昨日、財布の彼こと影山くんと運命というのか物凄い偶然と言うのか、とにかくもう会わないと思ってたのに再会した。


しかも何故か物凄く懐かれているような気がする。影山くん凄いかっこいいから別段悪い気はしないけれど、疑問は残る。なんであんなに懐いてるのか。


確かに彼にとって私は親切なことをしてくれた人、だろうがありがとうございました。それだけ言ってしまえば終わっても良い関係だとは思っている


それなのに学校に来て欲しいなどと割と無理を言ってまで関係を続ける理由はどこに…?なんて悶々と考えているうちに本日の業務は終了していた。


勢いで部活見に行くなんて言ってしまったけれど、私は未だに影山くんの真意が理解出来ないでいた。





とはいえ、イケメン高校生に会いに行くのである程度顔面は綺麗にしていこう。


そう意気込み、更衣室で化粧直しを開始した。出来るだけ綺麗な私で臨もう。そして学校に入れなかったら1人で飲みにでも行こう。


「なーにめかしこんでんの?」


同僚の里香だ。恐らく社内で最も仲良くしている女友達でもある。


彼女には影山くんの話しはしており、今朝もまさかの再会を果たしたと話したら口が開いてしばらく閉まらなかった。


「今日、これから影山くん達の部活見に行くことになってるんだ」



「え!?!?見に来てくださいとでも言われた?」


「そうそう。まさかそんなこと言われるとは思わないじゃん?突然の攻撃に太刀打ち出来ず行くことになった」


「いや、攻撃なんて言ってあげなさんな。へぇーー名前に見に来て欲しい、なんて大胆なこと言うんだねぇ、影山くんは。」


「うーん…ちょっとどういう真意でそんなこと言ってくれたのか分からないけど…とりあえずイケメン相手なので顔面のレベル高めとこっかなって感じ」


「いいねいいね、綺麗になっといて損は無いよ!…てかそもそも学校ってそんな簡単に入れるの?」


「いや、それな。そこが1番心配なとこ。だって自分でも思うもん、私って烏野高校バレー部にとって何者だよって。」


「あっはっは!!うけるなぁ。それ入れなかったらどうすんの?会うどーのこーのの話じゃなくてまさに門前払いじゃん」


「せっかく化粧直ししたし、一旦車置いて飲みにでも行くよ。」


「潔い!そーなったら私を呼んでいいからね」


なんて言ってにひひひっと笑う里香はなんだかんだ言って良い友人だ。日々彼女の明るさに助けられることもある。


「じゃあ、戦場に行って参る!!!」


「おう!!ご武運をぉ!!」


門前払いだったら笑顔で「あ、そうですよね、失礼しました!!」って言って速攻帰れるようシミュレーションでもしとくかな…






18時10分 烏野高校前


着いたけど…誰も来てくれない。


え、もしかして昨日のやつって冗談?冗談だったりする??何マジで来てるんすか、キモイんすけどって笑われる?まじ?もう帰った方がいい?


脳内で昨日会った高校生の集団に笑われるという悲惨な絵面が繰り広げられる


いやいやしんどいわ、化粧直しまでしちゃったよ。これは笑われる前に去るべきだな


そう思いハザードランプを止めてパーキングからドライブに切り替えようとした時


「苗字さん!!!」


大きな声で名前を呼ばれた。


声のする方を見ると菅原くんが走ってきてる


「すいません、ちょっと遅れちゃって。」


「いやいや全然!!!」


冗談じゃなくって良かった。笑われなくて良かった。


しかし私自身は先程の被害妄想のせいで笑えないほど冷や汗をかいていた。


「えっと…あなたが苗字さんですか?」


菅原くんの後ろから走ってきた、眼鏡をかけた男性に話しかけられる


「あ、はい。そうですけど…?」


「僕は烏野高校バレー部の顧問を務めています、武田一鉄と言います。」


「顧問…!?」


わ、わざわざ来てもらってしまった。申し訳ない


「皆から聞きまして、苗字さんに是非部活を見学してもらいたいと。何やら苗字さんがいるとより良い練習時間に出来るとか!」


「い、いやいやいや、そんな事は本当に無くて。私はバレーの知識も対してない人間です。影山くんにちょっと面識がある程度で…」


「えー?苗字さん俺達のことはもう知らない人扱いなんですかー?」


「うあぁ!違うよ!違う違うごめんね菅原くん!!…でもほんとに私が居ても特に指導も何も出来ないし見ているだけなのですけどそんな私が許可を貰えるか判断して頂ければと思います…」


