どうかもう一度
「影山ってさーほんとバレー馬鹿だよなー」
「あ???」
こいつにだけは言われたくない、そう思ってた奴に言われてしまった。
「きょ、今日もお前は顔が怖ぇよ!!もっと顔だけでも優しくなることは出来んのか!!」
「うるせぇ!!元からこんな顔だボゲェ」
今日も日向はうるせぇし、大きなお世話だ。顔が怖いなんて言われ慣れてる。動物にも懐かれない。
そんなの自分が1番理解しているというのに毎度毎度ギャーギャーと言われて腹が立つ。
「おー今日も喧嘩してんなー!元気だな、お前ら」
「スガさん!!ちーっす!!」
「ちっす。」
「おぉーちーっす!なんだ?今日も体育館まで競走してきたのか?」
俺達はよく体育館までどちらが早く着くか競走している。
そしてその勝敗によってどっちがどっちでも今のように言い争っているような気がする。
「いや、今のはそれが原因じゃなくて、ほんと影山ってバレー馬鹿だよなって言ったんです」
「ん?今更じゃね?」
菅原さんにまで言われると日向が喚いているだけよりダメージが深くなるんだが…
なんて話しているとほかのメンバーも体育館に集まってきた
「なんで今更そんなこと思ったんだ?」
「えーっとそれはですね、」
「おーい、始めるぞー!」
「あ、始まるな、また帰りにでも教えてくれよ!」
「うぃっす!!」
今日も練習が始まる
◇
帰り道、話題はまた俺のバレー馬鹿という話になった
「影山って、清水先輩と話しても全く動じないんですよ」
むしろお前は動じ過ぎだろ。話しかけられるといつも真っ赤になってろくに話せてないくせに。
「確かに!!!影山ってあんまり女の子に対して可愛いとか、美人とかいう思った事なさそうだよなー」
「潔子さんと話せても何も動じないなんて…お前ほんとに男かよ…!」
田中さんが有り得ない、なんて顔してみてくる。男だし、ある意味日向の言う通り自分はあまりバレー以外に興味が無い。
「まぁ、王様だし、彼女とか出来ても横暴そうで上手く行きそうもないですから興味ない方がいいんじゃないですかぁ?」
「あぁ?そういうお前だってそんな興味無さそうじゃねぇか」
「確かに月島もバレーだけって訳じゃあないけどそんなに彼女ーとか恋愛ーとか興味無さそうだよなー」
「影山ってさ、普通にしてればモテそうなのに彼女作んないの?」
正直告白されたことは何度かある。中学の時も、高校に入ってからも。
「今はバレーより優先出来る気がしないですし、そもそもさっきから言われてる通りで俺あんまり女子に対して可愛いとか思えないんですよね。」
周りの人にも伝わるくらい、恐らく興味が無いのだろう。比べる気もないし、意識することも無い。
「えー!!勿体ねぇべ!」
「せっかく良い顔してんのになぁ」
「そっすかー?おれ別に影山イケメンだなんて思わないっすけど」
「そうか、もうトスはいらないのか」
「いりますいります!!!ごめんなさい!!!」
「1回も思ったことないのか?付き合いたいなーとかあの人綺麗だなーとか」
「………1回だけ、あります」
「「「「お!!?」」」」
「誰々??いつ??」
「この影山がつい可愛いって思ってしまうほどってどれほどの美女なんだ……」
「えっと、俺高校入試の時烏野以外も滑り止めで受けたんすけど、」
「うんうん」
「そこは電車乗ってかないと行けない高校で、入試受ける為に駅まで行ったんすけど財布家に忘れたんです」
「は!?」
「ぷぷぷっお前間抜けだなぁ!!」
「あ?やんのか???……そんで、その時もう入試受けれないかも、って諦めかけたんですけど、スーツ着た女の人。大学生より大人っぽかったからたぶん社会人です。」
「ほうほう」
「その人が慌ててる俺を見てたみたいで、お金貸してあげるって言ってくれたんです」
「でも、知らない人だし、受け取るの躊躇してたんですけど、その人に時間無いんじゃないのって言われて。必ず返しますって言って借りることにしたんです。」
「えーめっちゃ良い人だな!!それでちゃんと入試受けれたのか?」
「はい、結果としては烏野受かってたんでそっちに行くことは無かったっすけど、あの時はほんとに困ってたんで助かりました。」
