、宮城にはいられないんだ」と


何を言っているんだと思った。


状況を聞くと、母は急に倒れ救急搬送された。宮城の大きな病院で2週間の入院。今はここらしい。


しかし、原因は分かったもののあまり例の無い症状らしく、手術をしようにも経験したことがある医師が宮城にはいないらしい。


経験のある医師はここから一番近くて東京にいると。


だから母は東京の病院に転院が決まり、いつまでこの生活が続くかわからないから、実家は売ることにした。


そして、年老いた父1人で母の看病には苦しいものがある為、私にも東京に来て欲しいとのこと。



急、過ぎて。イマイチ頭に入ってこない。けれど今1番私が優先すべきなのは母。それだけはわかった。


ここ数年年に数回しか会わなかったとしても、母は母だ。かけがえのない存在。


父1人で看病は大変。これもよくわかる。私も行くべきだろう。しかし、私の頭の中には嬉しそうに笑う影山くんがいた。


正直、影山くんをとることは確実にできない。一人っ子の私は自分一人で親を守らなければならない。


東京行きは確定だろう。でも、


影山くんは、私は、私の気持ちはどこに向ければいいのだろうか。





母の転院は1週間後、その間に私は退職手続きをしなければならない。


急な事だが家族が病のため、なんて仕方なさすぎる理由の為順調に退職の手続きは進んだ。


里香にはその前に話した。悲しそうに笑った彼女は今までに見たことがない顔で、決意した私まで悲しくなってしまう。


けれど最後には頑張れ!!と背中を押してくれた、これ以上ない女友達だ、どうか幸せになって欲しい。


その他にも生まれてこの方宮城で生きてきた為、地元の友人も多数いた。彼女らにも連絡をし、送別会をしてる時間は無いので気持ちだけ受け取っておく、とした。


東京での再就職は、父の伝手があり、父とその会社の社長が仲が良く、そちらで雇って貰えるとのこと。


宮城で働いていた会社と同じくらいホワイトな企業だといいなぁ、なんて他人事のように考えていた。


それくらい、私にはやることは沢山あるのに考える時間はなかった。


体だけ動いて、心は空っぽのまま東京行きが近づいていた。







「東京に行くことになりまして…」


「そう、ですか…それは影山くんが悲しみますね…」


「はい。でもやはり東京から頻繁に会うことは難しいですし、彼にはバレーに集中して貰いたいので、ちゃんと、お別れしてから行くことにします。」



「…わかりました。今まで本当にお世話になりました」


「こちらこそ、最初から最後までありがとうございました」


武田先生に頭を下げる。唐突なことになって本当に申し訳ない。


しかし今になって、今までは自分が居なくてもいいバレー部が居場所が無いようで嫌だったのに、いなくなると分かると居心地が良く感じた。


私がいなくなっても彼らは変わらずプレーを続けてくれる。それだけでも私の心の支えになる


「今までありがとうね、これからも頑張って!」


「うっ苗字さん…!」


「お、俺いつか東京まで会いに行きますから!!」


なんて悲しんでくれたり、前向きに言ってくれる田中くんと日向くん


他のみんなも悲しそうな顔をしていた。


あのツッキーでさえ、驚きを隠せずこちらを見つめている。


そして、影山くんはなんの感情も無い表情をしていた。


胸を刃物で刺されたような痛みが襲った。痛い、痛いけど影山くんはきっともっと痛い。

ごめんなさい。本当に、ごめんなさい。


私には謝ることしか出来ない。どう頑張っても彼を優先は出来ない、どうかまた好きになれる人を見つけて欲しい。





彼とは結局会話出来ず、体育館を後にした。


しかし、後ろから聞こえる足音に元から歩みを遅くしていた足を止める


「…影山くん。」


「…俺、俺はどうすればいいんですか」


「苗字さん東京行っちゃっても俺自分で会いに行けないです。」


「でも、苗字さんは母さんの看病で忙しいから会いになんて来れないっすよね」


「俺は、俺たちはどうしたらいいんすか」


困惑しながらも戸惑いながらも言葉を紡ぐ影山くん


わかる、わかるよ。私もそうだった、でも考えても考えても選択肢はひとつしか無かった。


「私はね、影山くんのこと、大好きだよ」


「でもね、東京行きは変えられないし。会えないのに好きでい続けるのは辛い事。」


「だから、ここでお別れするべきなんだと思う」


「…そんなの!!!」


「出来ないよね、わかるよ、わかるんだよ…」


涙が出てくる、辛い、こんなこと影山くんに言わないといけないことも、言われてる影山くんも辛い。


「出来ないけど、やるしかないの。…お願い、わかって。」


泣きながら、途切れ途切れにでも彼に伝える。私だってあなたに本気だったと。


「…迎えに行きます。」


「え?」


「大人になったら迎えに行きます。だから待っててください」


心臓がドクンっと脈打った。


これだから、影山くんは…なんて思いながら笑みを浮かべる


それを承諾する訳にはいかない、私は嬉しいけど彼をその約束で縛りたくない。


自由でいて欲しい。


「待たない。待たないよ私。だから影山くんも自由に生きて。」


「俺が約束したいんです!!…だめなんすか…」


影山くんの頬にも涙が伝う。泣き顔は初めて見たけど、やはり綺麗だった。こんな時にもそんなことを思ってしまう。


あぁ、やっぱり好きだ。諦められないくらい、未来を約束したいくらい、彼の未来を縛るくらい好きだ。


きっと私は自分で自分の歯止めが効かない。


だから、私たちのこれからの関係は運命に委ねることにした


「…私の我がまま聞いてくれる?」


「…なんですか」


「…また、どこかで会えたら。もしもどこかでもう一度会うことが出来たなら、今度こそ一緒になろう。」


私たちがもう一度出会えたように、運命の力で出会えることが出来たなら、彼の未来を私にください。


「…っ…ずるい、っすよ…」


泣きながら、けど笑った影山くんは言う


その顔を見て私も泣き笑った。


「さようなら、影山くん」


「さようなら、苗字さん」


私の事は、忘れて欲しい。本心を殺してそう願う。


私は影山くんとの思い出を抱き締めて生きていくから。


どうか、君の未来に幸あれ。


Good luck to your future.


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