「うーん…それは部活の顧問としてはあまり許可し難いですけど…あんなにも熱心に影山くんから交渉されたのは初めてなんです。」


「交渉?」


「はい。影山くんがどうしても、お願いできませんかと何度も言いに来ました。皆も最初は好奇心から見に来て欲しいなんて言ってたのかもしれませんが皆の中でも影山くんがバレー以外に熱心になるなんてめったに見れるものでは無いという認識があったのでしょうね、」


「影山がこんな風に言う相手!!気になりませんか!!なんて皆に言われてしまいまして…それで僕自身が門までお迎えにあがることにしました」


「そ、そうなんですか…なんか期待?されてたのにただの女ですいません…」


「いやいや!今日はどうぞ皆のことしっかり見てあげてください。皆のテンションも上がるでしょうし!」


「え、いいんですか?」


「どうぞ!駐車場まで案内しますね」


こ、こんな感じで良いのだろうか…まぁ先生に許可出して貰ったのだから安心は安心だけど、更に行きづらくなった感じはある…だって私ただ見るだけなのに…


少しだけ重たくなった足を引きずって許可証を首から提げた私は先生や菅原くんと共に体育館へと向かった。






菅原くんがガラガラと大きな音を立てて体育館の入口を開く


その瞬間、バシーーンッッと大きな音がして思わず身をすくめた


「あ!!!苗字さん!!!!」


大きな声で日向くんがこちらを見る。拍手を送りたいほどの笑顔だ。


「苗字さん!ほんとに来てくれたんですね」


「こんにちは、澤村くん。なんやかんや今日は見学させてもらうね、よろしくお願いします」


「「「しゃす!!」」」


昨日会った皆が今日は運動着を着ている、昨日は制服だったから少し新鮮だ


練習時間を邪魔する訳にはいかないので私はそそくさと体育館の端へと移動した


その際に金髪の男性と目が合う


「あ、あの、」


「あー、あんたが苗字さんか?」


「はい!そうです!」

見るからに柄が悪そうだ。恐らくコーチ的な人だろう。皆が着いてく人だろうし悪い人ではないだろうけど見た目がもう悪い人だから冷や汗がとんでもないことになっている。


「あいつらがどうしてもーって言ってたぜ、何したんだあいつらに?」

ニヤッと笑いながら言われる。素晴らしく悪どい顔ですね


「いや…私もさっき先生に言われてなんとなくって感じですけど、影山くんのことを助けたことがあって。それで…懐かれ…っていうか…それで皆はバレー一筋の影山くんが興味持つ私は面白いに決まってる!的な感じかと…」


「なるほどな!!それにしてもあいつらのバカ加減よくわかってんなー」


「俺は烏養繋心って言うんだ。ここのコーチを務めてる、よろしくな。」


「はい、改めまして苗字名前です。よろしくお願い致します。」


自己紹介が済んだところで今度こそ私は体育館の端っこに座る


練習はチーム分けをした試合形式の練習だった。


バレーは少しだけ学校の授業でやった程度だけど、昨日一応ネットで少しだけだけど勉強してきた。


そして今見ている状態だと影山くんはセッターというポジションなのだろう。頭の回転が早くないと出来ないって書いてあった。


ふとこれで頭まで良かったら非の打ち所が無いのでは…なんて思って影山くんの方を見た瞬間、目が合った。


え、かっこよい…


そして影山くんが勢いよく跳んだ日向くんの元へボールを送る。


日向くんはうさぎだったのか…(錯乱)


そして日向くんが助走してから相手コートにスパイクを決めるまでが一瞬の出来事のようで


「凄い…」


そう呟くことしか出来なかった。


しばらくそうして見ていて、意外と見ているだけでも面白いってことに気がついた。皆の動きも私にはわからないけど何か考えて動いているのだろうし、気づいたら日向くんは跳んでるし。目が足りない。


食い入るように見ている私は隣に立っていた彼女に気が付かなかった。


「あの」


「ほあぁっ!?」


とんでもない声が出た。皆の視線を集める、きっ消えたい…


「すいません、驚かせてしまって。私だけ自己紹介出来てなかったので」


「あ、あ、すいません。苗字名前と申します…」


ひいい変な声出たぁぁひいいめっちゃ美人なんですけどぉぉと脳内処理が追いつかなかった私は元々体育館の床に座って見てたこともあり、そのまま土下座のような形でご挨拶した