「ほーー、それでその女の人が優しい上に美人だったと?」
「はい、凄く綺麗だなって思いましたし、ハキハキと話すところもかっこよくて、また話したいって思ったんすけど、」
「お金返すために会ったんじゃないのか?」
「それが、わざわざ返さなくていいからって言ってその時連絡先も名前も教えてくれなかったんです」
「はーー!?なんだよそれ!めっちゃかっけぇなその人!!」
「あぁ、でもそうはいかないから暫く食い下がってたら、私も宮城に住んでるからまた会うことが出来たらお金返してもらおうかなって言われたんです」
「え、それってだいぶ無理ゲーじゃね?」
「無理ゲー…?…はい、無理なんです、わかってて言ってたんでしょうね」
「なるほどなぁ、それでお前はせっかく美女と知り合えたのにもう会うことは出来なくなってしまったということだな」
「はい。別に知り合うことを求めてた訳じゃないっすけど…なんか良くしてもらったってのもありますけど、また会いたい、話したいってすげえ思ってて。でも現実は会える可能性がかなり低くて。」
「影山にそんな運命的な出会いがあったとは…」
日向がじとーっと見てくる。なんだよ。
「じゃああれだな。俺達皆で探すべ!!」
「「だな!!」」
「え…いいんすか」
「おうよ!!可愛い後輩の手助けだしな!それに影山が忘れられないほどの美女ってのが気になるしな」
「いや、むしろそれがメインだろ。」
「あざっす!」
理由はどうであれ、一緒に探してくれるという先輩方に感謝しかない。
「んで、どんな見た目なんだ?」
「髪は長かったっすね、縛っててこれくらいありました」
俺は背中の中央を手で指す
「ほうほう、んで?」
「その時はスーツ着てたので、日頃からスーツで仕事してる可能性があります。顔は…」
などと思い当たる全ての情報を皆に共有した。
◇
「はーあぁ、名前も住所もわかんねぇから見た目でしか探しようがないってのもきっついなー」
「そうっすよね…」
俺はあの人の見た目、話し方、声。ぐらいしか特徴がわからない。
しかもそれのどれをとっても、俺からしたら魅力的でした。としか言いようが無く、他人に伝えるのには不十分な情報だった
「まぁ、見つけられたらラッキーぐらいの気持ちでいんべ」
「…っす」
そう言われて、やはりもう二度と会うことは無いのだろうか。なんて思っていた矢先
メンバー達と一緒に渡ってた横断歩道
その手前に停まる赤い車の中にあの人を見た
そう、あの日から忘れたことがないあの人がいたのだ
「…い、おい影山!!!何やってんだ!」
日向にジャージを引っ張られる
「轢かれるぞ!死にたいのかお前?」
「あの人だ。」
向こうは俺に気づいていない。もはや忘れられたのだろうか。
「は?」
「さっき。さっき皆に話した人があの車の中にいる」
「は?まじかよ!!…でもどうやって話しかけたらいいんだ」
「話してた矢先にラッキーだなー!影山ー!!」
「これはもう追いかけるしかねえべー?」
「いや、車に対して走って追いかけるって無理があるだろ……っておい影山!!」
車側の信号が青になった途端、俺はあの人の車を走って追いかけた。
勿論車の速度に叶う訳はないが、どうしてもこのまま追いかけずにはいられなかった。
あの日から数ヶ月が経っていても鮮明に思い出されるあの人の顔
どうかもう一度、俺と話してください。そんな願いを込め俺は地を蹴った。
幸いにも交通量の少ない道の為俺はなんの障害物も無く車を追いかけていた
そして数分、いや十数分程度経ったのか?とにかく俺はスタミナ切れでゼーッゼーッと息切れていた
やっぱり、手が届かない…せっかくチャンスが目の前にあるのに…!
なんて奥歯を噛み締めていたら、車は近くのコンビニに停まった。そして
「ちょ、ちょっと!!!君あの時の財布の子だよね!?」
あの日と何一つ変わらない姿に俺は、胸が体験したことがないほどに高鳴り、改めて思った
きっと俺はあの人に恋しているんだと。
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