真っ暗な道をただひたすらに駆け抜ける
目的地なんて無い。ただ、ただただ体を動かしていないと壊れてしまいそう。
神様、どうして私から希望も幸せも奪ったの。
泣き叫びながら走っても、息が苦しくなるだけだった。
道端に倒れ込み、はぁはぁと胸を動かす
視界の端に見えたのは、親が買ってくれた制服のスカート。
路上に倒れ込んだ為、酷く汚れてしまった
ごめんね、お父さんお母さん。
私は1人じゃ生きていけない。そっちに行きたい。
力無く空へ手を伸ばす
お願い、迎えに来て。もう1人は嫌だよ。
ぼろぼろと涙を零し、必死に手を伸ばす。誰もとってくれないって分かっていても、手を伸ばし続けた。
誰か、助けて。
自らの命を絶つことも出来ない、現状を打破する力もない私を助けて。
手を伸ばす気力も無くなり、弱々しく手を降ろそうとした
その時
誰もとるはずが無かった私の手は、掴まれた
「おい、大丈夫か?」
綺麗な顔した男の人
これが私と飛雄さんの出会いだった。
◇
「お前、さっきからずっと道端で倒れ込んでたけど……体調悪いのか?」
「……………いえ」
手を引っ張り起き上がらせられて、話しかけられる。
よく見たら凄いガタイのいい人だ。ちょっと怖い。
「もう遅い。家帰った方がいいぞ、高校生だろ。」
「……………。」
あの家に帰りたくない。
だからこんな所でのたうち回っていたのに。
「……家出か?」
「っ!!」
「図星か。……警察、行くぞ」
「い、嫌です!!」
警察行ったら結局あの人たちを呼ばれる。そしてあの家に帰らされる。同じだ。
「嫌って言ってもな………このままほっとけねぇし」
「ほっといてください、大丈夫ですから」
「あぁ?」
「ごめんなさい」
めっちゃ怖いじゃん、目付きが、かっこいいって思ったのにめっちゃ怖い。
「………なんで家に帰りたくねぇんだ」
こんな見ず知らずの人に話すべきか悩む
しかし、少なからず路上で転がっていた私を心配して声を掛けてくれた人だ。
私は話し始めた、自分の境遇について。
◇
去年、私は高校2年生。17歳となった。
私の家はそもそも裕福では無く、生活は質素ではあったが暖かく楽しい両親のお陰で不幸だと思った事は無かった。
それに東京の中でも行きたかった高校へ行かせてもらい、高いお金を払って制服も買って貰えて、
私にはもう充分だ。と思っていた。
しかし、1年半程度高校生活を送れたが、やはり東京での生活はどんどん家計を追い詰め、
更にそこから私の学費も嵩み、結果として東京から出ることとなった。
最初こそ憧れの学校だったのに、なんて考えたが仕方ないことは仕方ない。親を困らせてはいけない。そう、私は涙を飲んだのだ。
引越しするお金なんて当然無いので、自分達の車で母方の実家へと帰ることになり、必要最低限の荷物を持って私たちは東京を出た、
そこから地獄が始まった。
私達は飲酒運転していた車に正面衝突され、車は炎上。
中にあった荷物が燃料となり更に燃えた。
なんとか炎上してすぐ逃げ出せた私だけが生き残り、両親は共に遺体も残らなかった。
同時に両親2人ともいなくなってしまった。
そして家もお金も無い。
突然私はこの世界に無力で孤独な存在になった。
身寄りのない私は親戚に預けられ、東京に戻り、なんとか半年過ごしたが、ここでの生活は苦しい。本当に苦しい。
ずっと、家のどこにいても邪魔者扱い。金食い虫。暴言を吐かれ、時には暴力も振るわれ、居場所なんて無かった。外にいるよりずっと家の中が居心地が悪かった。
お前の世話してやってんだ、感謝しな。親戚達と生活し始めてから何百、何千と言われてきた言葉。
かろうじて高校の学費は払って貰えてたので、言い返す事も出来ず、ただただ強い風当たりに耐えていた。
このままでは生きていけない、そう感じた私はバイトを出来る限り、体力が持つ限りやった。お金を貯めて高校卒業と共に家を出るんだ。そう決めて。
そして今日。給料日で目標金額へと手が届いたはず。唯一の未来への希望。自分で貯めたお金をATMで確認したところ、
一銭たりとも無かった。なんで、どうして。頭が真っ白になった。
絶対あいつしかいない。そう思って親戚を問いただしたところ、お前の生活費貰ってなかったから受け取っておいた。なんて当たり前のように言ってきたのだ。
どんな気持ちで、私がどれだけ必死にこのお金を貯めたと思ってるんだ。
怒り、憎しみが溢れ、とてもじゃないが大人しくなんてしていられず、家を飛び出した。
許せない、許せない!!!そんな気持ちで走り続け、泣き叫び続け、今ここにいるのだ。
◇
「…………すいません、全然関係ない人にこんな話」
「……いや」
目の前にいる美形さんは少し考え込むようにして、私の前に座り込んだ
「お前、」
「はい」
「よく頑張ったな」
優しく頭を撫でられる
全然知らない人なのに、名前も何も知らないのに
こんなに大人から優しくされたのは久しぶりで、気づけば大声を上げて私は泣いていた。
そんな私に対して彼は優しく背をぽんぽんと叩いてくれて、むしろ涙が止まらなくなる。
彼は私が泣き止むまで、隣にいてくれた。何も言わずに。
◇
「とりあえず、お前は家に帰りたくないんだな?」
「……はい」
「ちょっと待ってろ」
そう言うと携帯を持ち出して、誰かに電話をかけるお兄さん。
今って何時なんだろう。親戚は少しぐらい心配してるだろうか……そんなわけないな、有り得ない。
むしろいなくなってくれて清々してるだろう。
私だってそうだ。あの人の顔を見るくらいなら路上で寝てた方が遥かにマシ。
「……待たせたな」
「あ、はい、……えっと?」
「とりあえず今日俺の家に泊まれ」
「え!?」
何言ってるんだこの人
私とお兄さん、今さっき初めましてしたところなのに。
「そ、そんな見ず知らずの人にお世話になる訳には……」
「影山。影山飛雄だ。」
「あ………苗字名前です」
「知らない人じゃ無くなったな」
「いやそういう事じゃなくて!!な、なんでそこまで」
「話まで聞いて、見捨てられねぇだろ」
「うっ……」
この人、影山さんはきっといい人だ。当たり前のように見捨てられないって言うあたり人がいいんだろう。
「………あ、来た」
「え?」
「もう、急にこんなとこ呼び出して………電話で言ってた子ってこの子?」
これまた美人なお姉さんがやって来た。
「俺の姉ちゃんだ」
「お姉さん!?」
「初めまして、影山美羽です!今日飛雄の家に行くのよね?」
「え、えっと………」
いいのだろうか、お邪魔してしまって
「遠慮すんな。これからの事はそれから考えろ。」
「………はい、お邪魔します」
なんでだろう、この人に縋りたくなるのは。
「女の子だしいるもの色々あるわよね?とりあえずこの時間からでも揃えられるもの揃えて、行きましょうか。明日学校は休みよね?」
「は、はい」
「じゃあちょっと遅くなってもいいわね!じゃ、飛雄。また後で家に送り届けるから。」
「おう、頼んだ」
「行こっか!」
そう言って綺麗なお姉さんこと美羽さんに手を引かれた。
出会い
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