「あ、あの顔あげてください…私はマネージャーです。清水潔子です。」


「よろしくお願いします!来て早々にご挨拶出来なくてごめんなさい」


「いえ、大丈夫です。皆、影山がお熱な女性だって騒ぎ立てて大変でしたよね。すいません。」


「いやいや!そんなことは無いですし、実際練習は皆しっかりやっててとても私自身見てて楽しいよ!」


「でも、皆今日いつもより張り切ってるような気がします。しっかり見てあげてください。」


そう言って微笑んだ清水さんは女神だった。好きになっちゃうかと思った。





「今日は終わり!モップがけすんぞー」


「「「あーす!」」」


練習が終わり、何故か座ってるだけだったのに私も疲れてしまった。皆の熱量に追いつけずにいたからだろうか。


「苗字さん、今日どうでしたか。」

影山くんが駆け寄ってきて、話しかけてきた。


「お疲れ様でした。私あんまりバレーってわかんなくて、でもいちおうルールとかポジションとか勉強して来たんだけど、実際見ると凄いね!見てて楽しかった!皆カッコよかったし!!」


その言葉に少し遠くにいた西谷くんや日向くんが「あざーす!!」と返事をしてくれた


けれど影山くんは少しムッとしてる、何故。


「…俺、今日調子良くて。体もよく動いたし、日向なんかよりずっといいプレー出来ました。」


「そうなんだ…?」


「…でも、皆と同じくらいかっこよかったすか」


え、どういうことだ。影山くんの取説が欲しい。


日向くんより頑張った。でも皆と同じくらい?…もしや


「皆かっこよかったけど、影山くんはやっぱり私にとっては特別かっこよく見えたかな!」


こ、これでどうだ!!勿論本当の事だけどわざわざ言葉にするほどではないと考えていたが、影山くんはこんな言葉を求めているように見えた


「…あざっす」


顔が赤い。つられて私も顔が熱くなる。なんだこれ、アオハルか。いやいや忘れてはならない、相手は高校1年生。


「わ、私ちょっと暑くなっちゃったから外出てくるね!」


な、なんて分かりやすい言い訳なんだ。でもこんな言い訳しか思い浮かばないくらいパニックになっていた。かっこよすぎる。





「苗字さんって何者ですか?」


外で深呼吸をしていたら後ろに立っていた月島くんに言われた。人間ですよ…


「そこら辺にいる人間だよ。影山くんが興味持ってて皆もそれにつられたみたいだけど、なんてこと無くてごめんね」


「いや、全然そこら辺にいる人間じゃないですよ。だってあの王様を手なずけてるじゃないですか。」


「そーだそーだ!」


「どうやったら影山を上手く使えるのか教えて欲しいです
よ」


いつの間にか掃除も終わって着替えも終わった日向くんや澤村くん、他にもぞろぞろと部室から出てくるのが見えた。


「いや。全く手なずけられてないよ、今日も影山くんと話しててこれはどういう意味だ…って悩んじゃったし」


「でも確実に影山は苗字さんのこと気に入ってますよ。あの潔子さんにも反応しなかった影山が!!!」


「え!?!?清水さんに反応しなかったの!?男の子として大丈夫それ!?」


「大丈夫です。」


「うわぁ!!」


いつの間にか隣にいた影山くんに驚く。


「あの、もう見に来てくれないですか。」


「うん、今日見せてもらったのも特例って感じだったし、そんな何回も見学だけで許可証出してもらうの申し訳ないから」


だから、会うのはこれでおしまいだよ。そう言えればきっと彼と私の曖昧な関係は断ち切れるだろう。


「あの、苗字さんは今日初めて見たからわからないかもなんですけど、今日ほんと影山調子良かったし暴言もいつもより少なかったんです」


「だから、俺としてもチームとしても見に来てくれると助かるって言うか、影山ってよくわかんねぇし難しいから苗字さんが話聞いてやったりしてくれると嬉しいんです」


日向くんが真っ直ぐこちらを見て言ってくれた。


そこまで影山くんのこと見てて考えているのならば日向くんが話聞いてあげてサポートしてあげれば良いのではないか


「じゃあ俺が影山のこと見ててやれば、って思うかもですけどこいつ俺の言うことほとんど聞いてねぇしすぐキレてくるしそれ以前にコミュニケーションが取れないんです」


「…影山くん?」


「……。」


返事がない。日向くんに当たりが強いのは事実のようだ。


「そう言った理由がちゃんとあるなら顧問として許可は出せますよ、苗字さん。」


「…いいんですか?どれくらいの頻度で来れるかもわからないですけど」


「はい、大丈夫ですよ。なんなら苗字さんが来なかった時は次きた時に成長見せてやろう!って逆に意気込むんじゃないですか?ね、皆?」


「「「はい!!!」」」


影山くんはまだしも他の皆にこんな慕われるのはまたなんでなんだろうって思うけれど、すごく、凄く嬉しい


「じゃあ…これからもよろしくお願いします」


「「「あす!!」」」


「…あざっす、苗字さん。これから俺の事ちゃんと見といてくれると嬉しいっす」


ふわっと笑った影山くん。あ、これは、まずい。


恋に落ちてしまいそうだ。


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